9等星
家を出る前に父親の部屋に寄る。部屋に父はいない。父は作家でいつも自分の部屋にこもり執筆活動をしているが、〆切が近くなるといつもホテルをとって缶詰になる。今日も〆切間近のものがあってホテルに泊まっているのだろう。ナツは大量に積み重なった赤いパッケージの山から1つ取り出しポケットにしまう。
さて、行くか。
家を出てエレベーターに乗り、一気に1階まで降りる。
ライジングタワーを出るともう3人とも集まっていた。ユイとイノリは浴衣、ユウキは甚兵衛を着ていた。ユウキとユイは分かるが、イノリが浴衣を着てきたのは意外だった。
ユウキと目が合う。
「え?今ライジングタワーから出てきた?ナツってライジングタワーに住んでんの?」
「まあ、そうだな。」
俺は答える。
「そんなことより、ナツ、見て。どう?あたしとイノリちゃん。いいでしょう?花火大会誘おうと思ってイノリちゃん誘ったらもう、ナツに誘われたって言うから、一緒に浴衣着て行こうってなったの。」
ユイが言う。
「てか、ナツ、パーカーって。俺甚兵衛着てきたのに。」
ユウキがちょっと不機嫌そうに言う。
「よーし、行くよ。」
ユイの言葉とともに4人は祭り会場にむかった。
たどり着くとすごい賑わいであった。様々な屋台が連なっている一本道を歩く。ユウキとユイは楽しんでいるようだ。イノリは相変わらずだが楽しんではいるのだろう時折笑顔を見せていた。一通り回り終わって、ユイが口をひらく
「花火って何時から?」
「あと15分くらい。」
ユウキが携帯の画面を見ながら言う。
「じゃあそろそろ海岸沿いに場所決めに行きましょうか。」
イノリが少し笑顔で言う。
「イノリ、もしかして花火好きなの?」
俺は聞く
「はい。でも生で見るのは初めてです。いつもパソコンで見てました。」
「そっか、良かったな。」
「はい。」
またイノリは笑った。
「わりー、ユウキ。俺ちょっとトイレ行ってくる。さき行っててくれ。」
「オッケー。もうすぐ始まるからはやく来いよ。」
「わかってる。」
ナツはみんなと反対に向かう。行先はトイレではない。ナツは周りを見渡し、目的の場所を見つける。ナツが歩きだそうとすると後ろから声がした。
「ナツくん。」
振り返るとユイがいた。
「吸いに行くんでしょ?あたしも行く。」
「あれ?ユイちゃんは?」
ユウキが後ろを見て言う。
「ユイさんもトイレに行って来るそうです。」
イノリが答える。
「そっか。」
ユウキは立ち止まりイノリの方を見る。
「イノリちゃんはさぁ。」
「はい。」
「自分がこの世界にいらないんじゃないかって思うことある?」
イノリは黙っている。
「なんかさぁ、世界が俺を認めようとしてないんじゃないかって他の人たちって何が楽しくて、何が面白くて生きてるんだろうね。」
「分かります。ユウキさんの気持ちすごく分かります。」
「ほんとに?ありがとう。ごめんね、いきなりこんな話。」
「いえ、ユウキさんの本当の気持ち知れて良かったです。」
イノリはまた微笑む。
「このあたりにしよっか。」
「そうですね。」
2人は腰を下ろす。
「俺、イノリちゃんに嫌われてんのかと思ってた。」
「そんな事ないですよ。」
「よかった。」
その時、夜空に大きな1輪の花が打ち上がった。
フィクション




