約束の先へ
——「春風優馬!」
名前が呼ばれる。
「——貴殿は警察学校全ての課程を修了し——」
「ふぅ……一つ近づきましたよ、桜さん」
春風優馬、二十歳……職業、警察官
優馬は高校在学中に警察官採用試験に合格し、卒業後は京都管轄の警察学校に入校した。
そこから約二年を経て独り立ちした警察官と認められる、桜との別れからは三年半経っていた。
長いようで短いような時間だった。
あれから桜とは会っていない、連絡は取り合っていたが寂しくなる為に控えていた。
京都市街北区、優馬の管轄エリアだ。
そして、実は桜も近くには居る。西陣織の有名地であるこの街のどこかに居る事は知っていたが、場所を知れば会いたくなる。
まだ警察官を名乗るには力不足の未熟者だった優馬は、気持ちを抑え日々鍛錬した。
優秀成績で警察学校は卒業、現場新人訓練期間を経てようやく掴み取った。
胸を張り、想い続けたあの人を迎えに行く為に。
「桜さん、会いに行きます」
少し震える手で、優馬はメッセージを一つ送った。
ピロン
「待ってます」
その一文と添付の画像に西陣織の工房と店舗の情報。
想像より近くだった。
京都に来て二年、こんなに近くに居たんだと嬉しい気持ちと共に、会えないものなんだなと笑ってしまった。
非番の日、優馬は身体に合わせたスーツを下ろし家を出る。
あの日を納めた桜のフォトフレームを見て……
寮生活も良かったが三ヶ月程前から一人暮らしを始めていた、近くなった桜との約束の為に少しだけ、寮の制限を緩めたかったのだ。
「こっちか……」
京都の街並みを歩いていく、来た当初は驚いた。
整然とした区画に言葉のイントネーションや地方特有の京言葉、乗り越える壁は決して少なく無かった。
優馬は県外から来た唯一の者だったこともあり注目を浴び、理由も正直に申告して笑われたり応援されたり嫉妬されたり……順風満帆とは言えないが耐え抜いた。
いつしか「純愛の春風警官」なんて言われてたりして、先輩達からは大変可愛がられたと思っている。
「次の角……」
鼓動は高鳴る、なんとも言えない緊張感。
警察官採用試験の合否より緊張している。
あの夏を捧げて青春を謳歌した相手、夏乃桜。
会いたくて、でも会わない選択肢は優馬を強くした。
人々を守る職業に就て大人になり、子供の頃と思春期の頃に交わした二つの約束を果たす為。
「……ここだ」
画像にあった西陣織の工房、一般人が立ち入れる場所ではないだろうが、引き返すつもりも無い。
インターホンを鳴らす。
工房奥から人影が見え、顔が見えた時……
優馬は全身が震えた。
そして……人影は一瞬止まり、走り出した。
優馬に飛びついて、優馬はしっかり受け止めた。
「迎えに来ました」
「……待ってたよ」
桜は泣きじゃくり力強く優馬を抱きしめる、優馬も離さないように抱きしめ返す。
あの夏の日、一日だけだった高校生同士の恋人の続きが紡がれたようだった。
工房奥からなんだなんだと人が出てくる。
だがお構い無しに桜は抱きしめる力を緩めない。
そのまま振り返り従業員達だろう人々に宣言をした。
「私の……愛しい人が来たの」
桜との約束を果たした日から一年が経った。
「桜さん緊張してきた……」
「もう、しっかりしてよ〜警察官でしょ?」
「いや、さすがにねぇ……」
「ね、改めてどうかな?」
桜は両手を軽く広げ少し正面を見せてくる。
そんなの答えは決まっている。
「……世界一綺麗だよ」
「……ふふ、ありがとう」
「——それでは、新郎新婦の入場です!」
あれから再開した後一年の交際期間を経て、青春の約束をした先に来ていた。
今日また一つ約束を指輪に誓う。
健やかなる時も病める時も愛すると誓い合う。
桜とならいくらでも約束を守る。
優馬は約束を守ってきたプライドがあるから。
扉が開かれ二人は歩き出す、祝福の歌が響く。
優馬と桜はあの頃のように笑いあった。
——春の風夏の桜 完




