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吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第二章

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第111話 恋に生きる者達


「――ぎゃああああっっっっ!!」


 庭園に、絶叫が轟く。


 太陽の世界で踊り狂うは、一匹の吸血鬼。

 炎に身を焼かれ、もがき苦しむ姿――まさに生への執着。

 この世界は己の居場所ではない。そんな葛藤と渇望が、その姿には現れていた。


 地獄からの脱却を絶えず志す吸血鬼へと向かい立つのは、一人の男。

 吸血鬼の天敵たるその男は、不敵な笑みと共に、もがく敗者を見下ろす。


「あああっ……!! くそ!! ちくしょうっ!! やりやがったなっ!!」


 不意の暴力。

 それも、最大の弱点たる――火。


 地を這いずり、血を舐める吸血鬼が見上げるは、最悪の刺客。

 まさか、敵がこんなところに潜んでいたとは。このタイミングで姿を現すとは。

 思いもよらない大番狂わせ。だからこその、確実な奇襲。


「人間めぇ!! 殺してやる!! 殺してやるぞォ!!」


 この時を待っていた。

 そう言わんばかりの氷の表情。嘲笑う冷笑が更なるものへと深まった時――


 追い討ちの炎が、吸血鬼へと襲い掛かる。


「――何やってるのよ。恥ずかしいから立ちなさい」


「はい」


 頭を軽く叩かれ、俺は立ち上がった。

 お遊戯会終了の合図だ。


「どうだ?」


「凄いよ。全然ダメージ入ってない」


 俺の電源ボタンをオフにしたルルワは、さっさと戻っていく。

 たったこれだけのためにわざわざ来てくれたらしい。流石還らずの森を引き返してきた女だ。フットワークの軽さが違う。

 彼氏が呼んだら、深夜でも飛んできそうだ。なんやかんや文句を言いながらも、都合の良い女になってくれそうな気がする。 

 もちろん俺が彼氏なので、そんな心配はないが。


(ん? 俺ってもしかして、結構酷い男なのか? 身の回りのお世話とか、全部ルルワにさせてるし……)


 働いてもらってるし、養っても貰っている。

 衣食住は全てルルワ頼り。まさにペットだ。

 これまで自覚していなかったが、もしかして俺は客観的に見て最悪の彼氏なのではなかろうか。

 魔王殺すくらいじゃ割に合わない気がしてきた。魔王「っ!?」


「それが完全耐性の状態だ。無論火属性以外でも同じことができる」


「天術でも同じ理屈ってわけね。かなり大きいな」


 炎攻撃を全く気にする必要がないというだけで、戦闘ではかなりのアドバンテージだろう。実際これまでの戦いでも、これがあるかないかでかなり違ったはずだ。


(秩序術(コスモス)が安定した強さって言われる理由が、ようやく分かってきたな……)

 

 こんな利便性の高い術をいくつも保有できるのなら、全く混沌術(カオス)の格下という扱いではない。

 もちろん己に合った系統、性質や余白のバランスなどを考慮する必要があるだろうが、状況対応力は混沌術(カオス)の比にならない。

 混沌術(カオス)が一撃必殺なら、秩序術(コスモス)は臨機応変だ。


「なるほど……確かに。火に関してはこれだけの専門職がもういるなら、ルルワやアワンには別の弱点属性を補って貰った方が良いかもね」


 カロスは火属性特化の術師だからこそ、火への対抗策を持っている。恐らくコスト面や威力面でもそちらの方が都合がいいのだろう。

 ならば天術師であるルルワとアワンには、聖属性の対抗術を取得して貰った方が賢い。


 俺はそんなことを考えながら、自身の身体を見下ろす。

 そこには炎を頭から被ったとは思えないほどにいつも通りの姿。

 火傷も残らなければ、火の粉すら見当たらない。

 当然服や鎖なども燃えてはいない。まさに完全無効化、完全耐性だ。


「自然な考えではあるが、やはりお手本のような誤解だな」


「え? もしかしてカロス仲間になれないの?」


 実験も終わったので、俺たちもルルワの背に続くように並んで歩き出す。

 こうして横に立つと、カロスも背が高い。まあ俺より低い男も珍しいだろうが。

 ちょっと背伸びして歩いてみるが、どこまで努力が実っているかは分からない。


「それもあるが、もっと切実だ。弱点属性の攻撃を完全に無効化できるのは、一度の戦闘に一つ限りだからだ」


「うっわ……最悪」


「最悪だな」


 つまり俺の弱点は、潰せても一つだけ。

 考えてみれば当然のルールではあるが、弱点だらけの男としてはやはり落胆を禁じ得ない。

 つまり火への対処はできても、虫への対処はできないということになる(?)。対虫魔術というものがあるのかどうかはさておき、これは由々しき事態だ。


「パーティ加入に関しては、一考の余地があるんだ?」


 俺たちが着席すると、食事はほぼ終わっており、紅茶やお菓子などが準備されているところだった。

 メイドたちには俺の存在を見られてもいいのかとか思いながら、俺もさっそく紅茶に口をつけ、対面のカロスを見る。

 カロスは離席する前にもう食べ終わっていたため、ボッチ飯などにはならずに済んだようだ。男の食事が基本的に早いのは、どの世界でも共通らしい。


「王次第だな。峠越(とおげごえ)との相性、西部での展開などを見て決められるだろう。貴様としても、それを加味して判断したいというところか?」


「そりゃそうでしょ。ピッタリな人選がもういて、塞げる穴は一つだけって言われれば、様子を見る方が賢い」


「道理だ」


 ルルワかアワンに術を取得して貰った後で、やっぱりカロスが合流出来ましたでは、勿体ないにもほどがある。

 術の構築は本来長い時間をかけてバランスを整えていくもの。気まぐれでやってしかも結局使いませんでしたでは笑えない話だ。


「だから、この問題はひとまず保留になるのかな? 後回しとは言いたくないけど」


 俺は議題の提案者であるルルワを見る。

 彼女はすぐに頷いた。


「そうね。そもそも峠越の能力も未知な状態じゃ、やっぱり舵は切れないわ」


「トバルにも言われたけど、俺ら全然準備不足だよね」


「舐めてるわね」


 このグダグダっぷりは、俺が逆の立場なら遊びじゃねえんだぞと言いたくもなる。

 教わる用意が全くできてない。ただただ真剣なだけの馬鹿だ。


「カロスが入るのが一番良い気がするんだけどなぁ……。火力に偏るけど、バランスが悪いってほどじゃないだろ?」


 物理攻撃特化、穴を空けることしかできない脳筋戦士。

 物理攻撃特化、殴る蹴るしかできない脳筋吸血鬼。

 サポート全振りの天術師。

 元素系攻撃特化の魔術師。


 主に二人のせいで些か前のめりというか今にも駆け出しそうなパーティだが、悪くない気がする。

 やはり吸血鬼の弱点である炎への対策ができる点が強い。元素魔術師もパーティに一人は欲しいだろう。


「私の立場では下手なことは言えないが…………私も、それが最も理想的な形だと思うよ」


「!」


 カップで口元を隠しながら、すまし顔でそんなことを言い出す男に、俺は驚く。

 そして、笑った。


「やっぱそうだよな。相性最悪なようで、実は俺たち相性良いもんね」


「どうかな? まだ分からんぞ」


 珍しく、俺は照れ隠しをしなかった。

 いや、できなかった。


 仲間になりたいと思われていたことが、純粋に嬉しかったから。

 これなら、友達になれる日も近いかもしれない。


「なんか……凄い仲良くなってるわね」


「はい……いつの間に?」


 そんな地元じゃ負け知らず、二人で一つの俺たちを、呆然と眺めるのが仲間たち二人。

 たった三日で「これからもお前と一緒にいたい」とか言い出すまでに至ったカロスを見て、驚いているのだろう。彼女たちは初日の会議でカロスとやり合ったというし、無理はない。

 澄ました顔で紅茶を口元に運んでいるアクレミアの方が、この場では異端だ。


「そうかな? まあ俺意外とコミュ力ある系の吸血鬼だから」


 実績としては、あのアガトスも一晩で堕としたほどだ。

 イコラオスやユウキからも、たぶんそんなに嫌われてはなかったはず。

 時間と機会さえあれば、アベルのことも説得できた自信があった。彼はタイミングが悪かったとしか言えない。


(あんな出会い方でもなければ、仲良くなれた気がするんだよなぁ……)


 あの出会いだからこそ、戦いになった。

 逆にあの瞬間だけだろう。俺たちが戦うことになる場所は。


「「…………」」


 もしかして男特効――そんなことを考えていた俺は、その視線に気づくのが遅れる。俺がようやく察知し顔をあげた時、カロスとアクレミアは目を逸らした。


(…………なんだ?)


「ならどうしてアクレミアのことは避けてるの?」


「避けてる?」


 しかしそんな些細な違和感も、やはり飼い主に呼ばれてどこかへ置き去りに。

 それが無視できない類の話題であることも要因だった。


「アワン、避けてるの?」


「あなたよ」


 どうやらアワンがアクレミアを避けているというわけではないらしい。

 良かった。この年頃の女の子同士の関係が一番見ていてヒヤヒヤするから。


「アクレミアが気にしてるの。あなたに嫌われてるんじゃないかって」


「お、お姉さま?」


 そのアクレミアの方に視線をやれば、彼女は口元をひくひくと引きつらせる。

 なんでこいつはそれをここで言うのかと、そんな顔だった。その気配だけで、この姉妹の関係性がよく分かる。きっとこれまでも、猪突猛進還らずの森逆走姉に振り回されてきたに違いない。ここは還らずの森逆走女の恋人である俺が、一肌脱ぐべきだろう。


「べ、別に嫌いとか、仲悪いとかじゃないって! 一緒にいて気まずいとか全然ないし、お前がいない時もいつも普通に喋ってるよ! なぁ!?」


「仲良し3人組で通ってるけど、実は2人になったら未だに気まずいのを指摘された時みたいにならないで」


「凄い……」


 アワンが、感嘆に唸る。

 正直俺も感動した。本当にツッコミの切れ味に余念がない。針の糸を通すような精度。流石は刺突特化の戦士。


「カロスとは普通に喋ってるじゃない。どうして意地悪するの? 何か嫌なことでもされた?」


 覗き込んでくるのは、心配げな銀の瞳。

 慈愛に満ちた表情だ。これの前には、吸血鬼の固く閉ざされた口元も緩んでしまう。キィと鳴いてしまう。だから――


「実は……椅子にされて……」


 俺は、ここに真実を語ることにした。

 これまでの、アクレミアから受けてきた数々の仕打ちを。


「え? し、してないです! わたくしじゃありません!」


「――た時に、俺の上に座ってるどこぞのイケメンを吸血鬼だって間違えたんだ。俺のことはただの椅子だって。あれが地味にショックで……」


「アクリー、話はちゃんと最後まで聞かなきゃだめでしょ?」


「駄目ですよ?」


「…………」


 スンと表情が消える。

 ルルワに非常によく似た顔立ちだが、性格はやはり違う。当たり前だが。


「なんかあれがあったせいで、俺が余計に大したことない吸血鬼に見られてるんじゃないかって……。ずっと気になってて……それで……」


 先にイケメン吸血鬼を見られてしまったもんだから、俺が余計に不細工に映ってしまうのではないか。大したことない吸血鬼に見られてしまっているのではないか。

 じゃあ椅子になるなという話ではあるが。


「辛かったわね……」


「なんてことを……ムメイさんはただでさえ、顔については評判がよくないのに……」


「アワン?」


 彼女は天然なのか本心なのか、無意識にチクチクしてくる。

 どっちにしろ本当に思ってそうなのが地味に痛い。


 左右からよしよしと甘やかされながら、俺は対面、カロスの隣に並ぶ少女を見る。

 実際のところアクレミアにあまり近寄らなかったのは、一重に彼女が近寄りがたかったからだ。

 何と言うか彼女は、出会い頭からかなり一杯一杯のように俺には見えた。それこそ、カロスの方がよっぽどマシだと思えるほどに。

 しかも分かりやすいカロスとは違い、何を考えているのかよく分からない点もいまいち踏み込めない要因だ。なんというか、直感的に仲良くなれそうにないなと思ってしまったのだ。


 後は単純に、10代の若い女の子だからというのもある。俺はそもそも初期アワンにだって自分から喋りかけたりはしていない。

 そう言う意味でも、彼女は昔のアワンと似ている。同性のカロスと同じに考えないでくれというのが、素直なところだった。


「申し訳ありませんでした。まさか12使徒を下すほどの吸血鬼が椅子にされていようとは、全く思いもよらず……。わたくしの至らなさでムメイ様を不快な気持ちにさせてしまったこと、心より謝罪いたします」


「い、いや……」


 頭を下げてまでの謝罪に、俺は珍しく取り乱す。

 王女が吸血鬼に頭を下げているところなど、見られれば百害あって一利なし。正直何を考えているのかこの馬鹿王女はと思った。およそ正気とは思えない。しかし――


「ただ、トバル様には心苦しいですが、気配の強さや滲み出る男らしさでは、やはりムメイ様が圧倒的だと思いました。あのような状況でもなければ、わたくしは決して間違えることはなかったと確信しております」


「…………」


 アクレミアは顔をあげ、真面目な顔で語り出す。

 ふざけているようには微塵も感じられない気配に、俺の顔からも表情が消えたのが分かった。


「それに……わたくしは、どちらかと言えばムメイ様の顔立ちの方が好みです。もしお姉さまという恋人がいなければ……」


「アクレミア……」


 なんて賢い王女なのだろうか。彼女は間違いなく正気だ。

 そして何故だかよく分からないが、急に仲良くなれるような気がしてきた。


「え!? ちょ、ちょっと!」


 突然いい感じの雰囲気になる俺たちに、今度はルルワが取り乱す。

 しかし彼女が本格的に動き出す前に、賢いアクレミアは引き下がった。


「もちろん冗談です……が、顔立ちが好みというのは偽りではございません。これまで出会って来た方々が、たまたま男を見る目がなかったというだけでしょう」


「アクレミア!」


 俺は歓喜のあまり、立ち上がる。

 なんて良い子なのだろうか。

 こんなに良い子には、今まで会ったことがない。

 今すぐ握手したいほどだ。いや、もう握手しに行こう。行くしかない。


 だが列に並ぶ前に、俺は妨害に合う。

 悪質な剥がしに。


「アクレミア! じゃないわよ!」


「キュ!」


 鎖を物凄い勢いで引っ張られ、強制的に座らされる。

 目を見開けば、そこにはヤクザの顔が待ち構えていた。

 

「さっき浮気はしないって言ったわよね?」


「自信ないとも言いました」


 もう少しでキスでも出来そうな至近距離だが、俺は違う意味でドキドキだった。

 少なくとも、こんな胸の高鳴りはお呼びじゃない。


「ここまで弱い(チョロい)とは思わないわよ。大人しく座ってなさい」


「キィ」


 やっぱりルルワだけは怒らせてはならない。あと俺は一生浮気はできそうにない。

 リアルに命懸けの不貞とか、小心者の俺には絶対に無理だ。


「やっぱりあなたたちは仲良くしなくていいわ。もう喋らないで」


 そして早々に前言が撤回される。

 悩める妹のために立ち上がったのではなかったのか。


「束縛の激しい女は、殿方に逃げられますよ?」


「大丈夫。首輪も鎖もあるから」


「物理……」


 どうやら、束縛を改める気はないらしい。


「もし逃げたとしても、どこまでも追いかけるから」


「化け物……」


 それどころか、地の果てまで追う気らしい。

 彼女の場合、本当に追いかけてくるから凄い。たぶんどこへ逃げようとも必ず追いついてくることだろう。怖すぎる。

 などと言うが、恋人としては非常に嬉しいのも確かだ。男女が逆のような気もするが、些細な問題だろう。


「そうですか……それは残念ですね。まあ仮にお姉さまとの関係がなかったとしても、わたくしではムメイ様のお相手が務まるとは思いませんが。それに……」


 カチャリと、カップを置く音が大げさに響く。

 なぜかその音だけは、俺には一際大きく聞こえたような気がした。


「生憎ですが、わたくしにはもう心に決めた殿方がおりますので」


 そうなのか。

 彼女も王族なのだから、当然のように政略結婚をイメージしていたのだが。恋愛結婚に芽があるのだろうか。

 だがこの匂い立つような自信は、彼女が想いを成就できると踏んでいることが伺える。こうして宣言するあたり、本気度も感じられた。


「…………恋してるんですね」


 そんなアクレミアに対し、アワンが口にする。

 その独特の気配は、俺の目には羨望のように見えた。


「女ですから」


「…………」


 何やら、アクレミアは吹っ切れているようだ。

 これまでの彼女とはかなり違う気がする。今なら、本当に仲良くなれるのかもしれない。

 だから、俺も少し踏み込むことにした。


「そういうルルワとアクレミアはどうなの?」


 似た顔立ちが、揃って俺に注目する。

 ふとした時の表情は、本当にそっくりだ。


「俺に喋ってないって言ってたけど、二人が喋ってるのもあんまり見ないような気がして」


 アクレミアが喋っているのは、大体カロスだ。次点でアワン。ルルワと喋っている時間が、むしろ一番少ない。姉妹だというのに。それとも姉妹だからなのだろうか。


「アクレミアはとっても良い子よ? 私と同じで」


「…………」


 別に信頼性が下がったとは言わないが、なんとなく素直には飲み込めなかった。


「だから仲良し姉妹なの。彼女も昔から、私のことを慕ってくれてるわ。そうよね?」


「ハイ」


「なんかカタカナじゃなかった?」


存名言無死(ソンナコトナイデス)


夜露死苦(ヨロシク)みたいじゃなかった?」


 アクレミアとしては、むしろケチがついたような気分なのだろう。

 それとも素直じゃないだけだろうか。だが、そんなことより――


「…………凄いな」


「何がですか?」


 俺は腕を組み、唸る。

 本当に凄いことに気が付いてしまったから。


「《《存》》在、《《名》》前、《《言》》葉、その全てが《《無》》い……そして《《死》》。さりげなく、俺を表現している」


「おお……」


 気付き、アワンも目を輝かせる。

 そして視線は、発言者へと。


「流石はムメイ様。そこに気が付かれるとは」


「ああ、一気に距離が縮まった気がしたよ」


 俺たちはデキる奴ら特有の笑みを浮かべる。

 互いに互いの力を認め合う。


「兄……と、お呼びしても構わないでしょうか?」


「お兄ちゃんでお願いします」


 何か本当に仲良くなれそうだ。

 今の彼女は非常に喋りやすい。そしてどうかお兄ちゃんと呼んで欲しい。

 だがその要求には、待ったをかける者がいた。


「アクレミア様は、今年で何歳ですか?」


「わたくしのことはアクレミアと、呼び捨てにしていただいて構いませんよ?」


 つい先ほどまでケーキに夢中だった少女が、ここにきて躍り出る。

 本当に夢中だった。この短時間で3つも平らげたほどだ。甘いものは別腹とは言うが、いかにいっても凄すぎる。昼飯後だぞ。


「そうですね……ルルワさんの妹ということは、私の妹でもあります。ではアクリーは、今年で何歳ですか?」


「ちょっと待ってください。何を言ってるんですか?」


「こういう子よ」


「こういう子だ」


 なぜかアクレミアはアワンの妹に。

 しかも別に許可されてもいないアクリー呼び。これでボケではないから彼女は凄いのだ。大抵がふざけている俺とは全く別種の生き物と言える。


「今年で……15歳ですが……」


「そうですか……まあ関係に年は関係ありません。これからは私がもう一人の姉です。お姉さまと呼んでください」


「何で年聞いたのよ」


 年下という言質を取ることで姉感を押したかったようだが、まさか年上とは思っていなかったらしい。色々とポンコツ過ぎる。

 しかし彼女は天然ながらも、決して馬鹿ではなかった。


「17歳が15歳の男の子に手を出すって、倫理的に大丈夫なんでしょうか……」


「そうね、年齢は関係ないわね。あなたが姉よ」


 むしろこういう時の切れ味は凄まじい。

 たぶん俺たちの中なら、一番レスバが強いのはアワンのような気がする。俺たちに八つ当たりする時も言葉の切れ味が凄かった。今となっては良い思い出だ。


「あと忠告しておきますが、ムメイさんの妹枠は私で埋まっています。こっちへ来るなら、許可を申請してください」


「分かりました。どこの窓口で受け付けているのでしょう?」


「そこからもう試験は始まっているんです」


 どこからだ。

 あと俺はアワンから申請を出されてもいなければ、許可を出した覚えもない。


「そうですね、お兄ちゃん?」


浄死(ソウデス)」 


 だが悲しいかな、浄化の力には抗えない。

 悪しき魔物が天術師に逆らえば、たちまち死が待っているからだ。

 だから対抗できるのは、同じ天術師しかいない――


「ちょっと勝手に。私は許可して――」


「15歳ということは、ムメイさんとちょうど同じくらい。年の頃も近いですし、身長差も良い。アクレミアとの方がよっぽどお似合いのように見えませんか?」


「――たわね。あなたが妹だわ」


 ――こともなかった。容易く撃退される。

 珍しくアワンが本気だ。

 どうやらそこまでして妹ポジの座は死守したいらしい。そんなに価値がある席とは思えないが。


「そういうアワン様は、どうなのですか?」


「アワンでいいですよ、姉なので」


 今度はアクレミアからアワンへと、矢印は飛ぶ。

 どうやらこのテーブルはそういう話らしい。まさかこんな形で恋バナが実現するとは思ってもいなかった。


「アワンはどうなのですか? ムメイ様とのご関係は?」


「この子達は仲のいい友達よ。よく一緒に遊んでるわ」


 アワンの代わりに、なぜかルルワが答える。

 まあ嘘ではない。最年少ということもあり、俺は結構アワンとよく遊んであげている。遊んでもらっているという見方もできるが。

 アワンは意外と鬼ごっことかガチで付き合ってくれるのだ。そのあたりまだルルワより子供らしさを残している。


「コイラスでのことは、概ね聞き及んでおりますが……特別な感情などは?」


「…………」


 彼女も空気感から仲良くなれそうだと感じたのか、結構踏み込んでくる。

 これまでの他人行儀の付き合い方が嘘のようだ。積極性がカロスと入れ替わったように感じる。


「ないわ。アワンはまだ14歳なのよ?」


「年齢は関係ありませんが?」


「…………」


 綺麗に言い返される恋する女。

 ルルワが言いくるめられてしまっては、本人が出るしかない。そう思ったのか、ようやくアワンが口を開く。


「恩義は感じていますし、尊敬もしています。けど、男の人としてどうこうは思っていないです。全然タイプじゃないので」


「え……振られた?」


 特に告白もしていないのに振られてしまった。なぜだ。

 

「生理的に無理なので」


「絶対言わなくてよかったよね?」


 全く割に合わない。

 絶対最初の一文だけでよかったと思う。


「我慢しました」


「気を使ってたんだ」


 しかも配慮してこれらしい。ゆくゆく救いがない。

 などと思いながらも、俺はどこか安心していた。


 当然だとは思いながらも、ごく当たり前の答えが返ってきたことに、心から安堵したのだ。

 その理由は、俺にもはっきりとは分からない。

 ただ、本当に良かった。


「ルルワさんとカロスさんは、どうなんですか?」


「「「!!」」」


 それは、必然だったのかもしれない。

 アクレミア、アワンへと渡ったバトンは、最後に残った男――カロスへ。

 

 急に活き活きとしだしたアクレミアの隣――全然会話に加わる様子の無いカロスへと、俺たちは目を向けざるを得ない。

 彼は珍しく、呆気に取られているようだった。


「え?」


「……え? あの……お二人も、あんまり喋ってるところを見ないような気がして。あまり仲良くはありませんか?」


「ああ……」


 明らかに変化した空気に、アワンの方が気後れする。

 彼女は察しが悪いわけではない。触れてはならない部分だったと、直ぐに気が付いたようだ。


「そんなことないわよ? ね?」


「…………そうですね。そんなことはない……と思います」


 だが、アワンに非はないだろう。

 アガトスのことでの二人の確執は、アワンには全く関係なければ、彼女は恐らく関知すらしていない。これを察しろと言う方が無理な話だ。話の流れとしてもごく自然だった。だから――

 

「歯切れが良くないな。これは腹にイチモツ抱えていると見た。腹筋も割れていると見た」


「腹筋は当然割れているが……どういう意味だ?」


「忘れてちょうだい」


 俺は積極的に馬鹿になることで、どうにか空気の軟化を測る。腹筋だが、硬化ではなく軟化だ。

 そんな馬鹿吸血鬼の登場に、ルルワと、そしてカロスまでが、露骨に表情を緩める。

 

「殿下のことは同じくダソスを守る盾として、そして悪を穿つ矛として、何よりこれからの人類を導く光として、尊敬している。女性という枠に収まらず、人としても美しく、立派なお方だ」


「え? 今誰の話?」


「私よ」


 カロスの言葉は、教科書通りと言った感じだった。しかし嫌な感じは受けない。本音ではないが、本心ではある。そんな感じがした。


「カロスは昔から、アクレミアといることが多かったわ。なぜか私の方には来てくれないの」


 カロスの態度にルルワも安堵したのか、無難な話題を見繕う。

 俺はこれ幸いと乗った。


「何か理由があるんじゃない? 例えばほら、幼き日の純粋無垢なカロスを、そのレイピアでボコボコに叩きのめしたとか」


「それはそうだけど、たぶんそれが理由じゃないと思うわ」


「それはそう?」


 恐ろしい話を聞いてしまった気がする。

 もしかしてアガトスの件がなくとも、彼女は嫌われているのではなかろうか。


「じゃあなんで?」


「さあ? なんででしょうね」


 微笑むルルワが、アクレミアとカロスを同時に見る。

 カロスは特に表情を変えなかったが、アクレミアの視線は若干冷たいような気がした。


「もっとルルワの昔の話が聞きたいな」


 再び低下の気配を見せた空気に、俺は些か強引に話を戻す。

 ルルワは自身の過去に興味を持って貰えたことが嬉しかったのか、目に見えて気分が良くなった。

 それからしばらく、ルルワの幼き日の話を聞く。


「――だから物心つく前の方が、カロスと一緒にいた時間は長かったみたい。それにアガトスが私の剣の指南役だったから、それでカロスとも一緒に訓練することが多かったわ」


「え? カロス剣もできるの?」


 少々強引ではあるが、無理やりカロスの話題へと食いつく。

 しかし驚いたのは、嘘ではなかった。


「殿下ほどではないが……多少はな」


 どうやら本当に剣も扱えるらしい。

 生粋の元素魔術師だという話なのに。才能マンが過ぎる。


「俺も見て貰えない?」


「欲張りが過ぎるぞ?」


「魔術師の本懐だから」


「そうだったな」


 欲望こそ力だ。

 俺は前々から、実は剣も扱ってみたいと思っていたのだ。


「だが諦めろ」


「え?」


 侍タイプで行くか、パワーを活かして大剣タイプでいくか――そんな妄想は、まさに一刀両断される。


「貴様に才能はない」


 それも、頭から足先まで真っ二つだった。


「またまたぁ……俺は結構センスある設定のはずだよ?」


 そのはずだ。

 なんたって異世界転生者なのだから。


「じゃあ剣を持ってみろ」


「ん」


 ルルワがレイピアを引き抜き、ポイっと投げ渡して来る。

 相変わらず、吸血鬼に銀武器を渡す警戒感の無さ。だが今だけは、そんなことは気にならない。

 俺は宙を舞う銀の煌めきに合わせるように、飛び上がった。


「ふっ!」


 そして意味もなくその場で宙返りを披露し、華麗にレイピアをキャッチ。


「はっ!」


 最後はテーブルから数メートルの位置に着地を果すと、渾身の刺突を披露した。


「ない」

「ないわね」


 二刀両断。

 三枚おろしの完成だった。


マジ?」


 正直かなりの自信があった。テーブルにはぶつかっていないし、椅子さえもひっくり返ったりはしていない。周囲に影響を一切与えない、完璧な動きだったはずだ。

 それが、ルルワまでも。


「もっとちゃんと見て判断してよ。はっ! や! キィ!」


「ないですね」

「ないです」


 ルルワの動きを思い出して、そのイメージ通りに体を動かして見るが、結果は無惨だった。アワンとアクレミアまで加わり、4刀。細かくミンチにされる。


「じゃあアワンやってみろよ……」


 俺はちょっと本気で不機嫌になりながら、アワンにバトンを渡す。

 彼女はレイピアを受け取ると、軽くその場で振った。


「結構センスあるわ」


「ああ、悪くない」


「はあ?」


 これには流石の俺も、キィとは言えなかった。

 だってただ軽く素振りしただけだ。手に感触を馴染ませるように、本当に軽く。

 そんなので何が分かるというのか。俺なんかただ振るだけで風を起こしてみせたというのに。

 俺は再びレイピアを奪い取ると、今度はアワンの真似をするように振ってみる。


「あなたは得物を持たない方がいい。本当に、これっぽっちも、壊滅的にセンスがないから」


「本当に絶望的だ。これほどセンスの光らない者は、未だかつて見たことがない。さっさと得物を取り上げたいくらいだ」


「レイピアが泣いてます」


「心なしか、輝きも鈍く見えますね」


「キィ……」


 解せない。見ただけで何が分かるというのか。

 別に変な動きはしていない。それどころか、漫画とかアニメに近い動きまで完全再現していたはずだ。こんなことができる者が、早々いるとは思えない。


「あれほどの肉弾戦の才能を有していて、これほど武器が合わない者も滅多にいまい。逆に凄まじい才能だ」


「別にいいし……そもそもそんな時間ないし……」


「その通りだな。むしろ下手に才能が無くて良かったくらいだ」


 やはり、俺に天才設定はなかった。

 まあこれ以上の高望みは罰が当たるというもの。忘れるしかない。ただ、忘れてはならないこともあった。


「あ、そうそう。今後の鍛錬のスケジュールってどんな感じ?」


「なんだ? またか?」


 お昼の休憩時間も終わりを迎える頃、俺は切りだす。

 決して忘れてはならない重大事項だが、カロスは聞く前から嫌そうだった。流石に何度目かなので、もう予想はつくらしい。


「一日、いや半日でもいいから休み時間が欲しくて。ルルワと話したいことがあるんだ」


「「…………」」


 俺の発言に、カロスは当然のこと、隣のアクレミアも何やら考え込む。

 自覚はしていたが、色々な面から考えて、やはり難しいお願いのようだ。


「彼のために頑張ってくれてるのにごめんなさい。国が定めた条件は破らないようにするから、何とかならないかしら?」


 ルルワも無理を言っている自覚はあるのか、フォローする。

 そもそもルルワの部屋での逢瀬も、彼らが目を瞑ってくれたのだ。他にもトバル達との鍛錬についてなど、我儘を言い過ぎている。カロスの立場からすれば、怒ってもおかしくはない。


「…………いえ、そういうことならなんとか時間は作りましょう。ただ、今日は無理だな」


「どうして?」


「ナアマに風の元素について、監督役を頼んでいる。先に約束した方を優先するのは当然だろう?」


「そうだな、当然だ」


 それは本当に当然だ。 

 しかもこれまた俺が無茶を言って頼んだ風の並行修行に関して。

 これを取り消してルルワの方を優先はいかに言っても我儘過ぎる。俺が仕事相手なら、もう絶対に関わりたくないレベルだ。現時点で危ういが。


「ただそちらも重要なようだ。何とか明日に捻じ込めないか、調整してみよう」


 ルルワと視線を合わし、確認し合う。

 文句など、あるはずもなかった。


「ありがとう、カロス」

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