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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
三章 青春の情熱
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16 鬼ヶ島の鬼

16 鬼ヶ島の鬼

 桃太郎たちの村から海岸までは、徒歩で半日程の距離があった。

 そこから沖合に三里ぐらいの場所に、周長十里程の小さな島が浮かんでいた。それ自体は何の変哲もない平坦な島だが、そこには百匹もの鬼が棲んでいて、村人からは鬼ヶ島と呼ばれ、恐れられていた。

 その無人島に鬼共がいつから、また、どこからやって来たのかは茫漠としていたが、村の伝承によると、少なくとも二百年程前には、鬼ヶ島の存在は知られていたという。しかし、それ以上の詳しい事情は全くの謎に包まれていた。

 鬼がその小島の中だけで大人しく暮らしている分には、何の問題もなかったのだが、いつしか、船を作って、海を渡って、近隣の村々を襲い始めたのだった。

 当初、鬼は島で獣を狩ったり、木の実を拾ったりして、細々と自給自足の生活を送っていたはずだった。しかし、文化的な人間社会の存在を知ってからというもの、もっぱら、そこから財物を収奪するという悪辣な手段で、彼らは生計を立てるようになった

 その迷惑を受ける村々にとって、鬼はまさしく有害無益な存在に他ならなかった。しかし、凶暴な鬼が百匹もいては、貢物を差し出せと命じられれば、唯々諾々と従わざるを得なかった。不幸にも、桃太郎のいる村は、鬼ヶ島と地理的に近かったために、毎年毎年、大きな損害を被っていた。

 昔は、といっても三十年前とか五十年前の話であるが、秋の収穫期になると、十匹ばかりの鬼共が船に乗って来て、足音もとどろに村まで押し寄せて、穀倉を壊しては食料を奪ったりした。

 しかし、ここ最近では、双方の黙契の下に、村人たち自ら貢物を差し出しているという状態が続いていた。年に一度、穀物や布や調度品などを船に積んで、鬼ヶ島にまで運んで、そうすることで寛大な処置を乞うという屈辱的な行為をしていたのだった。

 それは村人たちにとって、物質的にも精神的にも、決して軽くはない負担であったが、鬼共の群れに村を襲われて、家に火をつけられたり、田畑を荒らされたり、若い娘をさらわれることを思えば、まだましであると言わざるを得なかった。

 もちろん、そのようなやり方に対する不満の声は、特に若い世代の男を中心に多々あった。

 物事の道理から言って、脅されて貢物を献上するなどという行為を許容できるはずはなかった。また、実際面の話としても、そのようなことをしても、鬼の繁殖を幇助しているだけであり、今後の状況は増々悪化していくばかりで、自分で自分の首を締めているのと同じ愚かしい行為だろう。

 それは理屈としては正しかった。そのことは、村の誰もが理解していた。しかし、かと言って、献上を止められるかとなると、話は別だった。止めるわけにもいかないということも、村の誰もが理解していた。

 もし献上を中止すれば、怒った鬼がすぐにでも押し寄せて来て、より酷い目に遭わされるというのは、火を見るよりも明らかだった。そいうわけで、結局のところは、献上を続けるしかないという結論に落ち着くのであった。

 村の至る所で、そのような不毛な堂々巡りの議論が行われた。憤懣はくすぶりつつも、この数十年間は、貢物の献上は続き、鬼ヶ島と村との間では、安閑と言えば安閑と言えなくもないという関係が維持されていた。


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