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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
三章 青春の情熱
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14 夜分の来訪

14 夜分の来訪

 お婆さんはお爺さんをつかまえて、桃太郎の結婚の企てについての話を持ちかけた。

 いきなりのことなので、お爺さんは驚いた。そして、

「桃太郎に嫁を持たせるなど、まだまだ早いのではないか」

 と言って、当初はあまり積極的ではなかった。しかし、お婆さんの説得を受けているうちに、

「なるほど、確かに、そのような考え方も一理あるかも知れぬな」

 と徐々に軟化してきて、最終的には賛成の意を表するに至った。

 二人はさらに相談を重ねて、その結果、一度、花江の父母とも会って、その心中を打診することと、またその前に、桃太郎本人の意思を確かめておくことの二つの事柄を決めた。

 そこまで話が進んで、お婆さんは一安心した。ただ、お爺さんは同調しているものの、まだ踏ん切りがついていない所があって、予定をズルズルと先延ばしにして、何事もなく一週間程も経過してしまった。

「まだですか。こういうのは早い方がよいのですよ」

 とお婆さんはヤキモキして促した。そのようにせっつかれて、お爺さんは、桃太郎の意向を訊くぐらいのことはしておこうかと思って、

「うむ、分かった。では明日の朝にでも、わしの方から桃太郎に話しておく」

 と取り決めた。

 しかし、そのように事は運ばなかった。

 ちょうど、その日の夜のことであった。

 お爺さんとお婆さんは、夕餉を済ませた後、夫婦の部屋で二人一緒に茶をすすりながら話をしていた。話題は当然、桃太郎の結婚のことで、先方への礼物を何にするかや、衣装をどうするかなどを相談していた。

 その時、木戸の向こう側で足音がしたかと思うと、

「お爺様、お婆様。少々、お時間、よろしいでしょうか」

 という桃太郎の声が聞こえてきた。

 二人は話すのを止めて、「はて、何だろうか?」というように顔を見合わせた。こんな遅い時間に桃太郎が夫婦の部屋を訪れるなど、滅多にないことだった。

 ともかく、お婆さんは湯飲み茶碗を床に置くと、

「桃太郎かえ、お入りなさい」

 と自ら戸を開けて、桃太郎を部屋の中へ招じ入れた。

 桃太郎は家の中でも行儀のいい若者であるが、その時は普段にも増して、何やら物々しい雰囲気まであった。床に膝をついて、二人の前で一礼すると、

「夜分、恐れ入ります。明朝にしようかとも思ったのですが、早い方がいいかと思いまして……」

 と静かな口調で言った。

 お爺さんはその桃太郎の様子を見て、心中、穏やかならぬものを感じた。ある一つの懸念が胸をよぎった。

 桃太郎は驚く程に明敏な頭脳を持つ子なので、二人が企てている結婚計画について、何かを勘づいたのかも知れなかった。そして、その話を持ち出される前に、機先を制するように、断りを入れようとしているのではないか、という当て推量をお爺さんはした。しかし、ともかく、この場は桃太郎の話を聞いてみるしかなかった。


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