40話:エルダードワーフ
坑道の中を進み、ドワーフを次々と倒していく。
地面に転がった土の魔石や素材を拾いつつ、順調に進んでいると、物々しい鉄扉に突き当たった。
この扉の先が『堀小人の坑道』一階層のボス部屋だ。
「やっと着いたッスー」
「さっきも言ったが、ココで終わりじゃないからな?」
俺は坑道を歩いている途中、各階層にボス部屋が存在している事や、一階層のボス部屋に入ると五階層のボスを倒すまで『堀小人の坑道』内から出られない、という事を全員に伝えていた。
「それで、どうする? もう入るか?」
「拙僧は問題ない」
「ワシとしては早く鉱石が欲しい」
「じゃあ、行くッスよ!」
「……そうだね。」
俺が右手を扉に当てて後ろを振り返ると、四人は意を決したような真剣な面持ちで、それぞれ武器を構えていた。
この扉を潜ったら踏破するまで退路が絶たれる。
四人はその事の意味がよく分かっているみたいだ。
俺は扉に当てた右手に力を籠め、そのまま扉を奥へと押し込むと、先には大きな空洞が広がっていた。
壁には透明な鉱石が剥き出しで埋まっており、その鉱石が光源となり、空洞内を照らしている。
空洞内の壁付近の地面には使い捨てられたように錆びたトロッコが散乱し、空洞の中央には巨大な四角槌を両手に持つ身長三メートルはあろう巨大なドワーフが居た。
『堀小人の坑道』のボス、『エルダードワーフ』だ。
ボス部屋の扉が閉まる前に一つだけ確認することがあったのを思い出し、チラリと後ろを一瞥する。
そこではミャオが全身の毛を逆立て震えていた。
隣ではリヴィが顔を青くして震えており、ゼムとヘススは眉間に皺を寄せながら目を見開いている。
その理由は、エルダードワーフから出ている黒い靄だ。
……難易度六等級以上のボスには、“コレ”がある。
エルダードワーフから出ている黒い靄のようなものは、殺気、『恐怖』のデバフを付与する魔素の放出だ。
靄を耐えるには<MEN>を上げるか、エルダードワーフのレベルを大きく上回る以外に方法がない。
まあ、エルダードワーフくらいならまだ大丈夫だろうが、難易度八等級~難易度十等級のボスになってくると、今の四人ならただ見ただけで、吐くか気を失うだろう。
IDO時代のプレイヤーですら動けなくなったのだから。
俺は大盾のフチで思い切り地面を叩いてから、エルダードワーフに向かい駆け出す。
地面を叩く音でハッと我に返ったリヴィは、手に持っていた本を急いで開き、全員に『バフ』を掛けた。
駆け出した俺はエルダードワーフの左側へ、そしてミャオとゼムはエルダードワーフの右側へと移動し、背後をとる。
ヘススとリヴィには、ボス部屋に入ってすぐの場所で待機するよう指示を出していた。
持ち場に到着した俺が『チャレンジハウル』を放つと、エルダードワーフは一気に間合いを詰めてくる。
そして右手に持った四角槌を振り下ろしてきたので、タイミングを合わせて『シールドバッシュ』でパリィした。
弾き返しはしたが、エルダードワーフは体勢を崩すことなく、左手の四角槌で横に薙ぐように振ってくる。
俺は咄嗟に大盾を自分の体に密着させガードした。
腰を落とし踏ん張るが、数メートルほど地面を滑る。
<STR>つっよ。
俺は滑らされた分、数歩前に出るとエルダードワーフは両手を振り上げ、両方の四角槌を地面に叩きつける。
すると、四角槌が叩きつけられた地面から円錐状の鋭い岩が、俺を目掛けて伸びてきた。
俺は大盾を正面に構えると、伸びてくる円錐状の岩に『パワーバッシュ』を衝突させる。
先端から岩が砕けた瞬間、エルダードワーフは再び俺との距離を詰めてくると、右手の四角槌を振り下ろしてきた。
今度は『シールドバッシュ』でパリィせずに『オーバーガード』を発動し、真正面から四角槌を受け止めると、俺の足下の地面にヒビが入る。
うん、滑らないな。
これなら……。
「ハハハッ! 愉しくなってきたな! おい!」
俺は四角槌を押し退けながら叫んだ。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
アタシは全身の毛を逆立て、恐怖していた。
あんな化物に適うわけない、と。
その時、タスクさんがチラッとこちらを見たかと思うと、手に持っていた大盾を地面に叩きつけ、エルダードワーフの左方向に走っていった。
それと同時に体が軽くなり、力が湧いてくる。
これは……リヴィの『バフ』ッスね。
いつも凄い助かるッス。
アタシは感謝の言葉をかけようとしてリヴィの方を見てみると、いつものオドオドとしている様子は無く、鋭い目付きでエルダードワーフを見つめていた。
リヴィはアタシの視線に気付いていないようだったので、アタシはリヴィから視線を外し、エルダードワーフに向けると、タスクさんが行った方とは逆側へと駆け出した。
いつものように『メルトエア』・『イーグルアイ』・『オートエイム』を発動させながら走り、エルダードワーフの後方で足を止める。
とりあえず、撃ってみるッスかね。
アタシは『パワーショット』を発動させ、矢を放つ。
放った矢は一直線に飛んでいき、エルダードワーフの体にに当たると、弾かれ、地面に落ちた。
刺さるどころか服に穴すら開いていない。
アタシはすぐさま魔法鞄に弓を仕舞い、ミスリル製の短剣に持ち替えて、エルダードワーフの足元へ駆け出した。
そして『コンパクトスラッシュ』でエルダードワーフの足首を切りつける。
服は切れたが、覗く皮膚には傷一つついていない。
また私は役に立たないんッスね。
上位職になったからって完全に浮かれていたッス。
やっぱりアタシはアタッカーには向いてないッスよ。
そんな事を考えながら、アタシは辺りを見渡す。
タスクさんは笑いながらエルダードワーフの攻撃を真正面から受け止めたり、器用に弾いたりしている。
ゼムさんはエルダードワーフを思い切り大槌で殴り、鈍い音を響かせている。
ヘスさんは<闇属性魔法>スキルを放ち、リヴィはリキャストタイムが空けるたび『バフ』を掛け続けている。
みんなは心が強いッスね……。
アタシはこんな化け物に勝てる気がしないッスよ。
ボス部屋の前で、行くとか言うんじゃなかったッス。
もう出られないし、アタシはここで死ぬんッスかね。
(お前、自分のスキルだろ)
その時、ふとタスクに言われた言葉が頭をよぎった。
アタシはステータスウィンドウを開き、<暗殺者>と<弓術>のスキル詳細を食い入るように見ていく。
これってこんなスキルだったんッスね。
こんなスキルもあったんッスね。
ちゃんと見ておけば良かったッス。
あれ? ……これって……もしかしてッスけど。
アタシは短剣を魔法鞄に仕舞い、再び弓を取り出す。
そしていつものように……ではなく『メルトエア』と『イーグルアイ』のみを発動させた。
そして――。
<暗殺者>スキル『ジールケイト』:急所を可視化する。
――発動。
エルダードワーフの体の数か所に小さな光る点が見える。
<暗殺者>スキル『ウィークアタック』:急所に攻撃した際、威力上昇。
――発動。
弓を握った手に力を籠め、弦を引き絞る。
<弓術>スキル『ピンポイントショット』:精密度を上げる射撃。
――発動。
綺麗な一本の線を空中に描きながら矢は一直線に飛んでいき、『ジールケイト』で見えていた光る点に当たった。
……刺さったッス。
エルダードワーフの首の裏、うなじの近くにアタシが放った矢が確かに刺さっている。
それを見たゼムさんは殴る手を止め、アタシを見てくる。
ヘススは相変わらず無表情だったが、刺さった矢に向かって<闇属性魔法>スキルを放っている。
タスクさんははエルダードワーフと真正面で打ち合いながらも、アタシに笑いかける。
リヴィがこちらを向いて微笑むと小さくピースをする。
アタシもピースを返した後、再び弓を引き絞る。
アタッカーって愉しいッスね。
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