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緑の指を持つ私と  作者: 美輪
16/18

ケインは知っている

短いです

ハンスの見た目は本当に王子様の様だ。

ケインはいつもそう思っていた。


金髪のその髪はサラサラと顎ラインで揃えられ、スッとした鼻梁は冷たく感じさせる雰囲気を持つ。

剣を握らせると細身の体型の癖にしなやかな動きで相手を追い込み、接近戦での押しに負けない力を出す。

馬丁の息子として2人が女将に拾われたのが10年前。

当時は戦争孤児で2人でグルをして犯罪紛いの事ばかり行っていた。

貴族の馬車から金目のものを盗んだり、食堂の無銭飲食をしたり。戦争孤児の行き着く先はあの当時悲惨で、捕まれば奴隷とし売られるか、牢獄での強制労働が待っていた。


生きていくスキル自体が皆無だった俺たちは明日をも知れない日々を暮らしていた。

体が大きくなると、多めに見てくれていた住民たちが目の色を変えて、通報する様になってくる。

侵した罪の内容が深刻になってきたことも一因だが、そんな時馬丁の女将に取り押さえられた。


女将は俺たちに食事と寝る場所を提供し、代わりに仕事の手伝いをさせる様になった。


反抗気味だった俺よりもハンスの方が先に女将に懐いていった。

ハンスは時折見せる人懐っこい笑顔で皆んなを懐柔していくのだ。

昔からそう。ハンスの方が綺麗で知的で、悪巧みの連中も一目置いていた。


俺は一人で鬱々と悩んでいた。


女将はハンスばかり気にかけている。

俺のことよりも、ハンスが好きだろう。俺はいらない子じゃないか・・・・・

余計なことばかり考えていた俺はある日仕事でポカをした。

馬丁の皆にに迷惑をかける様な大事故だった。


ハンスはそんな時俺に声をかける。


「馬蹄の女将は手の掛かるケインばかり可愛がるなあ。僕のことなんか、いつも気にも止めていないよね。ケインはワザとしてるんじゃないかって、疑いたくなるよ。」


俺は驚いた。


そんなバカな話はない。女将は出来のいいハンスが1番好きだぞ!と。

今なら分かる。


ハンスは俺に気持ちを吐露させるための機会を作ってくれた。



俺たちは成人したが、ハンスを1番頼りにしていることに変わりはない。あの腹を割って話す機会を得てから、俺は変わった。ハンスの気持ちの機微にも目を向ける様になったのだ。



ハンスの見た目に15歳くらいから、女の子も寄ってくる様になった。

村で1番胸のでかいキャシーも、温泉宿の次女のお色気たっぷりマリーも皆ハンスの気を引こうと必死だ。


しかし、ハンスは浮いた話は1つもない。

どの女の子がアプローチを掛けても、その時だけは異常に冷たく、跡を引きずらない様にバッサリとした対応でお断りをしていた。


恋に破れたお零れ(おんな)を俺はプライドなく頂戴し、マリーで妖精どーてーも無事に卒業した。


ハンスは眉ひとつ動かさず、マリーの幸せを祈ってるよと笑っていた。

嫌味ではなく、本気で言っていることは俺にも分かった。

そして、しばらくして思う。



ハンスはもしかして、男色家なのでは?


俺はその考えに至った日に尻に力が入る。


迷わず仕立て屋のおっさんの家で相談したが、

「大切な女性が現れるのを待つタイプなんだよ」

と俺の懸念は一笑に付された。



ハンスにも女を紹介するぞ?と声をかけるが、困った様な顔をして

「自分が行きたい女性を見つけるまではもう少しこのままでいたいんだ。」

と断られた。


お年頃で猿の様になっていた俺には理解不能だったが、20歳を過ぎる頃にはハンスの気持ちを汲んでやることは出来るようになっていた。



ある日は、貴族の未亡人自ら媚薬の小瓶で誘惑をかけたが、ハンスはあっさりと夫人を納屋に一人閉じ込めてしまい、小瓶を取り上げた。



「ああいう香水臭いのが1番気持ちが悪い・・・」

眉を潜めて唾棄する様子で独り言ちた。



その日書類の関係で村長の所に来ていたジョゼフ様にその薬は渡ったようだった。


そんなハンスが、ジョゼフ様の森の家の警護を頼まれた辺りから少しずつおかしくなっていった。


スイ様を森で確認したその日、ハンスは今まで見たこともない程満面の笑みを浮かべ、「僕の妖精がいた」とふふふふと笑っていた。

その声は小さくて誰にも聞こえない程のボリュームだったが、聴力の異常に良い俺には聴き取れた。



風呂場からその日以降異国の歌が聞こえる。


それはスイ様が森の家で口ずさんでいたものばかりで流石の俺もドキリと心臓が跳ねる。


先ずハンスは歌なんか歌ったことがない。

シャワーの音とともに、リズムに乗ったハンスの声が反響する。



『○億年と!○年前から!愛してる〜』


スゲェ歌詞だ・・・・・

音程が定かじゃないので呪詛みたいに聞こえる・・・・




そして、何が怖いって物静かなハンスがノリノリでリズムをとっている。



水音・・・・


呪詛の歌・・・・


水音・・・・



呪詛の歌・・・・






普段何も変わらぬ態度を取っており、馬丁の女将も気づいていない。



俺は震えた。


ハンスはスイ様に何かしらの執着を見せているに違いない。



ジョゼフ様にお祝いの言葉を述べながら、スイ様の観察を続けているのだ。



1泊目の宿屋でその日記を見つけた俺は手が震えた。


ハンスが風呂に入っているのを確認して、俺は一冊のノートを開く。



そこにはスイ様を褒め称える言葉の羅列とスイ様の似顔絵が描かれていた。



『紺月20日、

今日も可愛らしいスイ様が、砂場に不思議な円を書き込んでいる。

こうして見ると幼子が、砂遊びをしているようで微笑ましい。しゃがみこみ、勿論僕が木の陰に立っていることすら夢中で気がつかない様子。


しかし、出来上がったものは非常に完成度の高い魔術要素が強そうなものだ。


文字は解読不能。

大きな円の中心に立つと胸元で手を合わせた。不思議な手の合わせ方だが暫く何かを唱えると手をバチんとあわせた。


!!!


何も起こらなかったが、僕が見ていた限り一瞬悪魔が呼び出されるのでは?

と思わせる気迫だった。


スイ様が項垂れながら


エ○様頼むから力貸して〜

真理の扉はこれじゃ開かないの?・・・・あ〜味噌食べたい・・・



と呟いている。



少し悲しそうだが、しゃがみこんだ時の下着のお色は赤だったことは記しておこう』




ある日の日記にはこのように書かれていた。



下着のお色って・・・・・・





ハンスの偏執的な中身に気付いたが誰に相談して良いかも分からない。

第一村から遠くに離れた今知り合いがいない。



ジョゼフ様にいきなり話してはどんなお咎めがあるかも分からない。


何せ手を握られただけで、射殺さんばかりの視線を投げてくるのだ。




どうしよう・・・・





ハンスの核心に触れたことによる恐れにオロオロしながらノートを元の位置に戻した。




胸に小さな爆弾を抱えたまま、ケインも眠れぬ夜を過ごしたのだった。





もう一人の変態が描きたくて。

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