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緑の指を持つ私と  作者: 美輪
13/18

甘やかな時間

何故か書き上げた文章が二回も消えて心が折れ掛けました。

放心してはまた書いて・・・を続けていました。

私は夢を見ていた。

それは誕生日の夜の記憶。


8歳の誕生日は商社で忙しく働く父が珍しく揃って夕食を摂ることになり、幼心に大変興奮した。


私の為に、寝ていない時間に父が帰ってくることが嬉しくて、学校から帰ってくると私は興奮を母にも伝え、バタバタとお気に入りのワンピースに着替える。


夕食には父から大きなプレゼントを渡され、母はハッピーバースデーを歌う。

滅多に聞かない父の声も音楽に乗りドキドキした胸をグッと手のひらで抑える。

部屋の電気が消されると、満を持して母が特別に注文したというケーキが運ばれた。

ロウソクの火が揺らめき、嬉しくて嬉しくて私の頬は痛くなるほど口角が上がっていた。


『あっ!!!』つい声が出てしまった。


ケーキは真っ白な生クリームではなく緑の不気味な色のものだった。


父の顔も驚いて引きつる。



謎の物体だった。




いや、今ならハッキリと分かるのだがあれはドラゴンボー○のピッコ○大魔王の何かに違いないのだ。


緑のヌメッと感が上手くゼリーで表現されており恐らく卵の様なイメージ・・・・自分でも『恐らく』と言う言葉を乱発してしまう程不気味なものだった。



母が中華料理店で特別オーダーしたそのケーキらしき食べ物は誕生日の私のテンションを著しく下げまくった。



「なんで普通のケーキにしなかったんだ?」


普段穏やかな父が明らかに怒りの色を声に乗せる。


母は敏感に感じ取り、自分のサプライズに家族が喜んでいない事を怒り始めた。


「スイはケーキ食べたいイッタ!!!ワタシトクベツよーいしたよ!!!2人ともなぜオコル?!?!」


「僕は普段一緒にいられない事の方が多いだろ?普通が良かったんだ。」



「ワカラナイ!!!ワタシハ、スイの喜ぶシタ!!!イッショウケンメイよ!!!」



因みに私は喜んでいない・・・



記憶はここで途切れている。


想像ではあるが私は母に、『こんなケーキ食べた事ない!ありがとう』

やら

『食べてみたら意外とイケるよ!!!』

など口八丁を並べ、父にも母にもご機嫌伺いをしまくったに違いない。


この事件は私の性格を諸に表している。


穏やかの父の性格をそのまま引き継ぎ、波風を好まない。

相手の意見を聞く前に自分の意見を主張しなければ生きていけない!と豪語する母とは真逆だ。


家族でいつも母の気性に注意を払っていた自覚は物心ついた時からあるのだ。


だが、私たちはそんな母を愛してやまない。


外から見れば激しく、付き合いにくい人間の様だが、懐に入って仕舞えば驚くほどの愛情を注がれる。


母は私たちが悲しい目に合えば、誰よりも怒り、悲しみ、苦しんだ。

表面に感情を表せない私たちの代わりに、心を塞きとめる事なく解放する・・・・解放しまくる母に何度も心が救われた。



夢の中で母が泣き笑いを浮かべ一生懸命に言う。


スイが喜ぶのが1番だと。







「お母さん・・・・・・」




自分で呟いた声は思ったよりも大きく、その声で目覚めた。









モリスバッグはフランセとはまた違う空気の街だった。

銀と銅、鉄の産出があり、その山を切り開いたことによる街の発展が大きく影響している。

加工するための工房が発展し、商業の街として今尚栄えている。


『武具を買うならモリスバッグ』と言った幟がはためき、アクセサリーの有名なデザイナーのチラシがあちらこちらで配られていた。


鍛冶屋や武具の店からは傭兵らしき体躯の良い男たちが出入りし、アクセサリー屋の前では華やかな帽子を被った淑女たちが談笑しながらウィンドーを覗いている。

日中の活気が圧倒的にあり、私も見ているだけでもワクワクした。


ジョゼフはこの街で大斧のメンテナンスを頼む予定にしているらしく、目的地の1つは鍛冶屋だ。

そして私をアクセサリーショップに案内したいと仕切りに誘ってくる。



ケインもこの街に来たら必ず寄った方がいい、とおしてくるので私も勢いに押されて頷いてしまった。




街中から少し外れの煉瓦造りの頑丈そうな工房がマルコ親方の鍛冶屋だ。



馬車が入り口に止まると白髪の品の良いお爺さんが出てきた。


「そろそろお見えになるころだと思ってましたよ。」

肩までの髪を後ろで1つに括り、刀匠とは思えない優しげな瞳のその人がマルコ親方だ、と挨拶を受けた。

私もペコリと頭を下げると優しそうな老人の前で自己紹介をする。

優しそうな笑顔のままに親方は「黒曜石の妖精かと思いましたよ。」と私を眩しそうに見つめた。


「実は先日婚姻を結んだのだ。」と告げればマルコ親方は驚いた様に目を見開きとても喜んでくれた。

「鋼の絆よ永遠となれ」

そう私の前で呟くと大きな剣を二本重ね大きく撃ち鳴らした。


驚いて肩を竦めた私にジョゼフは肩を抱き

『刀匠に許される祝いの儀式だ』と教えてくれた。




「久しぶりに大斧を見てもらえるか?今回はゼルダクエスト侯爵邸に滞在の予定なんだが。」



ジョゼフは大斧をケインから受け取ると親方にカバーの布ごと渡した。


マルコ親方は大斧に指先を這わせながらゆっくりと視線を全体に向ける。


「あまりお使いになられてませんからなぁ。3日いただければ十分ですが、お届けは如何なさいますか?」

「侯爵邸まで頼めるだろうか?」

「かしこまりました。3日目にお届け致しましょう。ジョゼフ様が宜しければ今回私の弟子に此方を見せたいのですが、許可して頂けますかね?」

「!親方も遂に弟子をとったのか?何と目出度い!!!」

親方はふふふと笑うと、こんな偏屈オヤジの元でも学びたいという男が現れましてな・・・と窯の側に居る青年2人を呼びつけた。

まだ10代そこそこの銀髪の青年たちは、手拭いで顔の汗を拭きながらおずおずと前に進みでる。

親方がジョゼフと大斧のことを話すと2人は頬を一気に紅潮させ口早に質問を始めた。


やはり本にも描かれる様な有名人なのだ。若い男の子なら気になって当たり前よねぇ・・・・と私もジョゼフに改めて尊敬の眼差しを向ける。

大斧の話から戦の話と、青年たちは初めの印象よりずっと積極的になってきた。

男同士の盛り上がった雰囲気に思わず苦笑しながら、私はジョゼフたちを邪魔しない様に工房の方へと数歩下がった。



工房の中には壁一面に剣や斧が吊るされており、窯の方からは離れていても熱気が漂っている。

ギョッとするほどの大きな刀身に目を見張りながら、包丁ほどの柄が美しい小刀を眺めていると親方がいつのまにか隣に並んでいた。


身長は私より少し高い位で、細身のその人は煤で汚れたシャツを着ていなければお花屋さんでも通りそうな柔らかい物腰だ。


「貴女のその瞳は黒曜石の様ですな。我が街では中々見ることは叶いますまい。」

視線が私のロングヘアにも向けられているのを感じ私は言い訳がましく俯きながら話す。


「私はニホンという小さな島国の出身です。此方の国ではこの瞳も髪の色も珍しいですよね。」


この旅が始まり改めて気がついたのだが、この国の人たちは皆んな色素が淡いのだ。


髪の色も濃い色の人はまだ見たことは無く、ジョゼフが1番濃いくらいだ。美しい銀髪や金髪。

薄い茶色と言うより琥珀の髪色が殆どだ。

瞳の色はビー玉の様に透明感があり、私から見るとこの世界の人達の方が妖精の様に感じる。

白色人種とも違う雰囲気で肌は褐色。

フランセの宿で不思議に思い、ジョゼフに聞くと私の髪色が非常に珍しいと説明を受けて衝撃を受けた。

一度聞いてしまうと、平坦な顔立ちに黒目がちの自分の瞳がこの世界では奇異に映るのでは無いかと密かに怯え始めていた。



そんな不安を汲み取る様に、親方は瞳を細めると大仰に私を褒め始めた。

「遥か遠くの国から嫁いで頂けて感激しておりますよ。マクモスの乳のようなお肌に皆ため息が出たでしょう。黒髪の美しさにうちの弟子たちは貴女が工房に足を入れた時から気もそぞろですわい。

人間長生きをするものですな。貴女の様な宝をこの目で見ることが出来たのですからね。」

可笑しそうにあご髭を撫でながらクックックと笑い、青年たちをチラリと見る。


青年たちはジョゼフと話をしながらも時折私を盗み見ていたのは分かっていた。


奇異の目で見ているのでは無いのですよ。貴女が美しいからです。


親方は暗に私を安心させるためにそう言ってくれた。

親方の優しさに気持ちはスッカリ持ち直し私は心からの笑みが浮かんだ。

「笑顔が似合いますよ。奥方。」親方は片目を瞑ってニッコリ微笑んだ。






ジョゼフは2人の青年と話を終えたのか私の側に立つと不意に腰に手を回した。


初めての人前でのスキンシップに驚く私を他所に、背の高いジョゼフは上から旋毛にキスを落とす。

親方はまたもや面白そうに髭を撫でた。



青年たちにも挨拶を済ませてケインとハンスの元へ戻る。


馬車に乗る時も何故かジョゼフの腕は私の腰回りを捉えたままで、今までに無い距離感に私は恥ずかしくて俯いたままだった。


ケインはニヤニヤ笑いを浮かべ「早くもヤキモチですね!」と振り返り、私の様子を伺って揶揄う。

ハンスは苦笑いを浮かべて、そっとシアーのボトルを差し出した。


馬車に乗り込んだ私は恥ずかしさで火照る熱を逃がそうとシアーのボトルをクイッと煽った。

淑女からは程遠いのは分かっていたけど、慣れないスキンシップにドキドキが止まらなかった。


ジョゼフは初心な反応を楽しむかの様に私を膝の上に乗せようとしたので、慌ててお断りしたのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





朝、スイは俺の首に腕を回したままスヤスヤ眠っていた。

「ピッコ○大魔王だな!!うん!!間違いない。ムニャムニャ・・・・・・・



え?卵???キモい・・・」

と謎の寝言を並べていた。


この国には大魔王なるものは存在しない。

スイの国にはそんな絵本の様な人物が実在するのか?と朝から首を捻る。




暫し絡み合った太腿の感触に悶えながらも、足を離してはスイが冷えてしまうかもしれない・・・と助平心満載の言い訳を自分にしていると


『お母さん!!!』


と叫ばれ武人の癖に心臓が跳ね上がった。

人間疚しい気持ちが強いと、飛んでもなく反応してしまうのだな。

まだ見ぬスイの母上に心の中で詫びを入れながら寝台からそっと降り立つ。




眠れぬ一晩と引き換えに甘い時間を過ごせたことを喜びながらも、昨晩の男の名前に心は穏やかでは無かった。




まだ寝ぼけているスイの背中を支えながら『ナル○様とは誰だ?』と少々険しい声で詰問する。


スイは驚いた顔で、ゲッ私そんなこと喋ってたんですか!?!?と嫌な顔をした。


意を決して、恋人なのでは?と率直に問うと、一拍置いてお腹を抱えて笑いだした。


『ナル○様は実在致しません!アニメなので。寝言で枕のことがバレるとは……乙女の寝室覗かれた気分で恥ずかしくて……』トホホと、呟くと逃げる様に着替えに隣室へ行ってしまった。


スイの言葉は実は意味不明で、ピッコ○もナル○なる人物も何のことだかサッパリだ。

説明になっていないことに些か不満が募るが、普段から口数が少ない俺は、上手く彼女に伝えられずに終わってしまう。



スイの過去がこの旅が始まって更に気になるようになってしまった。



気に病んだところでどうにもならないのは分かっている。

スイが人目に触れる様になって、ある嫌な予感が的中してしまったのだ。


彼女はその神秘的な見目故に男どもの視線を非常に集める。


出立の前のケイン兄弟は2人して逆上せた姿を晒すし、フランセの宿屋でも豪商が必死に視線を送っていた。

スイが風呂に入るタイミングで、気付かれないようそれとなく釘を刺したくらいだ。

(要するに近づくな!と、壁に拳で穴を開けた)


婚姻を結んだとは言え、男達のあからさまな態度に危機感は募るばかり。


そして、スイは全く気付かないのか無防備な笑顔を何処に行っても振りまいているのだ。

弁当屋でもニコニコし勘違いした青年からシアーをサービスで貰い、宿屋の主人は嫁さんににやけた顔を見られて頬を抓られていた。


モリスバッグに着いてもそれは変わらず、遂にはマルコ親方の手を握ってニコニコしている始末だ。


弟子の2人の男たちも俺と話始めた時は興奮していたが、途中はチラチラとスイを盗み見ていたので早々に話を切り上げる。


いつの間にか60過ぎのマルコ爺さんにまでヤキモチを妬いたオレは、スイが素の笑顔を見せた瞬間ブチッと理性が焼き切れた音を聞いた。


スイは俺のものだ!



騎士道に反して表情にもガッツリ現れていただろうが、そんなものはもう関係ない。


スイの甘い香りが漂う旋毛に口づけをし、マルコ親方の失笑を買う。

青年たちが羨ましそうに眺めるのに気を良くし、自信満々に細いウエストを抱き寄せた。


ケイン兄弟は馬車に戻った俺の姿を見て驚いたように笑ったが、もうそんな事は気にしていられない。半日で俺の意識はスッカリ変化していた。



人目を憚って遠慮していてはスイは奪われてしまう。


まだ、スイが妖精しょじょなのも含めて俺の大切な人だと皆んなに知らしめておかねば!

あんな無垢な笑顔を向けられれば、馬鹿な男は勘違いしまくるのが目に見えている。




決意も新たにスイを抱えて馬車に乗り込む。

シアーのボトルを両手で握りしめている子リスを当然のように自分の膝に乗せた。




「きゃーーー!!無理無理っ!!無理っ!!ちょっとそれはハードル高すぎるっ!」



スイは馬車の天井に頭をぶつけながら飛び上がり、双眸に涙を溜めながら赤面した。


拒絶の態度に彼女からの愛情に疑問を抱く。




「もう俺の妻なのだぞ・・・」

冷静に言ったつもりであったが声にも顔にも悔しさが滲む。


すると、スイは頬を赤らめながらそっと顔を近づけてきた。

耳元にフワリと金木犀のような香りが漂う。

甘やかな香りに一瞬、先ほどの落胆が嘘のように掻き消された。





ふぅっと俺の左耳に吐息を掛けながら、スイが囁いた。


「先ずは膝枕から…………それではダメ?」



そう言うと、スイは並んで座った俺の頭をそっと自分の太腿に誘導してきた。




衝撃的な提案に俺の心臓は跳ね上がる。

イヤラシイ妄想を瞬時に巡らせたが顔には出さないように正面を向く。迷いを悟られないように細い指先の誘うままに、そっと彼女の太腿に自分の頭を乗せる。

馬車の振動が伝わる中、彼女の柔らかな太腿が揺れる。





「昨日は私がベッドの真ん中を占領してしまってゆっくり眠れなかったでしょう?少しでも休んで下さいね。」


リラックス、リラックス・・・・


スイは自国の呪いの言葉を優しく俺に囁きながら硬い髪を指で梳いていく。

潤んだ眼差しの下で俺は人生で初めての経験に握りしめた拳が震えた。


母親からも子供の時から膝枕なんぞしてもらったことは無いし、婚約者とはマトモに手も握ったことが無い。


スイの提案する『ふれあい』に、全身から柔らかさを感じ、甘やかな囁きにいつしか緊張は解れていった。


指先からの心地良さに、俺はいつしか意識を和らげ寝息をたて始める。












後5分もしないうちに目的地に到着するとも知らずに・・・・・・・・


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