表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の指を持つ私と  作者: 美輪
14/18

守りの石

長くなって書き上げたいところまでたどり着かず・・・

『イッフルの工房』と書かれた看板が目に飛び込んで来た時、あまりの煌びやかさに驚いた。

繊細な刺繍のレースカーテンにショーウィンドウは飾られ、看板はガラス製板に文字をあしらったハイセンスな仕上がり。

部分部分には宝石なのか、ガラス製なのか眩いまでのカットを施されたビジューが文字を彩っている。




この世界にスワロフ○キーあったの?


実際これは全てこの工房の1つ1つの手作業であると分かった時は衝撃を受けた。


モリスバッグという土地がなんでこんなにも発展しているのか肌で感じた瞬間だった。




ジョゼフはさっきやっと寝息をたて始めたばかりだというのに、ケインから無遠慮に起こされている。



「ジョゼフ様到着ですよ!!」



御者台からドンドンと窓を叩かれジョゼフは慌てたように頭を膝から上げた。



「済まない、ウトウトしてしまった。」


「いいんですよ。もっと寝かせてあげたかったのにすみません。こんなに近いと思わなかったの。」


私も少し慌てながらスカートを正す。

本当に5分もしないうちに到着してしまい、昨日眠れていなかったジョゼフをゆっくりさせられなかったことが残念だった。

マルコ親方の鍛冶屋からほど近く、ここは工房などが建ち並ぶ一等地なのだとハンスが地図を見せてくれた。


商店街とは違う雰囲気ではあるが、一軒一軒が大きく『店』兼『工房』といったところ。



イッフルの工房は店の色が強く、正面玄関は美しかった。

扉を開けると可愛らしい緑の制服に身を包んだ15、6歳くらいの少女が『ようこそ』とお辞儀をした。


「イッフル氏はいらっしゃるかな?ルーサンベルトが来たと伝えてくれるか?」


「あいにく師匠のイッフルは不在で御座います。申し訳ございませんがモンベリーを呼びますので少々お待ちくださいませ。」

丁寧なお辞儀の後少女は工房の奥へと向かう。


私たちはカウンター前のティーテーブルへ案内された。ジョゼフは椅子に腰かけたが、私は工房内のショーケースが気になってしょうがない。


「ゆっくり見るといい」ジョゼフがクスリと笑って私を促した。



ショーケースの中身は金の加工品、銀の加工品。紳士物のカフスや宝石の原石。と、所狭しと並べられている。


この工房の作品はどれも繊細な細工が施されており、原石のものもかなり研かれ其れなりの形に整えられていた。


恐らくだが、カウンター近くになればなるほど上級者の作品のようで、ガラスケースに敷かれている布地が高価そうなベルベットだ。


その中でも私が立ち止まったのは、24金の地金で作られた月の形のペンダントトップだ。

そのアクセサリーは他の作品と違い、色取り取りの沢山の石を使って作られている。大きな石ではなく、小さな石ばかり。

それでも一つ一つ丁寧に加工されているのであろう。どれも照明を浴びてキラキラと輝き、私は思わず見とれていた。



「その作品は私の手掛けたものです。お気に召しましたか?」



いつの間にか横にスラリとした細身の男性が立っていた。

金髪の長い髪を緩く三つ編みにしサイドに垂らしている。

見惚れるほどの整った顔立ちに緑と銀の色の違う瞳に思わず息を飲んだ。


「イッフル師匠は只今首都に出ております。

私は筆頭弟子のモンベリーと申します。レディを驚かせてすみません。」

フワリと優男風の笑みを浮かべてモンベリーは落ちてくる前髪を細長い指で耳にかけた。

銀と緑の瞳は色がガラスのように薄く幻想さに拍車をかけている。

女の私でもヤキモチを妬くほどの美しい男性だ。


「イッフルが居ないとは思わなかった・・・・」

ジョゼフは椅子から立ちあがるとモンベリーの前に立ち、私の肩を抱き寄せた。


「ルーサンベルト様、この度はようこそいらっしゃいました。実はイッフルは首都での叙勲式典用の宝飾のデザインを頼まれまして、ひと月は時間を要しております。

今回お求めのものはどういったものでしょう?」


申し訳なさそうにイケメンモンベリーは頭を下げる。


「我が妻に婚姻の証をおくりたいのだ。イッフルなら間違いがないと思って足を伸ばしたのだが残念だな。」


「それは慶賀に堪えません。もし宜しければ御要望をお伺いしてイッフルに伝えます。時間は掛かりますが間違いの無いものをお作り出来ますかと。」


モンベリーはそういうと大きな木箱を取り出し蓋を開ける。


中には色取り取りの美しい鉱石がギッシリ詰まっていた。


「こちらの原石は全て最高ランクの物です。イッフルが自ら選び、こちらの工房に運ばせたもの。どれをお選びになられても間違いは御座いませんよ。」


緑の制服の少女もお茶を運びながらウンウンと頷いている。


私はショーケースの中の値段を見たばかりだったのでジョゼフの肘を掴んでクイクイッと引っ張った。


ジョゼフを見上げながら『高価すぎる!!要らない!!』

と口パクで伝えるがジョゼフは目を細めただけで一向に私を相手にしない。


「なるべく守りの力が強く、私たちが繋がりを感じられるものを希望しているのだ。その場合イッフルに見て貰った方が良いだろうか?」


すると少女がスカートの裾をクルリと翻しこちらに戻ってきた。


「石を見てもらうならモンベリーが我が工房では1番です!!!イッフル師匠の見立ても素晴らしいのですがモンベリーはデザインもさる事ながら石の呪はモリスバッグで有名です!!!」


瞳をキラキラさせると少女は差し出がましくてすみませんと、満面の笑みで告げる。


モンベリーは物憂げな表情で視線を落とすが、気を取直したように私を見つめた。


「僭越ながら申し上げますと、私のこの左右違う色の瞳が奥方様をお守りする石を選ばせて頂けたら嬉しいとは思っています・・・・・、その……奥方様のお美しさをお守りするのには、少々の石の力があっても良いかと私は思いますので。」


イケメンに『お美しい』とか言われてもリップサービスにしか思えないけど・・・と苦笑いを浮かべて振り返ると、ジョゼフは真剣な表情でウンウンと頷いている。


「スイの笑顔を護るのに婚姻の証には、石の力を込めた方が良いということか?」


「左様ですね。きっとこの闇夜の女神は今後『石』が必要だと私の銀の瞳が感じ取っております」

大仰にモンベリーが頷くと、少女は下がった後方から『モンベリーの先見せんけんはよく当たりますよ』と視線と口パクを送ってきた。



そもそも皆んな『石は大切』って言うけど結婚指輪のことでしょう?ダイヤモンド一択の日本とここは違っているのだろうか?


私がイマイチ理解が出来なくて首を傾げていると、モンベリーが小さな冊子を取り出した。


カタログのようなその冊子を私に差し出すと柔らかな笑みを浮かべて説明をしてくれた。


「この国では『石』は其々力を持っております。婚姻の際に旦那様から護りの一品として、奥方様は宝飾を贈られるのですよ。これは単純に飾り、だけではなく多くの意味と力が加わった物です。

実際に我が国ではこの宝飾により、命を守られている者も多いのです。」


するとジョゼフが右袖を捲り上げ肘下に付けているブレスレットを取り出した。


それは銀色に輝く太めのサイズで、大きな石が中央で黒く鈍く光っている。六角形にカットされた黒い石はオニキスだろうか。周りに施された銀細工は月桂樹の様だった。



「この腕輪には命の護りが付いているんだ。戦地で死地を潜るたびに石が一瞬だが光るのだ。俺を守るために力を使っているのはよくわかる。母方の叔父から貰い受けたのだがこのお陰で俺は殆ど無傷なんだぞ。」


モンベリーも右袖を捲り上げると華奢なブレスレットが6、7本現れた。


「私は元々身体が弱く、病に伏せることが多かったのですが、イッフル師匠の作品で体質が改善し

今は自分の作品も重ねて着けているのです。」


銀細工のブレスレットは其々に星のモチーフがあり、よく見ると星の中央には石が嵌め込まれている。



私は緑の石が全て星型に配置されているものを指差して尋ねる。



「こちらはどなたが作られたのですか?どの様な意味合いが?」


モンベリーは良くぞ聞いてくれました!とばかりに微笑んだ。



「こちらは私の作った作品です。星の力を込めており効果としては『商売繁盛』です。

こちらのお陰で私はイッフル師匠の不在時でも絶好調なのです。」




・・・・・・その 『石』の意味はお客には伏せておいた方が良かったんじゃ・・・・・



イケメンモンベリーの素直過ぎるその様子に私は思わず口端がヒクついた。


商売繁盛か・・・・・確かにここの商品は良さそうだけれど、一文もこの世界で稼いだことのない私。ジョゼフに甘える気は一切なかった。


私は率直にジョゼフに伝える。


「ジョゼフの気持ちは有り難いけど、こんな高価なもの貰っても今の私にはお返しをすることは出来ません。私の国でも、結婚するときは指輪を交換するのだけど基本的に両家ある程度負担し合うのね。

だから、私が少し落ち着いて働く様になったら贈り合いたいんだけど。」


だって結納品を貰っても私には返す力が無いのだから。


するとジョゼフはそんなこと気にする女を初めて見た!と珍しく表情豊かになり物凄く驚かれた。


そして、周りの皆んなも大きく目を見開き、あんぐりと口を開けている。


それを見て私も口をあんぐりと開けた。



この世界というか、この国の女性は基本的に給与が発生する『仕事』という概念はない様だ。未婚の女性は多少の働きはある。例えば行儀見習いのための侍女の仕事や、貴族の家にいる乳母。

平民になるとお針子や食堂での給仕は仕事としてあるが、経営者などは殆ど居ない。つまり自立して働いている女性はかなり珍しいそうだ。

なので、男性に養ってもらうことが基本となる。


ハンスたちが雇われている馬丁は、女将は父親の仕事を受け継いだ異例の女社長ということだ。



婚姻を結んだ後は女性は殆ど家の中で過ごし、家事に従事する。貴族は特に買い物にも出ることが無ければ半年くらいは屋敷から出ないこともざらだという。


私は聞きながらあまりの閉塞感に愕然とした。



まあ自分も湖畔の家に3ヶ月ほど隔離されていた訳だけど・・・・・・



ジョゼフは話がひと段落すると


「婚姻も結んだし、今回は俺に任せてくれないか?結婚指輪をスイの国でも贈り合うのであろう?俺も護りを与えたいし、異国からの婚姻に証は大切なんだ。」


モンベリー曰く、私の近々のお披露目の際にも婚姻の証なる宝飾はかなり重大な役割を果たすそうだ。

貴族も家柄と花嫁の価値を推し量る目安になるらしく、私はゼルダクエスト公爵家の名を背負っていることもあり変な肩肘を張っていると、迷惑を掛けてしまう・・・と、オブラートに包んだ遠回しの表現で伝えられた。



郷にいれば郷に従え・・・・と言うことか。




まだ見ぬゼルダクエスト侯爵に迷惑を掛けてしまう・・・・と言う事実はわたしの心をかなり揺さぶった。



モンベリーはおもむろに水晶玉を取り出すと「見てもよろしいでしょうか?」と私の目の前に差し出した。


水晶を私が見つめていると水晶をペン回しの様に指の間をクルクル回し始めた。


今にも落としそうなくらい高速で水晶を回し続ける。


私もその妙義に目が離せずジッと眺めているとモンベリーはスゥとその水晶を掌に納めた。


鉱石の入った木箱を引き寄せると難しそうな顔をしながらベルベットのトレーに数個の石を並べる。


「石は決まりました。

デザインなのですがイッフルのデザインをご所望でしたら手紙を送りデザイン画を送ってもらう方法を取ります。少しお時間は掛かりますが如何なさいますか?」


「スイはモンベリー氏のデザインの物を気に入っていたな。どうしたい?」


私はイッフル氏のデザインも気にならないことは無いけれど、モンベリーの三日月のネックレスはかなりツボだった。


「私もモンベリーにお願いしたいと思っています。」


モンベリーは嬉しそうに微笑むと

「ありがとうございます!ご期待に添える様に致しますので。

では、あちらで手続きを行います。」


緑の制服の少女から小さな応接室に案内され私達はテーブルについた。

ジョゼフはモンベリーと打ち合わせを続け、私は指輪の採寸や首の採寸を始められた。


ジョゼフの贈り物に喜びながらも、こんな高価なものを貰っていいのか私・・・・と悩んだり。


横をチラリと見れば、ジョゼフがニッコリ笑い嬉しそうにしている。







ジョゼフが喜んでいるから良いかな・・・・





スッカリ流されて私もジョゼフに微笑み返した。




気がつくとイッフル工房に3時間は滞在していた。


扉から出てくる頃には買い物疲れで私は少々グッタリ。


ジョゼフは満足そうに充実した内容だったと馬車の中で話が弾んだ。


「モンベリーの星のブレスレットは特別な石を入れているそうだぞ。しかもドンドン旅先で集めているそうだ。」


星のついた石を旅をしながら集めるか・・・・何処かで聞いたことのある話だな。


饒舌になったジョゼフは更に話す。


「石のデザインにも数を合わせるため1、2、3、4、・・と数字を入れてるそうだ。」



益々聞いたことがあるような・・・・



「そうだ、スイにもモンベリーの名刺を渡しておこう。彼から預かったぞ。」


ジョゼフがくれた名刺を覗く。






『モンベリー・シェンロン』






しぇんろん・・・・・・





神龍しぇんろん・・・・・・





あ、ドラゴ◯ボー◯か・・・・・・・









益々勝手なご利益を感じながら、私は1人物思いに耽った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ