67 Side.アナスタシア 5
何というか…、拍子抜けするほどにあっさりと、公国首都に辿り着くことが出来た…。
途中で何らかの足止めや、追っ手が追いついてくるかと思っていたけれど…、私の知る限りは安全な旅程だったように思える…。
だがおかげで…、公国との交渉についてじっくりと考える時間があった…。
とにかく宿をとって、身嗜みを整えないと…。
……ん?
「ねぇ…」
『流石にお嬢ちゃんでも気づくか…』
「じゃあやっぱり…、私の気のせいじゃないのね…?」
『あぁ…、公国との交渉は辞めておいたほうがよさそうだな…。 これ程多数の監視があるとなると…、公国自体に罠を張っている可能性が高い…』
「くっ…、ここまで来たのに…」
私が気づいたのは二人だけだけれど…、彼の言葉通りなら、もっと多数の監視が付いているようだ…。
やはりというか…、先回りをされて先手を打たれてしまっていた…。
このまま王城にノコノコと出向けば、恐らくその場で取り押さえられるだろう…。
だが…、彼に暴れてもらって逃げ出すのも不味い…。
公国の者達にも生活がある…。
彼らに被害を出してしまっては、彼奴と同じになってしまう…!
そうなると…、夜陰に紛れて都市を離れるしかない…。
けれど…、そうなると私にはもう宛が…。
『ちょっといいかお嬢ちゃん?』
「……何…?」
『一先ず何処か宿へ入ろう…。 個室に入ってしまえば、目と耳を欺くのは容易い…』
「……分かったわ…」
現状、私は万策尽きてしまった…。
今は彼に従うほうがいいだろう…。
そうして監視の目に気付いていないフリをしつつ、商人向けの宿に入る…。
彼が何やら宿の主人と会話していたかと思うと…、何やら彼に諂うように、宿の主人が最高級の部屋の鍵を渡してきた…。
その後もしきりに、彼に対して媚びるかのように笑顔を浮かべていた…。
「…目立たないほうがよかったんじゃないの…?」
『こういうところは値段が高いほど、防犯の設備も整っているものだ…。 それに客を売るような宿は、今後誰にも利用されることもなくなるだろうな…』
つまり彼に弱みを握られたから、あそこまで阿るような態度だったのね…。
部屋に入り、彼が部屋の周辺を確認する…。
……問題はないと判断したのか、全ての窓のカーテンを閉め、部屋の中央に私を呼んだ…。
「…それで、どうするの? 私にはもう…、どうしようも…」
彼が私の頭をガシガシと撫でる…。
「ちょっ!? いきなり何するのよ!?」
『まぁ一旦落ち着け』
「撫でるのはいいけど、優しくしなさいよ!? …もう…、それでどうするの?」
『とりあえず、ここに長居する理由も意味もないわな…』
やはり急いでここを離れるのは変わらないようだ…。
だが、ここで協力を得られないとなると…、彼奴を排除する方法が……。
『問題はなくなった。』
「……えっ…?」
『問題はなくなった──と言ったんだ。 ここに辿り着くまでに時間をかけたからな…。 力も大体戻ったし、眷属達との連絡もついた』
「…それって……」
『お嬢ちゃんの望み通り、彼奴を排除するのは誘き出せば何時でも可能だ…』
「彼奴を…、追い出せるのね…?」
皆を元に戻せる…?
皆を助けることが出来る…!
「なら早速…!」
『その前に!』
「な、なによ…」
『お嬢ちゃんに決めてもらわなければならないことがある…』
「私が…?」
彼を誘き出すのは変わらないはず…。
なら一体…。
『お嬢ちゃんは、彼奴の末路を最期まで見るか…?』
「……えっ…?」
それって…、どういう…。
『彼奴を誘き出して殴り倒す訳だが…、それを見るのか見ないのか、決めてほしいんだ…』
それって、つまり…。
「後の事を全て貴方に任せるか、最後まで見届けるかってこと…?」
『そうだ。 それで、どうする? 俺はどっちでも構わないぞ』
……私は…。
「……最後まで見届けるわ…」
『…一応、理由を聞いてもいいか…?』
「理由なんて言うほどの立派なものじゃないわ…」
そうだ…、これは理由等という高尚なものではない…。
彼に私がそうして欲しいと頼んだのだ…。
なら私はそれを最後まで見届けなければならない…。
例え私自身は何も為していないとしても…、その結末だけは見なくてはならない…。
それすらしなかったなら…、私は何も為せない己のまま、変わることができないだろう…。
「私は唯頼んだだけだけれど…、結末を見届ける権利と義務があると思うの…。 それすらしなかったら、私は貴方の眷属になる資格すら失う気がするから…」
ただ彼に縋りついただけの女に…、彼の力に成れることなんてあるわけがない…。
彼は私の頼みを引き受けてくれた…。
足掻いても足掻いても…、結局どうしようもできなかった…。
全て彼頼みになってしまったとしても…、その結末だけは見届ける…。
「何よりそんな自分を…、私は許容できないわ…。 だからお願い…、最後まで見届けさせて…」
彼の瞳を見つめ、返答を待つ…。
『……ふはっ…! やっぱりそうやって気丈にしている方がらしいぜ…』
彼が嬉しそうに言葉を返す…。
「じゃあ…」
『最後までしっかり見ていけ…。 お嬢ちゃんの日常を壊した奴の末路をよ…』
そう言った彼のその瞳には…、見たことが無いほどの憤怒が燃えていた…。




