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私は精霊ではありませんよ   作者: lassh-leyline
第三章  小さな大賢者(小賢者)
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第十五話  禁呪(重い決断)

第十五話  禁呪(重い決断)



 私は何をしているのだろう?

 はじめは壊れた体を元通りにする方法を探していたはずなのに・・・

 壊れる前に戻すつもりが、まったく別の体を創造して別の人にしてしまっている。なのに中身はその人。

 

 そう、無かったことになんてしてはいけなかったんだ。

 すべてはその人を構成している一部なんだから。

 もし体の傷一つでも大切な人との絆なら、その人との繋がりなら永遠にともにあることを選ぶだろう。たとえそれがどんなに重篤な傷でも。


 そう、わかっていたはずなのに・・・

 母の安らぎのために魂の欠片を贈った私なら。どんなに怖くてもどんなに辛くてもそのときの気持ちを忘れていなければ。

 そして二度も警告を頂いたのに。星の精霊様にもお母さんにも・・・



 ごめんなさいナナさん。私はあなたを騙していました。それがばれないように自分自身も騙していたんです。

 本当はあなたがとても嫌いでした。そしてとても恐ろしい存在。私を殺せる唯一の存在。

 幼い私には服従することでその恐怖から逃れようとし、仲のよいふりをすることで心の安定を得ようとしていたのです。

 でもどうしてもナナさんの命を奪うことができません。いえ考えも浮かびませんでした。お母さんの代わりでもあったのですから。

 だから手の届かないところに行かれるのが恐ろしく、傷ついた姿を見て安堵しました。もう私の脅威にならないと、もう私の掌の上だと・・・

 でもあなたはそうでは無かった。常に新たに手に入れた技術により私の目の前に居て、こちらを見つめて手を伸ばしてきます。

 肉体を失ってもたとえ魂となってもこの方は私の首に当てた手を握り絞めることが出来る。

 もはやこの方の下僕として仕えるしか無いとも思いました。

 もう二人は永遠の絆を持った友達だと思い込むことで恐怖や嫌悪感を押さえ込もうとしました。


 でも新たに目覚めたナナさんは別の人でした。本来のナナさんなんでしょうが、子供のように泣き、笑い、怒り、大人のように憂う。

 ナナさんのお母さん(産んでくれた人)は子供を作ることが出来ない体でした。ナオさんが子どもが欲しくなったときのために取っておいた母親のナミさんの生殖細胞を勝手に流用して生まれたのがナナさんです。

 だからナナさんはナミさんでもありナオさんでもあるのです。それともう一つ、ナオさんが子供か欲しくなったときはナナさんが代理の母親になることが決まっていたそうです。心の安定のため髪の色を変え精神安定の機械を使っていたそうです。それらまで消してしまったのです私の呪文は。

 そして気がつきました。肉体という楔によってつなぎ止めておかないと心はどこまでも流れて行ってしまうと。

 自らの立ち位置を無くしたナナさんは私にかまっている余裕さえも無くなってしまいました。ナナさんの影に怯えなくてもよくなったのです。


 ナナさんが私に手を伸ばしていたのは私に対する警告ではありませんでした。先を行く者として導き、示すためです。

 背後に居たのはつまずかないようにすぐに助け起こせるように。何時も見られていたのは何があっても大丈夫なように見守ってくれていたためでした。

 すべては私の恐怖心が生み出した幻影。そして私の暴走を止められる唯一の安全装置を自分自身で壊してしまいました。

 もう私の先にはナナさんは居ません。差し伸べてくれる手も抱き留めてくれるその腕も・・・



 私は、もう私自身の心も騙さなくてもいいんです。ナナと本物(・・)の魂の友になりたいんです。

 もしナナに受け入れてもらえるなら今まで以上に尽くします。

 いえ、共に歩みます。

 お互いに手を差し伸べ合えるようにあなたの後ろででは無くあなたの横でお互いを支えられるように。






 本来ならこの呪文は封印するつもりでした。


 目覚めて三日目今度はエミリーが覚悟の旨を告げてきました。

「ナナさんはあんな風になっちゃったけど、ボクはこの体には未練は無いから思う存分やっちゃって。これ以上みんなに迷惑が掛からなくなるなら何があっても大丈夫だから。ボクはこのままみんなに迷惑を掛け続ける方が嫌だ。さっさと元気になって新しい体で出来ることを探すんだ。だからお願いボクに新しい体を創って。ボクを生まれ変わらせて。」


 そう賢者の条件の一つ、目的を持つこと。 

 求める力を持つ者が目の前に居るのに避けて通ることは無い。

 そして私は断る理由も引き止める言葉も見つかりませんでした。


 賢者の悪い癖、新しいおもちゃは遊ばずに居られない。精霊の奇跡を手に入れた私は一度の失敗だけでは物足りなかったようです。

 大事な友を実験台にするという形ではあるが、本当の奇跡を試すチャンス。望まれての実験。

 アスカはまだ迷っていますが、ごめんなさい。これで終わりです。これ以上は私の心がもたないかもしれません。この奇跡は重すぎます。



 生まれたのはウサギ型の獣人ドワーフ族の少女。

 種族的特徴の無い獣人として生まれ、村で迫害を受けて育ってきたそうです。最後は奴隷として売られ領主に献上されて現在に至る。


「ありがとう。もう過去に囚われることは無いんだ。ボクはもう普通のドワーフとして生きていけるしなにも隠すこともいらないんだ。確かに昔のことも憶えてるし悔しい思いをしたことも憶えている。だけど誰かに仕返ししたいとかははじめから思ってなかったからこの新しい体を手に入れられただけで十分なんだよ。それに最初の約束は憶えてるし、ボクはこれからはそっちについての研究を頑張ろうと思ってるよ。」

「最初の約束?」

「酷いなあ、忘れちゃったの?ボクはシンディーの生まれた村を発展させてもっと大きくて暮らしやすい街にする為にここに居るんじゃないの?」


 私は涙が止まりませんでした。ただこの子を引き留めておくための口実だったのにちゃんと考えてここに居てくれる。

 私の大切な魂の友人たち。この子たちが居てくれればたとえ邪星霊となりはててもきっと止めに来てくれるナナさんと一緒に。




 そしてアスカさんあなたは何を望みますか?私はあなたが望むなら・・・

一章一話でシンディーが恐れたのはナナの存在そのものです。始めて感じた死の恐怖でパニックになったのです。所詮餓狼など小さなわんちゃんに過ぎないのです。

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