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演生  作者: 日進 月歩
1/2

初恋は実らない


「初恋は実らない」という言葉がある。


その言葉は偽りでなく、真実なのだと私は知っている。


今はもう、恋愛感情はどこかに捨て置いたのか、異性にときめきを感じることすらない。

だが、ふとした瞬間、初恋を思い出すのだ。

ああ、あの頃の私は一生懸命に恋をしていたのだ。




私は同じ人に4回振られたという武勇伝がある。

黒歴史と言えば、そうかもしれない。

今じゃ、飲み会では鉄板のエピソードだ。



私の初恋は今から約15年前に遡る。

当時、私は8歳だった。人と関わるのが苦手で、一人遊びが好きだった。

砂場でお城を作るのが好きだった。

学校の裏庭には遊び場があり、アスレチックや砂場、小さな山があった。

私はそこの砂場でよく遊んでいた。



ある日、ひとつ上の意地悪な男の子が砂場で遊ぶ私を見て

「一人で寂しく遊んでるの?かっこわるー」

と笑い、私が懸命に作った砂の城を蹴って壊したのだ。

当時の私はそれがショックで、大泣きした。


その時だった。


ヒーローが現れたのは。



「何やってんだ!!!」


大きく叫び、向こうから走ってくる男の子はそのまま意地悪な男の子にキックをかました。


衝撃だった。

雷に打たれたような。

そんな感覚が身体中を駆け巡ったのを今でも覚えている。


この彼をFとする。


Fは私に手を差し伸べた。


「大丈夫?」


優しく笑いかけられ、私はFから目を離せなかった。

今思うと、不思議な魅力を持っていたんだと思う。

全員が彼を好きになる。月の引力みたいな。周りを引き寄せる。


「ありがとう」


私は泥だらけになっていて、見られるのが恥ずかしくて、すぐにでも逃げ出したかった。

Fはそんな私に気がついたのか、泥をぱっぱっと払ってくれた。


「え、大丈夫だよ」

「いいって!ほら!綺麗になった!」


恋に落ちる音がした。

私はあれから、Fのことを目から離せなくて、気がつけばいつも目で彼を追っていた。


彼は人気者だった。

彼はイケメンだったし、頭もよくて、運動神経もよかった。話も面白い。優しい。

全て持っているような人だった。

彼を好きな女の子は大勢いた。私もそのうちの一人だった。

当時、付き合いたいとかは全然考えていなかったけど、私の思いを知っていて欲しいと思い、1回目の告白を決意する。

それが私10歳、彼が11歳の時だった。


あの時の私は、振られる怖さとか気まずさとかを知らなくて、ただ、目の前にある恋にひたむきだった。今思うと、無敵状態だったのだろう。

当時、かわいい便せんに思いを綴って送る”ラブレター”が流行していた。

私は母に「かわいい便せんを買ってほしい」とねだったものだ。

母には好きな人に送るんだな、とばれていたとは思う。

ハートの模様を冠した、かわいいかわいい便せんを買ってもらって、拙い字で思いを綴る。

きれいに、ていねいに、綴っていく。

少しでも字が汚かったら、すぐに新しい便せんを取り出し、一からやり直して書いた。

…本当に、本当に、Fのことが好きで仕方がなかった。


ようやく完成させたラブレターをそっと、ランドセルの中にしまい、ドキドキしながら学校に向かった。


毎週水曜日と金曜日は放課後クラブがあって、私とFは同じスポーツクラブに所属していた。

いつものようにスポーツを楽しんだ後、私はFを誰もいない教室へ誘い出し、勇気を出してラブレターを渡した。

彼はキョトンしながらも、ラブレターを受け入れると嬉しそうに笑った。あの大きな笑顔を見ることができて、それだけで私は大満足していた。


「ありがとうな!でも、好きとかよくわからないから付き合うとかはできない!ごめん!」


ここで初めて振られる経験をするのだが、それよりも彼の真摯な対応が嬉しくて、嬉しくて、嫌悪感の顔を浮かべることなく、本当に嬉しそうな顔をして笑うものだから、私は気が付いたら涙を流していた。


後にも先にも、あんな涙を流すことはない。


そう思うほど、純粋な恋をFにしていたんだと思う。



私と彼はエスカレーター式の学校に通っていたので、当然廊下ですれ違うこともあれば、放課後のクラブ活動で一緒のチームになって、スポーツをしたりした。

私は彼を見ているだけで、幸せだった。

周りの人と楽しそうに笑いあっているFを見ていると、不思議と力が湧いてくる。そんな感覚さえしていた。

恋のパワーとはすごいものだ。


しばらくして、Fが中学部に進学した。

たった一つしか違わないのに、急に彼が遠くなったような気がした。

このままだと、きっとFは私のこと忘れてしまうだろう。

エスカレーター式の学校とはいっても、小学生と中学生じゃ環境が全く変わる。

これから彼は中学部でいろんな先輩と知り合って、上下関係を知っていき、部活にも入部する。前よりも会える時間はなくなるのだ。

そう思ったら、居ても立っても居られなくなり、私は2回目の告白を決意する。

本当はダメだけど、Fの部活が終わるまで学校の近くにあるコンビニの前で待った。

親友の幼馴染も待つのに付き合ってくれた。ありがとね。

(下手したらストーカー扱いになっていたのかもしれません…)


しばらくして、部活を終えたFがコンビニの前に通りかかった。彼は私に気づいたのか、目を大きく見開きながらも、「え、どうした」と駆け寄ってくれた。


やっぱり、優しいな。

もっと、Fを好きになった。


幼馴染は気を遣ってくれたのか、「あっ!早く帰らないと怒られちゃう~!また明日ね!」と棒読みで、慌ててコンビニから去っていった。


ありがとう。


心の中で感謝した。


「あの、Fくん。好きです!付き合ってください!!」


思ったよりも大きな声が出てしまい、コンビニを利用するお客さんや駅に向かう人たちからの視線が一斉に、私とFに注がれた。


うっ、視線が痛い…。


Fはいつものように、大きく笑った。


「ははっ!2回目だな!一途だな~」

「ずっと、好きです」

「気持ちは嬉しいけど、今も付き合うとかは考えられないんだ」


また振られた。


でも、私は諦めない。


「わかっています!でも、私が伝えたいんです!」

「嬉しいよ。ありがとな!」


Fは私を酷く振るとか、周りに言いふらすこととかしなかった。

本当にいい人だった。本当にヒーローのような人だった。




時間は流れ、私も中学生になった。

着慣れないブレザー制服にそわそわしながらも、中学部のいる校舎へと足を踏み入れた。

そこには、太陽のような笑顔を浮かべるFがいた。大きく手を振り、


「入学おめでとう!」


温かく迎えてくれた。

同じ校舎にいるというのは、実に最高である。移動時間のたびに、Fとすれ違う。すれ違うと、必ず彼は私に笑いかけてくれた。

もっと好きになるに決まってるじゃん…。

2回振られても、恋心は膨らんでいく一方だ。

とにかく好きで、好きで、時間があればFのところに訪れては好き好きアピールをしていた。

今だったら、そういった行動はできないように思う。いや、できないな。


なんとなくだけど、大人になるにつれて、思い切った行動ができなくなるものなんだろうね。

「この人、いいな」と思ってもなかなか告白という次のフェーズに進めずにいる。

ただ、一緒にいたい。

この関係を壊したくない、という気持ちの方が勝ってしまう。

臆病になっていくのだ。慎重になっていくのだ。

子供のころは、「臆病」だとか「慎重」だとかそういった言葉は頭の中に存在しない。

ただ、勢いで行動する。自分の心に従うように。


私が中学生になって、秋を迎えようとしていたころ。

Fのことを恋愛的に好きな女の子が増えてきたのだ。

みんな、彼を好きになる。

そんな魅力で溢れていた。

このままだと、Fはきっと彼女ができる。

そう思った私は、焦った。焦燥にかけられ、3回目の告白を決意する。


懲りないよね(笑)

自分でもそう思う。


まあ、結果は変わらなかったが。


「3回目!?逆にすごいね、(作者)」


彼は引くことも、からかうこともせず、私の告白を喜んでくれた。


「わかっていると思うけど…」

「今は付き合うとかは考えられないんですよね?いいです!私が伝えたかっただけです!」

「そうか、そうか」


そんなやり取りを何度繰り返したことか。



そして、ようやく私の恋が実った時がくる。

それは私が中学二年生、彼が中学三年生に進学した新学期の時だった。

私たちが通う学校には、校門から校舎への道のりには大きな桜の木が並んでいる。ひらひらと桜の花びらが舞う頃、私は急に切なくなった。またFに告白したくなったのだ。


いつものように、Fを見つけると私はすぐに「好きです」と告白をした。

いつものように、振られるだろうと思っていたら、


「うん、いいよ」


まさかの返事だった。あまりの驚きで私はぽかんとしてしまった。

…非常に間抜けな顔をしていたに違いない。


「え?気のせいですか?夢ですか?今、なんて…」

「だから、いいよ、って」

「え?????まって」


混乱していて、私はその場に座り込んでしまった。

これは夢だ。

夢だと自分に言い聞かせていると、Fは私と目線を合わせるためにしゃがみ込んで、私の頬をつねった。


「痛い!!」

「ははは!夢じゃないよ(笑)」


Fは笑った。

―-笑ったのだ。


4回目の告白にして、ようやく結ばれた私たちはこれまでの時間を埋めるかのように、たくさんデートをした。


初めてプールにいったあの日。


初めて一緒にマラソンの練習をしたあの日。


初めてFにお弁当を作ったあの日。


初めてラウンドワンに行ったあの日。


初めて手を繋いだあの日。


初めて映画館デートにいったあの日。


初めてFの陸上大会に個人で応援に行ったあの日。


初めておそろいのキーホルダーを買ったあの日。



今でもはっきりと覚えている。

体の繋がりはなかったけど、心は繋がっていた。Fも私のことを好きでいてくれた。

好きな人と結ばれるのは、奇跡だ。

その奇跡を大事にしたい。

とても幸せだった。

隣に好きな人がいて、私にだけ笑いかけてくれる。

とても嬉しくて、どきどきが止まらなくって、恋に一生懸命だったあの日々。


―-----でも、終わりは突然やってきた。


「別れてほしい」


私が高校二年生、彼が高校三年生になった時だった。

いつものように、朝、駅で待ち合わせをしていて、一緒に学校へ向かっている時だった。

お互い、運動部だったこともあり、朝練があるため朝は早くて。

あまり人のいない通学路を歩いていたら、突然彼から別れを告げられたのだ。

ーーー付き合って3年が過ぎたころだった。


突然のことすぎて、私はうまく笑えなかった。


「な、なんで?私、何かした?それとも、他に好きな人できた…?」


声が震えている。涙も出そうだ。必死にこらえて、Fに理由を尋ねる。


「いや、(作者)はなんもしていないよ。好きな人もできていない。

ただ、俺、もう高校三年になったろ?進路とかいろいろ考えてたらさ…」

「うん」

「俺はスポーツ推薦で大学に行くんだ」

「え、聞いてないよ…」

「合格したら、言おうと思っていたんだ。ごめん」

「合格したのはおめでとう。でも、それがなんで別れることになるの?」

「実は大学が、県外なんだ。しかもすぐに会える距離じゃない。このまま付き合い続けても、お互いに疲れるだけになると思うんだ」

「それは、分からないじゃない…。

ほら、遠距離恋愛してうまくいってる人もいるんだよ?」

「うん、わかってる。

でも、俺は遠距離恋愛とか向いていないんだ。それは(作者)が一番よくわかっているだろう」


そう言われてしまい、私は何も言えなくなった。

そう、Fは優しいけど、自由な人だった。

束縛されることを一番嫌っていた。そう、彼は自由が似合っている。

このまま、付き合ってもうまくいかない可能性が高かった。

それでも、進学や陸上に集中したいから別れたいなんて、私にはどうしても納得できなかった。

でも、Fの前では物分かりのいい彼女でいたかった。嫌われなくなかった。だから、


「わかった…。Fくんのこと、応援してるね」


笑って、そう答えたのだった。

Fは申し訳なさそうにしていた。


「ごめんな」

「ううん、いいよ。私ね、Fくんが走ってる姿が一番好きなんだ。だから、頑張ってね」

「(作者)、ありがとう!」


繋がれていた手がするり、と離れていった。

Fは駆け足で学校へ向かっていった。

一人残された私は、空を仰いだ。


泣くな。泣くな。笑え。


必死に涙をこらえ、彼を見送った。



幼馴染に「別れた」と報告すると、彼女は私を優しく抱きしめてくれた。

必死に涙をこらえたが、彼女の温もりで涙が溢れ出した。

止まらなかった。


「うえええん…」


私は声を上げて泣いた。

幼馴染はその間、ずっと背中をさすってくれていた。

その日はずっと泣き続けた。目が赤く腫れるくらい、泣き続けた。



同じ学校だったこともあり、別れた後も当然廊下ですれ違うこともあって。

私はFを見るだけで、泣きそうになったから、できるだけ顔をそらして、彼の顔を見ないようにしていた。

とても酷い態度だったと、思う。

それでも、彼の顔を見れなかった。

Fを避け続ける日々が続いた。

3月には、Fは卒業する。

このままではいけないと思い、私は勇気を出して、再度、Fと話をすることに決意する。

幼馴染に相談して、卒業式が終わった後に話をしようと決めた。


そして、迎えた卒業式。


Fは堂々としていた。私は遠くから、彼を見つめた。

問題なく、卒業式が進行していく。

私は当時、生徒会長だったため、送辞の言葉を贈らなければならなかった。


「続きましては、送辞です。在校生代表として、生徒会長から送辞の言葉が贈られます」


司会者の教師に名前を呼ばれ、私は立ち上がった。重い足取りで舞台へと向かう。

しっかりしろ、私。

そして、舞台の真ん中に立つ。

送辞が書かれた式辞用紙を広げる。

深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

卒業生が並んでいる中で私はすぐにFの姿を見つけた。鼓動が高鳴る。

いまだにどきどきしていることを悟られないように、顔を引き締め、私は口を開けた。


「日の光が少しずつあたたかくなり、桜のつぼみが膨らみ始め、新たな生命の息吹が感じられる、そんな季節となりました。

そんなよき日に、卒業されるみなさん。卒業おめでとうございます」


心を込めて考えた送辞の言葉を読み上げていく。


「みなさんは私たち、後輩の憧れでした。

いつも明るくて、困ったときに助けてくれる。

優しい心を持ったみなさんと学校生活を送ることができて、心の底から嬉しく思います」


声が震えそうになる。


「これから、みなさんは新たな道を歩んでいくことになります。

その中で困難の壁にぶつかることもあるでしょう。悩むでしょう。

そんな時は、ここでの出来事を思い出してみてください。

きっと、みなさんの支えになってくれるはずです。

私たち、後輩はみなさんがどこにいても、何をしていても応援し続けます。

それを忘れないでほしいです」


目頭が熱くなる。


「みなさんと過ごした青春は宝物です。永遠に忘れることはありません。

みなさんの旅立ちを在校生一同、応援させていただきます。

改めて、卒業おめでとうございます。

以上、送辞の言葉とさせていただきます」


体育館が拍手で包まれる。私の目にはFしか映っていなかった。



無事、卒業式が終わった。

幼馴染に協力してもらい、彼女がFを私がいる校門の近くにあるプレハブに誘い出してくれた。

彼は私を見つけると、驚きはしていたが、すぐに微笑んでくれた。


「卒業おめでとうございます」

「やっと目を合わせてくれたな」

「すみません。恥ずかしくて」

「ははっ、そうかよ」


豪快に笑う彼が好きだった。笑う時、八重歯が見えて可愛くて好きだった。

Fはスポーツ推薦で強豪大学へ行く。その場所が県外であった。

彼はこれからより高みを目指して、遠くへ行く。もう二度と会えないだろう。

そんな風に確信していた。


「最後にお願いがあるの」

「(作者)がお願い事するって、珍しいな」

「そんなに私、甘えてなかった?」

「うん」


Fは苦笑いをした。


「一人でも平気なタイプだったろ?多分、俺だけじゃなくて、みんなそう思っている。

お前は、一人でも生きていけるんだろうなって」

「…え?」


Fは私が強いなと思ったきっかけを話し始めた。


「自分で言うのもアレだけど、俺、人気者じゃん?男友達や女友達がたくさんいた。

今だからいうけど、学校のアイドルみたいな立場だったんだよな(笑)」

「ふふ、そうだったね」

「そんな俺が(作者)と付き合いだしたと噂になった時は、もう大騒ぎだったな。大変だった」

「…うん」


私もその出来事を思い出す。


「俺のことが好きだった女子がお前を呼び出したことあったろ?」



Fは回想するかのように、目を瞑った。


**************************************


そこで、Fは驚きの光景を目にすることになる。

嫉妬に駆られた女の子たちに囲まれる(作者)がそこにいた。

怯えもせず、謝りもせず、ただ、凛としてそこに立っていた。


「なんでお前がFの彼女なの?意味が分からない!」

「さっさと別れてよ」


そんなやり取りをしている場面を目撃したFは当然、止めに入ろうとした。

だが、(作者)は無表情のまま、こう言い放った。


「私は4回告白して、3回も振られてるの。

それでも諦めることなく思いを伝え続けたら、付き合えた。

これは、私の粘り勝ちだよ。告白もしていないのに、私を呼びつけて文句を言うのは違うんじゃない?

あなたたちもFくんに告白すればいいんだよ。

告白して、ようやくあなたたちは私と同じ土俵に立てるんだよ」


(作者)らしい言葉にFは思わず、笑ってしまった。

図星だったのか、女の子たちは思いっきり(作者)の頬を叩いた。


「何してんだよ!!」


Fが現れたことで、女の子たちは顔を青ざめてそのまま、この場から立ち去った。

Fは頬が赤くなった(作者)を見て、


「大丈夫か?」


そう聞いた。すると、(作者)はかすかに笑った。


「大丈夫だよ」


その返事にFはただ、驚きでいっぱいだった。

この子は、こんなにも強いのか。すると、不思議と不安の気持ちも溢れてきた。

この子はきっと、一人でも大丈夫だ。


**************************************



「そう思ったんだ」


回想を終えたFは目を開けた。

申し訳なさそうにするFを見ていたら、


「私は一人でも生きていけるわけじゃないんだよ。ただ、演じてきただけだよ」


なんて言えるはずもなく。


「そっか」

「ごめんな」

「ううん。気にしないで。私が強すぎた、ってだけだから(笑)」


私たちは笑い合った。


「Fくん」

「うん?」

「ずっとあなたのことが好きでした。遠くに行っても応援してます」

「ありがとう!」

「そして、」

「―-うん?」


私は意を決して、あるお願いを口にした。


「…私を、」


―--ちゃんと振ってください。

陸上に集中したい、だなんて建前の言葉などではなく。


このお願い事にFは目を大きく見開いた。


「ちゃんと振ってくれない限り、私はずっとFくんを想い続けます。

…重いでしょ?

私はFくんを縛り付けるような女になりたくない。

だから、あなたの手で、私を切り離してください」


振られる覚悟はもうとっくにできている。

さぁ、私を酷く振ってくださいな。





「…(作者)」


私を呼ぶ声が酷く優しくて、泣きそうになった。


「俺は確かにお前のことが好きだったよ」


今、優しさはいらない。

早く、振ってください。


「いつも凛々しくて。周りに流されなくて。正義感が強くて。

干渉してこないのに、困っている人を放っておけない。そんなお前が好きだった」


初耳だった。

何で今、このタイミングで言うのだろう。


やはり、あなたは、


―---残酷だ。



「でも、お前は一人でも平気な奴だ。

何があった時さえも、一人で解決してしまいそうで。

俺がいなくても大丈夫だろって思ってしまった。だから、あの時別れようって言った」


うん。


「だから、今も俺のこと好きだって言ってくれて驚いたけど…嬉しかった」

「…はい」

「(作者)。すまん。俺はお前をずっと好きでいることはできない」


やっと。

やっとだ。

ようやく、本当の意味で振られることができた。


「ははっ。ありがとうございます。大満足です」


私は満面の笑みを浮かべてみせた。


「幸せになれよ」

「…っ」


それは呪いの言葉のようで。


「…Fくんこそ、幸せになってください。

っていうか、幸せになってくれないと許さない。3年付き合った私を振ったんだから」

「ははは!そうだよな」

「うん」


私たちは、目を合わせて、大きく笑った。


「じゃあ、行くわ」


私に背中を向けたF。私は息を吸い込み、大きく吐いた。


「いってらっしゃい!!」


私はFの背中を力一杯、押し出した。

これはエールだ。

私から愛するあなたへ。


Fは豪快な笑い声を上げて、校門の角へと消えた。


これで私の初恋はおしまい。

さようなら、私の初恋。


頬から伝っていく涙は、今までにないくらい熱かった。



ーーー初恋はやはり残酷だ。


いくら時間が経っても、初恋は特別で忘れられない。

たとえ、120%美化された思い出だとしても、それは確かに私の鼓動を速くさせる。

今、黒歴史だと割り切って話すことはできるが、それは自分自身だからそう言っていいのであって、他の人が私の初恋の思い出を悪く言ったり、汚したりすることは許さない。

この思い出は私だけのものだ。

それほど、初恋は特別で、残酷なのだ。

今でも目を閉じれば、好きな人の笑顔や温もり、言葉、全てが鮮明に思い出される。


『(作者)』


優しく私の名前を呼ぶあの人はもういない。



成人して初めて飲み会に幼馴染から誘われたことがあった。



「今度、飲み会があるんだけど来る?」

「メンバーによるかな」

「あー。あの人、いるんだけど来る?」


すぐにFのことだと分かった。


「…ううん、やめとく」

「なんで?より戻そうとか考えないの?3年も付き合ってたんだよ?」

「はは!全然」


よりを戻す気などこれっぽっちもない。

彼と過ごした日々は幸せだった。宝物だった。だからこそ、よりを戻さないと決めていた。

ようやく前を向いて、歩けるようになったから。


「そっか。…最後に一つ聞いていい?」

「うん、何?」

「まだあの人のこと、好き?」


その問いかけに、私はなんと答えたら良いか一瞬、迷った。


“好き”の形は様々である。

初恋の時の“好き”と今の“好き”は間違いなく違う。

それは断言できる。

どう違うのかを言語化するのは難しいけど、確かに違うのだ。


恋を知った。


ときめきを知った。


嫉妬を知った。


憤りを知った。


切なさを知った。


あの人から多くの感情をくれた。

あの人から多くの思い出をくれた。


なら、今私が出せる答えはーーー



「大切で、大切で、とても好きだったよ。

ーーーーーきっと、今も」


そこで、私は初恋に破れてから、初めて心の底から笑うことができたのだった。


「そっか!」


幼馴染も嬉しそうに微笑んでくれた。




ーーー初恋は報われない。


これはあくまでも私の経験によるものであり、全てが報われないというわけではない。

世の中には、きっと初恋が実り、永遠の愛を誓い合った人もいるだろう。

ーーーだが、それは100%ではないのだ。ごくわずかなうちの奇跡だ。それを知っていて欲しい。

そんな奇跡に巡り会えた人は、その奇跡を大切にしてほしい。

幸せになってほしい。



あなたの初恋はどんなものだっただろうか。


素敵な初恋?


苦しんだ初恋?


実った初恋?



初恋にはいろんな形がある。

それをどう自分の中でうまく消化していくことが、割と重要な作業なのではないだろうか。

初恋の思い出をなくせと言っているわけではない。

むしろ、人生の糧になるんじゃないか。

初恋は、二度目の恋にはない美しさや残酷さがある。

それはあなただけのものだ。

他の誰にも渡したくないでしょう?

だからこそ、消化をした方が自分の心や思い出を壊さないでいられるのではないだろうか。


もし、今、遥か向こうにある初恋に焦がれて、


苦しんで、


幾多の涙を流し、


胸が張り裂けそうな初恋をしたのなら…


初恋を無くすのではなく、うまく消化して、後になって


「いい初恋だった!」


と笑って言えるようになってほしい。



初恋は確かに実らないことが多い。

報われないことも多い。


それでも、私たちに大切な思い出をくれるのだ。

そういうものなのだ。


初恋は、


残酷で、


苦しくて、


それでも、


―-----美しいものなのだから。

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