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最終話:覇道の果て(ハッピー・エンドレス)
数年後。
そこは、かつての寂れた街を見下ろすようにそびえ立つ、巨大な城の一角。
ステンドグラスから差し込む光が、広大な謁見の間を真っ赤に染め上げていた。
正面に据えられた巨大な王座。
そこに、一人の少女が尊大に、そしてどこか落ち着かなげに座っている。
頭にはあの日買い与えられた「プラスチックのボンドのはみ出た王冠」。
左指には指を真っ直ぐに保つのすら一苦労な「クソデカい宝石の指輪」。
そしてその装いは、下半身こそ豪華絢爛なドレスだが、上半身はあの日から愛用し続けている「コウタのトレーナー」だった。
「……ちょっと、コウタ。なんで私が本当にお姫様(覇王)になってるのよ。……私の当初の予定では、ここは『サイバーパンク・カナちゃん・ラブネスト・ウィズ・コウタ』として、賢者にでもあげたはずでしょ!!」
「……あ、いっす。……いや、毎日毎日、街のど真ん中で『私が覇王よ!』って叫んでたのはカナさんじゃないっすか。……まさか本当に大陸全土をハックして、物理的に覇王になるなんて俺も思ってなかったっすよ」
隣に立つコウタは、数年前と変わらぬ「死んだ魚の目」をさらに深化させ、心底疲れた様子でため息をついた。
その視線の先には、整列して「覇王カナ様!」と一糸乱れぬ敬礼を捧げる、かつてのドロップアウト職人や冒険者たちで構成された最強の家臣軍団がそびえ立っている。
さらにその傍らでは、賢者が「うう……このラブコメの最終回みたいな光景、僕の精神的バフが追いつかないよぉ……」と、泡を吹きながらも必死に二人の歴史を記録していた。
「にししし! まぁ、世界を獲ったこと自体は私の才能だから当然なんだけど……。でも、これじゃダメなのよ! こんなに家臣がいたら、コウタといちゃいちゃできないじゃない!!」
カナは王座から身を乗り出し、重たい指輪をキラリと輝かせながら、隣の家来の袖をギュッと掴んだ。
周囲の家臣たちが「おお……覇王様の愛の波動が……!」と感涙に咽ぶ中、コウタはふいと顔を背ける。
「……あ、いっす。……じゃあ、今すぐ退位して、どっかのパン屋の裏口にでも逃げますか? ……タイパは最悪っすけど、二人きりなら、いくらでも時間は作れるっすから」
「……っ、……あんた、……たまには良いこと言うじゃない!! さあ行くわよコウタ! 覇王のバカンスよ!!」
カナはプラスチックの王冠を投げ捨て、ドレスの裾をひるがえして王座から飛び降りた。
呆然とする家臣たちを置き去りにして、彼女はコウタの手を強く、強く握りしめる。
二人が駆け出す先には、あの不味いパンの匂いと、終わりなき騒がしい日常が待っている。
令和の覇道。
それは、世界という名の宝石よりも、たった一人の家来の隣で笑う「幸せなバグ」を選び取った、一人の少女の物語。
「「にししし!!」」
二人の笑い声が、青空の向こうまで、どこまでも響き渡っていった。
【完】




