21 家族
エマとエドワードは座ってマリアとレンの話を聞くことにした。
「次はどこへ向かわれるのですか?」
「実は……レンはしばらくここで暮らすことになっています」
「え?」
レンの主属の魔法は火。しかし闇魔法が使えるようになったことで、研究のためにこの魔法研究所で一時的に過ごすらしい。
「アレン様が闇魔法を?」
「アレンではなくレンだ。心配はいらない。俺の主属魔法は火だ。初級レベルの闇魔法しか使えないから、人を呪うほどの力はない」
「初級……」
「あぁ、せいぜい小さい黒輝石を作れるくらいだ」
「黒輝石を作ったのですか?」
「マリアが風邪をひいて治す時にな」
レンは黒輝石を隠そうとしたが、風邪が完治したマリアにすぐに見つかったらしい。
「私は聖女ですよ!? もう黒輝石の気配くらい私にだってわかります! 私に隠そうとするなんて!」
マリアは怒っていたが、レンへの思いやりが感じられた。
レンはマリアの旅の同行者として、エマを安心させて認めてもらえるように説明していたのが、エマは全く別のことを考えていた。
「素敵ですね!」
「何がだ?」
「聖魔法は自分には使えませんから。マリア様が風邪の時にレン様が治して、マリア様が黒輝石を浄化して……。理想的なカップルですね!」
レンはエマに褒められると思ってなかったので呆気に取られ、マリアはカップルという言葉に過剰反応していた。
「カップル!? 私とレンはそんなんじゃありません! 仲良くありませんから!」
マリアの強い否定の言葉にレンが悲しそうな声を出した。
「俺はマリアと仲良くしたいと思っている。俺に悪い所があるなら教えてくれ」
マリアはレンに真剣な眼差しで見つめられ、ますます顔が赤くなった。
「今そんな話してないから!」
「だが……」
「後で! 後で話しましょう」
「約束だ」
「うん」
エマは仲良さそうなマリアとレンを暖かく見守っていた。
出発の時が近づいた。
「エマ様、また手紙を書きます」
「私もです。ミカエル様、お世話になりました」
「エマ嬢、エドワード、また会いに行くよ」
「はい!」
エマはミカエルとの再会を快く約束したが、エドワードはもう来なくていいと口から出そうになった。
エマとエドワードは帰りも手を繋いで転移ゲートをくぐり、ホークウッド領の家へと辿り着いた。
濃い出来事がありすぎて、たった2泊3日しか経っていないのにずいぶん懐かしい気がした。
「エマ様!」
「アメリア! ただいま!」
♦︎
そして5年の月日が経った。
世界中に散らばっていた黒輝石の大部分は浄化され、魔物の数も大幅に減少した。魔物の数は0にはならないが、凶暴性が低下し被害が格段に減った。
黒輝石が減ったおかげか、各地で男女問わず聖魔法使いが誕生し、聖魔法使い1人1人が担当する浄化の量も減った。
そしてエマは1児の母となっていた。エドワードに似た3才の女の子、エルサだ。
「ママー、赤ちゃんまだ?」
「赤ちゃんは今日かな? 明日かな?」
「早く会いたいな」
「ママもよ。楽しみに待っていようね」
エルサは寝台に横になっているマリアのお腹に向かって声をかけていた。
マリアはレンとの子どもを身籠っている。双子なので出産時の危険が高く、エマの元で出産することになった。
「エルサ、赤ちゃんと遊ぶ」
「エルサちゃん、ありがとう。エルサお姉ちゃんだね」
「エルサお姉ちゃん! ママ、エルサお姉ちゃんだって!」
お姉ちゃんという響きに感動しているエルサの頭を、エマが愛おしさを込めて優しく撫でた。
汗ばみ少し辛そうなマリアをエマが気遣う。
「マリア様、治癒魔法をかけときましょうか」
「エマ様すみません、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです」
エマがマリアの手に触れ、優しく魔力を込める。
「楽になりました。ありがとうございます」
マリアの側に控えるレンからもお礼を言われた。
「エマ様、感謝する」
エマはマリアの側から離れずソワソワしてるレンを見かねて声をかけた。
「レン様、少し落ち着いてください」
「あぁ」
「もう! レンにウロウロされたら気が休まらないから、ご飯でも食べてお風呂も入って来て!」
「わかった」
レンはマリアに追い出され部屋を出た。
「マリア様、私たちもご飯を食べてまた様子を見に来ますね」
「エマ様、申し訳ないんですが、レンにちゃんと休むように言ってもらえませんか? ずっと寝てなくて……」
妊婦に心配されるレンにエマは苦笑した。
「わかりました」
エマたちも部屋を出ると、レンが廊下で待っていた。マリアのことが心配なせいか俯いて覇気がない。
「レン様、マリア様は大丈夫ですよ! 私も精一杯お手伝いしますし」
「エマ様……子どもは闇魔法使いになるのだろうか?」
「闇魔法使い?」
「私の血を継いでいる。聖魔法ならいいが、闇魔法なら……」
レンは自分が闇魔法に目覚めたのは血のせいだと思い、子に遺伝することを恐れていた。
確かに親と同じ属性の魔法を、子が使えるようになることは多い。
闇魔法使いについては、まだ一般には秘密にされたままだ。しかし魔力鑑定の際に本人にはわからないように闇魔法も鑑定され、発見され次第観察対象となっている。そして必要に応じて保護・教育されることとなった。
ミカエルたちが調べたところ、闇魔法使いはモーリスの他にもいた。その人たちは闇魔法使いと名をつけられていないだけで、存在しないことにはできないのだ。
ミカエルはレンとも協力し、闇魔法使いが社会で活躍できるように魔法の研究を続けているそうだ。
レンの腕にはまだ位置探知の魔道具の腕輪がついている。ミカエルに外したいかと聞かれたが、罪を忘れないように戒めのために生涯つけると答えたそうだ。
「レン様、聖魔法でも闇魔法でも、例え魔法が使えなくても……レン様とマリア様がお子様を愛してあげてください。愛が伝われば子どもは幸せに育ちます。私がそうでしたから」
「エマ様が?」
「はい。私はずっと魔法が使えませんでしたが、家族に愛されて育ったので不幸だと思ったことがないのです」
「愛……私にできるだろうか?」
「できますよ! レン様はマリア様を愛していますから! それに子が産まれる前からこんなに悩んでいるんです。お子様のこともすでに愛していますよ」
「……そうか」
レンは小さく微笑み、エマに隠れて静かに涙をこぼした。
食堂では仕事を中断したエドワードが待っていた。
「エマ、エルサ! 会いたかった!」
エマとエルサはエドワードに抱きしめられた。とても3時間前に会ったとは思えないほどの歓迎ぶりだ。
「エマ、早く座って。体調はどう?」
「エド、私たちの赤ちゃんが産まれるのはまだ5ヶ月も先よ! 体調も今は落ち着いてるって朝も伝えたでしょ!?」
エマとエドワードももうすぐ2人目の子を迎える。2人の仲はさらに深まり、エマもエドワードと気さくに話すようになっていた。
妊婦本人より心配性な夫たちに、エマは若干呆れてしまった。
「治癒魔法は身体に負担がかかるんじゃないか? 心配だ」
「白輝石に魔力を貯めて使ってるから、負担は全然ないわ」
エドワードはエマのお腹に手を当て、まだ見ぬ子へ話しかけた。
「愛してるよ」
「パパ、エルサは?」
「エルサのことも、ママのことも愛してる!」
エドワードはエルサを高く持ち上げ、エルサの笑い声が食堂に響いた。
「エドワード、パパのことは?」
「父上、早く食べて仕事に戻ってください」
マーカスはいつもエマたちの家族団欒に加わろうとし、エドワードに冷たくあしらわれていた。
今日もエマは大好きな人たちに囲まれ、幸せな時を過ごす。
エマの左手には、エドワードから贈られた婚約指輪と結婚指輪が輝いている。
婚約指輪には新しいブルーダイヤを中心に、割れて小さくなったブルーダイヤが輝きを失わずにいくつも並んでいた。
もちろん新しいダイヤにも、位置探知の魔法や攻撃を跳ね返す魔法が付与されている。他にも色々付与されているが、エドワードはエマには秘密にしている。
エマに何が起ころうとも、エドワードとこの指輪が生涯エマを守ってくれるだろう。
(完)
この物語はこれで完結となります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
新連載「婚約破棄されたので辺境でドラゴンとゆっくり暮らすはずが、忙しい幸せな毎日を送っています」をスタートしましたので、こちらもご覧いただけると嬉しいです。




