♯22
城砦都市バーリンは、お祭りムードに包まれていた。
街の建物の窓からは、ドワーフ王国の赤白、獣人国の青白、エルフの緑白を示す布が垂れ下がり、王城への通りを進む兵達に道路の左右から、建物の上からも歓声があがり、紙吹雪が舞っている。
楽器の音が路上に響き、一人がそれに合わせて歌い出すと、合唱が通り全体へ広がっていって、収拾がつかない程のはしゃぎっぷりだ。
ドワーフの投石部隊は、限界まで粘ったせいで、軽症ではあるものの怪我人多数、軽い火傷はほぼ全員。ロープで一斉に城壁から離脱する作戦は失策だったようで、同士打ち多数。
獣人軍も、最後の掃討戦で戦闘による傷より、延焼にまかれて火傷をおったものが多数。みな自慢の毛皮が焦げたり、油煙でゴワゴワ、白い毛皮の者が黒白のまだらになってしまって落ちないなど、被害は甚大。
エルフの六人は、四人で巨大な水球をぶつけた後、残る二人が作ったシールドを最後は全員で守り切り無傷。
火が心地よかったオレももちろん無傷で、作戦の立案者としては、ドワーフと獣人軍の皆に申し訳無い結末になってしまった。
街の大通りでは、住民が次々とお湯を沸かしてバケツに入れて運んでくれて、獣人達の毛皮の洗濯大会が開催されている。
あれだけ猛々しくも勇ましい獣人の兵士達が、毛皮を洗われてる時は、無理やり洗われてしまった飼い犬のような表情になっていて、オレが犯人と言うか首謀者なんだけど、つい微笑んでしまった。
特に豹人のアドリアさんが、ドワーフの女の子達に囲まれて洗われてる姿が、眉が八の字に下がって、この世の終わりのような表情になっていたのにはまいった。
スマホ持ってたら、絶対残しておきたい一枚だった。
イリスは、獣人軍では唯一汚れてなかったんだけど、街に凱旋してきたアドリアさん達に見つかって、汚れたみんなにワッショイされたので、やっぱり揃って洗われている。
闇の王とかも倒したし、これでオレはお役御免になって、寝て起きたら向こうに戻ってるのかな。剣をフラムさんにお返しして、イリスにお礼をいって、何か記念になるものでも贈り物とかしたほうが良いかな。ハスキーなエミルにも、エルフのワインを贈りたいな。でもお金がないぞ、どうしよう。
みんなの姿を見ながら、考え事をしているオレの所へ、猫人のノアさんがやってきた。
「ああ、アユムさん、お探ししてました。例の指輪の事で、お話したい事がありまして、今よろしいでしょうか」
「あ、はい」
ノアさんがオレを先導して王城の中へ入っていく。
ノアさんもオレも姿が目立つので、ドワーフの衛士達は最敬礼で迎えてくれて、お城の中なのにどんどん奥へフリーパスで通過していく。
「此方になります」
ノアさんが開けてくれたドアの向こうは、小さいながらも豪華な応接室で、フラムさんと白衣を着たドワーフの技術者のような男性が話しこんでる姿があった。
「アユム殿をお連れしました」
ノアさんの言葉でオレに気が付いた白衣のドワーフの男性が、禿げ頭を撫でながらぺこりと頭を下げる。
「アユム殿、この指輪に関しましては、工作が得意な我々でもお手上げでしたが、魔道師フラム殿の御協力で謎がとけましたぞ」
「あ、それでフラムさんも此方にいたのですね。あ、フラムさん、オレ先にこれをお返ししておかなくては……」
オレが預かってる光剣を布で包んだ物を、フラムさんに渡そうとしたら、フラムさんは大切なものの筈なのに、もう少しだけ預かってて貰えるかい? と尋ねてきたので、何か訳ありなのかなと察して、素直に同意しておいた。
「解説は、専門家であらせられるフラム様が、なされた方がよろしいかと存じます」
ドワーフの技師に押されて、フラムさんが口を開いた。
「アユムくんは、エルランディアの地下で魔法陣を見たんだよね」
「はい、骸骨みたいなベーゼを倒した後、その指輪で魔法陣みたいなのが起動して、獣人国まで飛んできた感じです」
「魔法を発動させる道具というものは、魔道具と魔法陣という二種類の方法があるんだ。魔道具というのは誰でも動かせる魔法の道具、魔法陣というのは、書いた本人しか動かせない道具、基本的には魔法陣の方が大掛かりな魔法になる」
「はい、わかります」
「そこで、この指輪なんだけど。自分の魔力で書いたものじゃない魔法陣を作動させる事が出来る。はっきり言って革命的だ」
「なんだか便利そうですね」
「ところで、魔法陣は製作者が死んでしまったらどうなると思う?」
「もしかして、動かなくなったりします?」
「おおっ、お見事。その通りだ」
「僕があの地下から飛べたという事は、あの魔法陣は骸骨が作ったものじゃない……」
「そうなるね。そして転移魔法の魔法陣とか、他人の魔法陣を動かす指輪なんて、見た事が無い発明品だよ」
「あの巨大なウーズが、それを作った?」
「残念ながらあれでは無理だ。製作者は人型で魔道師だね。そいつが竜の谷から卵を奪ったと考えられる」
「フラムさん、という事は、闇の王はまだ生きている」
「エルランディア王国の骸骨も、あの巨大なウーズも、実は只の配下だったということで間違いない」
オレは自分の心臓が脈打つのを感じた。
「倒しましょう。オレ達は力が余っています。勝負はまだついていない。上等ですよ。手駒を失って色々バレた闇の王は動くでしょう。やっつけましょう」
自分で言ってて、オレこんなに好戦的だったかなと不思議な感じがするんだけど、この身体になってから闘いを途中で放棄するとか、そんな情けない事、絶対にありえないと思ってしまう。
「ありがとう。アユムくん。君ならそういってくれるんじゃないかって思ってたよ。その剣は君が持っていて欲しい。うちの国王様のごり押しなんだけど、祭司長様もそれで良いと思いますと言ってくれた。それにほら」
フラムさんが自分の腰の剣をスラリと抜いて見せてくれる。なんだか預かってる大切な剣と瓜二つに見えるんだけど……。
「御揃いだよ、同じ志の者同士で同じ姿の剣、素敵だろ」
「は、はい」
エルフの国、伝説の剣のレプリカ何本あるんだよ。
まあ、きっとフラムさんなりの気の使い方なんだろうね。
対外的にか国内的にかわからないけど、フラムさんが持ってるというスタンスなら許容範囲なんだろう。オレも預かってる剣を抜いてフラムさんのと並べてみた。青白く輝く刀身といい、柄の見事な装飾と言い寸分違わずで、混ぜたら本物がどっちかわからなくなりそうだ。
「あーアユムも貰ったんだ。良い剣だよこれ。エルフの鍛冶屋も流石だね」
まだちょっと乾ききってないイリスがやってきて、腰の剣をぬいて三本の同じ剣が並ぶ。いやいやいや、何本あるんですかレプリカ。
「なんだ、なんだこんな所で、今回の立役者が集まって剣のくらべっこか」
自慢のたて髪があちこち焦げて、ちょっとかっこ悪くなってしまった獣王クレイグが背後からぬっと出てきて、覗きこんできた。この人も凄い存在感のくせに、いつの間にか背後にいたりするんだよね。さすがと言うか、何と言うか。
「オレも混ぜろ。エルフもこのような豪剣を打つとはたいしたものだ。実に気に入ったので普段使いさせて貰うぞ」
あら、獣王まで。獣人が貰い物を普段から使うって言うのは、最高に気に入ったという賛辞だ。
「さあ、皆一緒に来い。勝利を民と共に喜び、わかち合うのも戦士の務めだ。お前達が見えないところにいると、民が納得せんぞ」
オレ達は獣王にひっぱって行かれて、大勢の前でなれない事を色々やって大変だった。この日は夜遅くまで街全体が明るく、疲れたけど楽しい喧騒に包まれた最高の夜が過ぎていく。




