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28/28

28.全ての始まり

 その日の夜。

 身支度を整えた私は、寝室でライアンの訪れを待っていた。新婚初夜という事で、もう昼間の結婚式以上に緊張してしまっている。

 身体は隅々まで磨かれ、香油を塗り込められた所まではまだ良かった。だけど、目を剥くような薄い夜着を着せられてからは、どう頑張っても平静でいられない。よく見たら大事な所が透けて見えてしまっていて、あまりにも恥ずかしいので、上からガウンをきっちりと着込み、手持ち無沙汰で落ち着かないので、大きな枕をしっかりと抱き締めて、ベッドに腰掛けている。


 ああああ無理緊張する! もう来るならさっさと来て欲しい! いややっぱりまだ来ないで心の準備ができていない!! 伯母様にはリラックスして、殿方に身を任せれば良いと教わってはいるけれど、どうやったらリラックスできるんですか伯母様あああ!!


 カチャリ、と部屋の扉が開く音がして、私はビクッと身を震わせた。恐る恐る顔を向けると、そこには私と同じようにガウンを着て、照れたような笑みを浮かべるライアンが居た。


「クリス、待たせてしまったか? 今日は疲れただろう」

「え、ええ、まあ……」


 ライアンは私の隣に座り、まるで大切な宝物を扱うかのように、そっと肩を抱いてきた。そろりとライアンを見上げると、私の顔を覗き込むライアンと目が合う。


「クリス……好きだ。愛している」


 そっと頬に手を添えられて、唇が重なる。受け入れるだけで精一杯だったけど、ふと私は大事な事を思い出した。


「ね……ねえ、どうしてライアンは、私の事を好きになったの?」


 顔を真っ赤にしながら訊いてみると、ライアンはピシリと固まった。

 え? あれ? そんな変な事訊いたかな? でも……。


「約束してくれたわよね? 結婚したら言ってくれる、って」

「あ……ああ、そうだったな……」


 気まずそうに視線を彷徨わせるライアンに、私は首を傾げながら待った。だけど、ライアンは何かを言い掛けてはすぐに口を閉じるだけで、一向に言い出そうとする気配はない。痺れを切らした私は問い詰めようかと思ったけれども、無理に聞き出そうとして答えてもらえなかった過去が脳裏を過った。

 ……よし、こうなったら昼間の仕返しをしてみたらどうだろう。


「ライアンって、何だかんだ言っても優しいわよね」

「!?」

 ライアンの顔をじっと見つめながら口にすると、ライアンが驚いたように、勢い良く振り向いた。


「いつも私の事を大切にしてくれているし、私の意見をちゃんと聞こうとしてくれるようになったし。私はあんたに結構酷い態度を取っていた時期もあったのに、それでもあんたは私の心を開こうと努力してくれた。コルヴォ村で私を庇ってくれた事は、勿論今でも感謝しているけれども、それ以上にライアンが言ってくれた、『謝られるよりも、お礼の言葉の方が嬉しい』っていう台詞に、私はとても救われたの」

 ライアンの顔が、見る見るうちに赤くなっていく。


「あ、後、あんたの満面の笑顔……私は、結構好き、よ」


 ああああああもう無理!!

 昼間の仕返しって思ったけれど、これは諸刃の剣だわ! 私にまで相当なダメージが……!!

 赤くなってしまった顔を枕に埋めて隠していると、上から言葉が降ってきた。


「その……、一目惚れ、だったんだ」

「え? 一目惚れ……?」

 ライアンの言葉に、私は顔を上げる。


「お前の事がどうしても忘れられなくて、再び夏が来ると、俺はコルヴォ村を訪れて、お前の事を訊いて回った。だけど、その時にはもうお前はあの村には居なかった。父君を亡くしたばかりで、親戚の所に行くと言っていた事しか分からなくて、もしかしてもう二度と会えないのかと、俺は絶望した。だけど、どうしても諦める事ができなくて、翌年も村を訪れた。そうしたら、お前が何処かの貴族に引き取られた事が分かったんだ。それからは必死になって調べ上げて、漸くクリス・シルヴァランスに辿り着いた。それからはもう、俺は人が変わったと言われるくらい、必死になって自分を磨いたよ。誰にも文句を言わせない、クリスに相応しい男になれるように、クリスに、選んでもらえるように」


 そうだったの……? そんなに前から、私の事を?

 私は目を見張りながら、赤い顔で訥々と語られるライアンの話に聞き入っていた。


「漸く父上にも、シルヴァランス伯爵にも認められて、クリスとの縁談が持ち上がった時は、天にも昇る心地だった。だけど、お前に拒絶されて、縁談も断られそうになって、目の前が真っ暗になって……。後はもう、どんな手を使ってでも、どれだけお前に嫌われても、絶対にお前を手に入れる事しか考えられなかったんだ」

「そう……だったんだ。それで、脅すような真似をして……」

「ああ。あの時はすまなかった」

 ライアンは真摯に頭を下げた。


 そっか、一目惚れ、かぁ……。それからずっと、私の事を想ってくれていたなんて……。

 長年のライアンの想いに、嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったい気持ちが湧き上がってきて、私は枕を胸に抱き直した。

 ……あれ? でも確か……。


「ねえライアン、一目惚れ、って言っていたけれど、あんた最初は私の事、少年だと勘違いしていたんじゃなかったっけ?」

 私が尋ねると、ライアンはビクリと身を震わせた。


「あ……、だから、その……、お前が女性だと分かった時に、一目惚れして……」


 私が女性だと分かった時……。

 って!! 私の裸を見た時じゃないかあああああ!?


「ああああんた!! まさか、あの時見た私の裸を、ずっと覚えていたとか言うんじゃないでしょうね!?」

 私が身を乗り出して問い詰めると、ライアンは青褪めながら仰け反った。


「し、仕方ないだろう!? 思春期に突入したばかりの少年にとっては、衝撃が強過ぎたんだよ!!」

「信じられない!! 今すぐ忘れてよこの馬鹿あぁぁ!!」

 涙目になった私は、枕を振り上げて思いっ切りライアンに投げ付けたが、難なく受け止められてしまった。


「ああもう、絶対お前が怒るだろうと思ったから、言いたくなかったんだよ! だけど、もう別に良いだろう!? 俺達は結婚したんだし、これからお互い裸を見せ合って、もっと凄い事するんだからな!?」

「開き直るだなんて最低よ!! 結婚したからって何でも許されると思わないでよね!! 離婚っていう手段だってあるんだから!!」

 今度はライアンに殴り掛かろうとしたけれども、あっさりと両腕を拘束されてしまう。


「お、おい、結婚したばかりで、流石にそれは無いだろう!?」

「問答無用!!」

「ギャアアァァァァァ!?」


 頭に来た私は雷魔法を使い、またもやライアンを黒焦げにしてしまったのだった。

 ……まあ、何だかんだ言いつつも、私もライアンの事は憎からず想うようにはなっていたので、離婚だけはしなかった、とだけ言っておこう。

黒焦げに始まり、黒焦げに終わる物語、如何でしたでしょうか?

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 全体を通して愛の言葉が直球すぎるような…… まあ、クリスにはそのくらいじゃないと伝わらない可能性大だったかもだけど
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