19! 勇者
観客達の人数が先程よりも減少している。入隊試験の合格発表は明日らしい。その後は時間が経ち次第、閉じてしまう。陽は降りてきている。そんな中、コトは謎の男、キットを睨み続けていた。
「…。」
暫くしてキットは言い始めた。
「…おいおい、ジロジロ見んなよ。」
コトの睨んだ目はごまちゃんをビビらせた。
「わーったよ。明日手合わせしてやるからさ。」
コトはそう言われても睨み続けた。
「んじゃあね。」
キットは立ち去っていった。
「何なの…あの人?」
「勇者キット。俺の父を倒した張本人さ。」
「それだったら…次狙われるのもコト君じゃないの?私は次も助けるつもりよ。もう、止められない。」
コトはごまちゃんの言葉を聞き、額に手を当てた。
「…ちょっと痛いけど、我慢してね。」
そう言いコトは目を閉じた。
「うっ、痛っ…」
「オーケーだよ。これで大丈夫だよ。」
自分の身体を見た感じ、何も変わっていなかった。
「何したの?」
「おまじない。魔法に対しての補助を付けただけ。もう外に行こう。閉じ込められるよ。」
コトはごまちゃんに言い、急かさせた。
同刻、クリスタ王達は緊急の会議を開いていた。
「皆の者、よく聞け。魔神が復活していた事は確かだった。その原因がジェドという魔族によるものだとも判明された。」
「おおぅ…」
「魔神は何故復活したのじゃ?デュアルデルタ鉱石で閉じ込めたのではないのか?」
一人の老人が王に問う。
「完璧に復活しているらしい。ジェドの父の心身を捧げることによってな。」
室内がざわめき始めた。
「ええい!煩い煩い!会議なんだから分からない事は一人ずつ発表しなさい!」
クリスタの後ろにいるダルダルが場を静ませた。
「よく言ってくれたな…」
「はっ、クリスタ王。お許しください。」
「変な癖を付けてしまったものだな。」
暫くし、ごまちゃん達は近くから取った地図を元手に次の場所に着いた。まだ夕暮れではなかった。そこは大浴場だった。
「ああ良かった!久々の風呂だよ!汗かいてから少しベタベタで薄気味悪かったなぁ。」
ごまちゃんは大いに喜んだ。
「身体臭ってはいないけどね。」
「まさかさっきの?」
「同じ奴だよ。バリアさ。君と仲間になってからその様にならないためにずっとかけていたんだよ。」
ごまちゃんはそんな事を無視してスキップして玄関に行った。その時だった。
「テメェらここは貸し切りだぁ!!」
そう叫んでごまちゃんの前まで全速力で走った。背の高い、日焼けしている、鋭い目つきの巨乳の女性だった。
「どういうつもり?ここは唯一の大浴場よ。貸し切りなんてあり得ないわ!」
「それが出来るほどの力を持ってんだ。悪いけど明日にでもしてくれ。」
ごまちゃんは頰を膨らませた。
「そういう顔されたって…あっ!」
そこにコトがごまちゃんの所に出てきた。
「…まさかここで合うとはね…トホホ…。」
「あの魔王の息子だろ!」
( まさか、可愛いのは小さい頃だけかと思ったら、今でも可愛く…やるなら今かな? )
女はそう思い、今度はコトに接近した。
「名前は確かコト君だったね。」
「そちらはデミさんだったでしょ?」
コトとデミは少し睨みながら笑みを作った。身長はデミの方が大きかった。暫く沈黙が続いた。その間にデミは腹パンを試みたが、コトに見破られ、手で抑えられた。普通ならとても受け止められる速さでは無かった。しかし、仰け反ったコトに突然抱き締めてきた。
「「!?」」
コトもごまちゃんも驚いた。
「うっ…」
コトはきつく抱き締められ苦しがっていた。
「ちょっと!やめてあげてよ!」
「この子だけ入れてやってもいいよ。」
コトが気絶したら、デミは大浴場にコトを運んで行った。
「コト君!?ねぇ起きてよ!コト君!コト君!!」
「あ〜〜らあら、お困りかい?お嬢さん。」
後ろを振り返ると、先程の勇者、キットが現れた。
「あのさ、コト君が…」
「そこまで聞いたらもう分かった。直ぐ向かうよ。」
「あっ、待って!」
キットと一緒にごまちゃんが付いていった。




