第100話 祓いの光
戦場は、黒い豪雨だった。
降り注ぐ炎の驟雨を、ミラが、真っ向から受けて立った。両手から迸る火が、傘のように広がり、黒い雨を弾き続ける。
「二度目よね、あんたの火とは!!」炎の中で、ミラが吼えた。「一度目は守り切った!! 二度目の今日は——消す側よ!!」
彼女の火は、もう、揺らがなかった。怒りではなく、意志で燃える火。バーサの炉で鍛えた、拵えるための火が、狂信の黒炎を、じり、じりと、押し返していく。その傘の下を、二つの影が疾った。ドランとカイ。師弟の剣と槍が、寸分の狂いもなく左右に分かれ、影の足元——ゼクスの本体を、挟撃する。殺さぬための型が、今は、亡者から人を引き剥がすための型として、唸りを上げた。
「セラ、道は開ける!! 詠唱を続けろ!!」
「はいっ!!」
セラの祈りが、高く、澄んで、夜に響く。それは千年前、アリアが幾百夜も唱え続けた、祓いの型の完成形だった。そして、ルカ。金色の眼が、豪雨の向こうに、視ていた。香炉とゼクスと影とを繋ぐ、極太の呪いの糸を。
「ミラ!! 絞るよ——一分!!」
「五十秒!!」間髪入れず、返事が飛んだ。「一秒でも超えたら、薬草茶ひと月!!」
「厳しくなってる!?」
軽口と同時に、ルカは、駆けた。炉が、燃える。四人の心が、ルカの光を支え、流し、押し上げる。星鉄の刃が、これまでで最も鋭く、最も静かな金色を纏った。柄に結ばれた青い石が、光を映して、流星のように尾を引く。
「これは——僕の家族と、あなたに焼かれた全部の村の——!!」
一閃。
金色の斬撃が、黒い豪雨を縦に裂き、呪いの糸を——断った。
影が、大きく、揺らいだ。錨のひとつを失い、輪郭が、煙のように乱れる。『おのれ……おのれ、光の末……!!』断末魔にも似た咆哮を上げ——影は、最後の錨へと、殺到した。ヴァロスへ。
『来いッ!! 我が鞘ァ!!』




