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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
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笑える人、笑えない人

 ◇◆◇◆


「有生」


「なんだ」


「何作ってんだお前」


「お菓子の家」


 俺は家状にこね固められた有生お手製クッキー生地を麺棒で叩き潰した。


「あーっ!? てめえ何してくれてんだこの野郎!」


「勝手にメニュー増やしてんじゃねえよ」


「違う! これは私が個人的に焼いて食う予定で!」


「尚更勝手に作ってんじゃねえよ」


 お菓子の家からただのクッキー生地に戻ったそれを見て、有生は涙を噛み締めた。


 お楽しみ会前日。俺が本当の有生を覚えていられる内に、少しでも有生のクラスでの立ち位置を見直そうと思い立ち、お楽しみ会のリーダーに推薦してから今日に至るまでの間。


「ちくしょう……っ、ちくしょう……っ、最悪だよお前……っ、図工の時間に子どもが一生懸命作った工作を速攻捨てるような親になるぞお前……っ」


 有生の勝手な行動には色々と目に余る物があるけれど、しかしメインの喫茶店の準備に関しては驚く程順調に進んでいる。実際。


「ね、ねぇみほりちゃん……。明日の衣装に使えそうな服探して写真撮って来たんだけど、こういうのでいいかな……?」


「え? あー……、そうだな。良いと思うけど、強いて言えば2枚目と3枚目みたいな暗い色の服はやめた方がいいと思うぞ。ダークな雰囲気の喫茶店だし、こういうのは目立ちにくいかもな」


「みほりちゃんみほりちゃん! お姉ちゃんがネイルチップ貸してくれるって言ってくれたの! 明日つけてもいいかな?」


「ネイルチップってあれか? あのキラキラした長い爪を接着剤で爪に貼り付けるやつ。サチが言ってたけど、接客は色々指を動かすから長い爪は邪魔になるってよ。マニキュアくらいにした方がいいんじゃね?」


 有生は接客や女子力のいろはについてサチさんから定期的にアドバイスを貰っているらしく、特にサチさん直伝のメイクやファッションの話なんかが背伸びしたい女子には中々の好評なのだろう。おかげで、少なくともあいつが修学旅行中に同室の女子からハブられるような事態にはならないだろうと安心出来るくらいには、あいつの立ち位置も改善しているような気がする。


 ……とは言え、どんな善人でもこの世全ての人から受け入れられる事がないように、いくらクラスでの立ち位置が向上しても、有生の事を快く思わない連中がいるのもまた事実。その連中の一人は。


「あの……有生さん」


「どうした先生」


 クラスの担任である。担任は有生プロデュースの喫茶店を、まるで悍ましい物でも見るかのような、それでいてこんな悍ましい物を作り上げた有生を責めるような目付きで有生に詰め寄った。


「先生ね、生徒の自主性を尊重したい主義だからあまりこう言う事は言いたくないんだけど……でもこれ、大丈夫なのよね?」


「大丈夫だぞー」


「いや大丈夫だぞって……でもこれどう見ても」


「大丈夫だぞー」


「いやいやでも先生の目にはどうしてもこの喫茶店が……!」


 折角ぼっちの有生が今日まで頑張って計画を練り上げた喫茶店である。それをこんなお楽しみ会前日になって、担任権限で閉店させられるなんて冗談じゃない。


「先生」


 だから俺は震える先生の肩に手を置き、彼女の不安を取り除いてやる事にした。


「有生を信じてやってください。俺達今日まで皆んな、有生を信じて一生懸命やって来たんです」


「金城くん……。で、でも金城くんならわかるでしょ!? これってどう見ても喫茶店じゃなくて……!」


「わかります。わかってますよ先生。こんな喫茶店を小学校で開いたが最後、間違いなく賛否両論……いや、なんなら賛1否9くらいの大問題を引き起こす爆弾になりかねない。でも」


「……でも?」


「それはそれで面白そうなんで俺は賛成派です」


「金城くん……っ」


 俺は泣き崩れる先生の肩を抱き、職員室まで送ってやった。


 さて、とりあえずこれで有生の敵001号である担任の問題は片付いた。万が一明日のお楽しみ会で問題が起きたとしも、俺達の味方になってくれた先生なら快く責任を取ってくれる事だろう。クラスの女子達も、ぼっちの有生がリーダーになった当初こそは敵対心が見えたけど、先生みたいになんやかんや有生に取り込まれながら普通に話せる関係にまでなっている。


 そもそも有生がぼっちなのって、あいつのコミュ力に問題があるわけじゃないんだ。あいつは初対面の相手にだって物怖じしないどころか、昔ながらの旧友とでも接するように気さくに話しかけられる奴だ。そんなあいつがクラスで浮いているのには二つの理由があって、一つは転校当初の意図的に周りから距離を置こうとした言動であり、それでもう一つの理由というのが……。


「おいっ! そういうのやめろっつってんだろっ!」


 先生を職員室へ送り届けた帰り道。まだ俺達の教室まで大分距離があるのに、こんな離れた廊下にまで有生の怒声が響いて来た。俺はあいつがぼっちとして生きるハメになった二つ目の理由にため息を吐きながら、教室での喧騒を止める為に駆け足で教室に戻るのだった。


「何騒いでんだよ」


 教室に戻ると、そこには俺の予想していた通りの光景が広がっていた。眉に皺を寄せ、今にも相手に噛みつきそうな有生の姿と、そんな有生と敵対する松代(マツシロ) 遼馬(リョウマ)。そして二人から少し離れた場所で啜り泣く佐藤(サトウ) 莉里(リリ)。この三人の間でトラブルが起きたと言う事は、恐らく……。


「リョウマ、お前また変なイジりしただろ?」


 俺は呆れながらも、なんとか穏便に済まそうとリョウマを諭そうとするも。


「イジりじゃねえよ。そういうのイジメっつうんだよ」


 有生の有り余る正義感は、この一件を平和に、穏便に、なぁなぁに済ませようとはしてくれなかった。


 松代リョウマ。一学期の俺がこのクラス一番の悪ガキだったとしたら、その次に悪ガキなのがこのリョウマである。人をイジるのが大好きで、こいつの度の超えたイジりによって泣かされた女子の数は数知れず。しかし持ち前の調子の良さや、話のつまらない先生の授業さえも盛り上げるムードメーカーっぷりから、不思議と人には好かれるそんな男。


 言ってしまえば、こいつのイジりをイジりだと受け止められる人からすればリョウマは気の良い友達になれるのだけれど、イジりを深刻に受け止めて塞ぎ込んでしまう内気な人からすれば、リョウマという人間は天敵以外の何者でもない。そして、佐藤リリという女子はまさにその典型例として当てはまるのだ。


「なんだよ、少しからかったくらいで大袈裟によぉ……」


 正義感を掲げる有生を前に、わかりやすく不貞腐れるリョウマ。しかしまぁ、リョウマのイジりというのは本当に無差別に行われる物である。踏み込んでもいい領域は当然として、決して踏み込んではいけない領域でさえ、罪の意識を持たずに踏み込んで来るのだからタチが悪い。例えば。


「アトピークッキーのどこか少しからかっただけだよ。マジでクソだぞてめえ」


 アトピーに悩まされる佐藤リリの心にも、リョウマは無遠慮に土足で踏み込むようなやつなんだから。


 ビニール手袋をしながらクッキーを作る俺達だけれど、透明な手袋なんかでは、赤い斑点の刻まれたリリの手の甲は完全に隠し切る事が出来なかった。リョウマのイジりによるショックと、普通の人とは違う肌を持って生まれた恥じらいが、リリの涙を加速させる。そして、有生という女はそういうのを黙って見過ごせる奴じゃない事を俺はよく知っている。……まぁ、要するに。その強すぎる正義感こそが、有生がぼっちになってしまう第二の要因であるわけだけれど。


 ヨウイチさんというクズの下っ端をしていた俺だからよくわかる。クズな人間というのは、基本友達が多い。正確にはクズな言動を冗談だと受け止められるからこそ笑いのレパトリーが豊富で、その楽しさに釣られて色んな人が寄って来るのだ。


 対してクズな話題を真剣に受け止めてしまう真面目な人間というのは相応に笑いのレパトリーが乏しく、皆んなが冗談で笑い合っている中で野暮な事を言って場を白けさせたり、ちょっとしたイジりまで真剣に受け止めてしまうものだから付き合いにくいったらありゃしないわけで、まぁどうしてもクズな人間より友達の数というのは少なくなってしまうものだ。


 もっともこの件に関しては、アトピーという本人の意思ではどうにも出来ない身体的特徴をイジったリョウマが全面的に悪い。俺も本当は有生と一緒にリョウマの罪を糾弾しないといけないのも事実だ。でも、それって昨日のようにイヴさんを馬鹿にした連中を糾弾するのとは訳が違う。


 俺は物事を白黒はっきりさせるのが嫌いだ。白なら黒をいくら攻撃しても構わない、そういう争いの火種が生まれるきっかけになってしまうから。だからなぁなぁとか、どっちつかずとか、灰色とか、物事の解決に繋がらなくても、争いの起こらない中途半端な結末の方がよっぽど安心する。


 昨日のあれは、イヴさんのクラスメイトが相手だから出来た事だ。あの男子高校生と敵対関係になった所で、俺はあいつと私生活で関わるような事は決してない。そういうのが相手だからこそ、俺は敵対する事に躊躇いがなかった。


 でも、今回は話が別だ。リョウマという男は俺のクラスメイトで、私生活でもそれなりの絡みがあって、何よりリーダーシップという面で言えば有生よりもリョウマの方に適性があるのも事実。クラスという狭い囲いの中で喧嘩という事態に陥れば、お楽しみ会は当然として、卒業するまでのクラスの雰囲気そのものを左右しかねない。だから不完全燃焼な結果になってでも、喧嘩という致命的なイベントだけは引き起したくない。


「一組の演劇だけど、もう何人か人手が欲しいってよ。行こうぜリョウマ」


 だから俺はやや強引に、リョウマの肩を抱いて一組の方へと連れ出す事にした。


「はぁ? 何で俺が」


「力仕事だからだよ。俺とお前が一番力あんだから。それとも有生と同じ所で働きたいのか?」


「…………わかったよ」


 リョウマは渋々ながらも俺と一緒に一組の方へと足を向ける。タロウも既に一組で力仕事をしている筈だから、俺も一組に行けば二組は有生一人だけか。まぁでも最近の有生は女子とは上手くやれているようだし問題ねえだろ。


 ……。


 まぁ、一番上手くやって欲しい女子との関係がどうなるからまだわからないけどな。俺は放課後に招待券を渡す約束をしたイヴさんの事を思い出しながら、演劇の裏方作業へと赴いた。


 お楽しみ会まで残り1日。果たしてこんなギスギスした空気のまま、小学校生活最後のお楽しみ会はどうなってしまうのやら。

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