表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
362/369

不良と人形と人殺しと ⑫

 ◇◆◇◆


「……」


「あーあ」


「……」


「もったいな」


「……」


 私の隣で人の立ち上がる音が聞こえた。その直後にビニールを握る音も聞こえた事から、私の叩き落としたガリガリくんを拾ったのだろう。私は変わらず顔を覆いながらうつ伏せているから、その様子はわからないけれど。でも、彼がガリガリくんを拾い直し、再び私の隣に腰を下ろした事は、音だけでもなんとなく察する事が出来た。


「酷え奴もいたもんすね」


 そして彼は、ガリガリくんを叩き落とした私と、そんな私を叩き落としたさっきの男子達を責めるように、小さくそう呟いた。


「……どこから見てたの?」


「ほぼ全部」


 私が彼を問いただすと、私より頭一つ分高い距離から彼の答えが降り注がれた。私はまだ彼の正体をしっかりこの目で見たわけじゃないものの、しかし声の距離から彼の特徴的な身長が察せられるし、そもそも察するまでもなく彼の声は私の知る声である。私は行き場のなかった憤りの行き先を見つけた為。


「……盗み見とか趣味悪過ぎてキモいんだけど。死ねよ」


 遠慮なくこの悪意をダッちん目掛けてぶつけてやった。


「まだ死にたくないんで無理っす」


「……ウザ。死ねよ」


「どんだけ俺の事殺したいんすか」


 呆れたような声が静かな公園に木霊する。こんな歳下に呆れられるなんて、今の私はよっぽど彼の目に惨めな存在として映っているんだろう。だから。


「……別にダッちんに限った事じゃないよ。なんていうかいっそのこと、もう皆んな殺したい気分。面白かったでしょ? 散々酷い事して来た私があんなピエロになって」


 だから彼は。


「面白くなかったから来たんすけど」


 そんな私を放っておけなくて、わざわざ声をかけて来たんだ。初めて会った時も、こいつは惨めに這いつくばる私に手を差し伸べて来たんだから。……まぁ。


「何が面白いんすか。そんなボロボロに泣きじゃくって」


「……」


「つうか散々酷い事して来たって何の事っすか? もしかして朝の事言ってます? 別にあんなの気にしてませんよ。誰にだってあるじゃないっすか。意味もなくむしゃくしゃする事くらい。特に女の人だと月一でそういうのがあるとかないとか」


「だから違うっつってんだろっ!」


 今回はあの時と違って、私は差し伸べられたその手を振り払ってしまったのだけれど。私は朝の苛立ちを思い出し、泣き顔を隠す為に両手で顔を覆っていたのも忘れ、ダッちんの顔目掛けて渾身の拳を放った。


 三回目か。こいつの顔を殴ったのも、これでもう三回目。それもたった一日の出来事でだ。前までの私なら、こんな事絶対になかったんだけどな。ムカつく奴がいたら魔法で一発だったんだから当然だ。今の私ではもう、何十発拳を叩きつけたって、人を殺すどころかまともに痛い目見させてやる事も出来やしない。


「こういう時の為にハンカチとか常備してるのがいい男なのかも知んないっすけど」


 だからほら、自分の頬に私のパンチが直撃しているのに、ダッちんの表情はどこまでも澄まし顔で。


「でもさーせん。仕事中なんでそういうの何も持ってません」


 何事もなかったかのように、私の拳に触れてそっと顔から下ろさせた。ほんとその澄まし顔だけでも腹立たしいのに、涙でボロクソになったこの顔を彼に晒している現状が余計苛立ちに拍車をかける。


「……いらねえよ。ガキのくせに変な気遣うな」


 とは言えまた顔を両手で隠してしまっては、それこそ泣き顔を晒したくないという私のミジンコのようなプライドを教えているようなもの。私は頬杖をつきながら、彼とは極力視線を合わせないようにして、そんな負け惜しみを呟いた。


「ていうか仕事中って……、そう言えば初めて会った時もそんな事言ってたよね。焼肉屋で働いてるとか」


「あ、覚えてたんすね」


「それも私がダッちんを歳上だって勘違いした理由の一つだし。ガキのくせに働いてんじゃねえよ」


「別に働いてませんよ。あくまでお手伝いなんで」


「言い方の問題じゃん。揚げ足取んな歳下のくせに。何様のつもりだっての」


「何様っていうか……まぁ、友達?」


「……」


「友達で合ってますよね? 俺ら。少なくとも俺はそういう認識ですけど」


「……」


 自信なさげに呟くダッちんにチラッと視線を向け、私は言葉を返した。


「そう言うの、もういいから」


「は?」


「余計なお世話だっつってんの。大体友達名乗るなら何今頃出て来てんの? 私があいつらの笑い者になってた時は黙って見過ごしてたくせに。男子高校生三人相手に喧嘩売るのが怖かった?」


「いや、あれはイヴさんが望んでやってるのかも知れなかったから……」


「言い訳なんて後からいくらでも出てくるよね」


「そんな、別に言い訳とかじゃなくて」


「あ、そ。じゃあどうだった? 私の自虐ネタ。強がって自分からあんな無様な姿晒しておきながら、一人っきりになった瞬間泣き崩れてさ。最高に面白かったんじゃ」


「だからそれは違うって最初に言ったじゃないっすか!」


 ダッちんの怒声が静かな公園に響き渡る。もちろん、それで私が気圧されたかと言うとそんな事はなく。寧ろひたすら澄まし顔だった少年から、ようやく人間らしい感情を引き摺り出せたと、ほんの僅かだけど良い気分になる事が出来た。私を気遣って励ましに来た少年のそんな表情に喜ぶくらいなのだから。


「なんで一々自分の事卑下するんすか」


 やっぱり私って、性格が悪い。


「俺は最初からイヴさんの味方のつもりで……」


「味方?」


 私はまだまだこの少年の怒りを引き摺り出したいと、そう思ってしまっている。健常者達の笑い者になった姿や、その事実に耐え切れずに泣き崩れてしまった無様な姿を見られたのである。今度は同じように、感情に任せて怒り狂う彼の無様な姿が見たいと、そう思ってしまったのだ。


「私に味方なんていないよ。家にも、学校にも。これから先もずっとそうだから」


 私の答えを聞き、ダッちんは大きなため息をついた。


「本当今日のイヴさん面倒臭えな……」


 それで呆れが怒りを追い越したのだろう。つまらない事に、折角激昂してくれると思っていたのに、彼は呆れ果てた声色で静かに。


「そりゃイヴさんの学校の事までは知りませんけど、家にも味方がいないって何言ってんすか? 少なくとも親ならイヴさんの事無条件で」


 そう呟くものだから。


「あのさ」


 私はなりを潜めた彼の怒りを再び引き摺り出そうと。


「体調不良のお母さんの為におつかいとか家事とかしてあげるようないい子にはわからないと思うけど、この世界には親に対して絶対に言っちゃいけない事やしちゃいけない事を、平気でやっちゃう人間がいるんだよ」


 更なる挑発を。


「ダッちんはある? 親に暴言吐いた事。親が一番気にしている事を平気で言い放ったり、親の事を本気で殴ったり。どうせないでしょ? ダッちんみたいな良い子には、親を泣かせた事なんて……って」


 彼にかけた…………つもりだったのだけれど。


「ハッハッハッハッハッ……」


 ダッちん、めっちゃ過呼吸になってた。


「……え?」


「ハッハッハッハッハッ……」


「……嘘」


「ハッハッハッハッハッ……」



「……マジ?」


「ハッハッハッハッハッ……」


 私は思わず過呼吸続きの彼の表情を覗き込んでしまった。


「何それ。めっちゃ気になるじゃん。ダッちんみたいな良い子が何したの?」


「いや……」


「教えてよ」


「そう言われても……」


「いいから」


「そんな語るような事じゃないっていうか……、大体俺、そういう昔は悪かったんだぜ自慢とかしたくないし……」


 そして。


「うるせえな」


 気づくと私は、ダッちんの胸ぐらを掴んで引き寄せていた。これもやはり挑発行為の延長であり、いい加減にしろ! と、彼を怒らせる為の手段の一つのつもりだったのだけれど。


「私達、友達なんでしょ?」


「……」




「なら言えよ。友達に隠し事すんな」


「……無理です」


 けれど、引き寄せたダッちんの顔に浮かぶのは、怒りとは真逆を行く表情だったから、私は思わず動揺してしまう。


「なんで?」


 私は喜怒哀楽の内の哀を司るその表情の意味を彼に問いただすと。


「イヴさんが自分の親にどんだけ酷い事をしたのかは知りませんけど……、でも俺より酷いって事は絶対にないと思うから」


「……」


「俺がやって来た事を知ったら、多分イヴさん、俺の事嫌いになると思うから。……怖いんすよ。人に嫌われるのが。俺、図体だけデカいチキンなんで」


「……」


 そんな思ってもない答えが返って来たものだから、今度は私が呆れて彼の胸ぐらから手を離してしまった。それで私は。


「私の親って、血の繋がった親じゃないんだよね」


「え?」


 口を割らない彼に代わって、私の物語を彼に言って聞かせた。


「私のお母さん、妊娠出来ないんだ。それで私の事を養子として迎え入れてくれたの。でも結局血の繋がった子供が欲しくなって、ロシア人の女に自分と旦那の子供を代理で出産させてさー。そしたらそのガキ、障害持って産まれて来てね」


 私の全てというわけではないけれど、彼が自分より酷いという事は絶対にないと豪語する親とのエピソードについては、包み隠さず全部教えてやったんだ。母への悪意、父への悪意、弟への悪意、それら全てを隠しながら15年生き続けて、でも腎臓移植の話が出た時に隠し続けた全てを曝け出して。


「私の本心を知った時のあのババアどものあんぐりとした表情。今思い出すだけでも笑える」


 そんな私の親不孝を全て教えてあげた後。


「じゃあ次。ダッちんの番」


「……」


 親不孝自慢のバトンを、ダッちんへと明け渡した。


「……俺は」

少しでも面白いと思っていただけたなら下の方で⭐︎の評価をお願いします!

つまらなければ⭐︎一つでも全然構いません!

ブックマーク、いいね、感想などもいただけるととても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ