表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
85/120

第22話(78話) 残滓の始末

 

 運ばれていくゼロエンドを見送るミーシャ。


 帰還した時の姿は変わらず美しかった。だが中に誰もいないのに動き出した事実や、ティノンが見たという電子メッセージについては結局分からずじまいだった。電子頭脳内部を分析すれば分かるのかもしれないが、精密機器の塊なので極力控えたかった。

 何より、勝手にゼロエンドの中を覗くのは無粋な気がしたのだ。


「おやすみなさいゼロエンド。また、いつかね」


 小さく手を振って別れを告げると、重い扉の向こう側に消えて行った。


 と、足音とタイヤが転がる音が聞こえる。

「あ、ゼナちゃんにツッキだ」

「どうも、ミーシャさん」

 車椅子の上で礼儀正しく一礼するツキミ。以前にも増して、表情は快活なものへとなっていた。

 しかし車椅子を押すゼナは浮かない表情をしていた。その視線はミーシャの遥か先、装甲が傷だらけのまま膝をつくガルディオンⅡの姿に向けられていた。

「……せっかくツキミが託してくれたガルディオンを、あんなに傷つけて…………」

「そんな事気にしてないよ! むしろ、ゼナちゃんが帰って来てくれて嬉しかった。私のガルディオンも、ゼナちゃんのガルディオンと一緒に頑張ってくれてたんだもん。十分すぎるくらい」

「ツキミ……!」

「お〜! 熱い熱い! ご結婚は、いつの予定で?」

「「えっ!?」」


 ミーシャの思わぬ不意打ちに、2人は狼狽える。


「何言ってるの!?」

「そうですよ! 女同士で、そんな……!!」

「ごめんごめん! ゼナちゃんの本命はティノン姉で、ツッキはエリス姉だもんね?」


「「…………!?」」


 2人は今度こそ、顔が真っ赤になり、口を噤んでしまう。それを見たミーシャは口を押さえて大笑いする。

「あっははは! 2人とも可愛いなぁ!」

「全く……!」

「……そういえば今の話で思い出しましたけど、最近隊長たち見ませんね? ミーシャさん、知りませんか?」

「へ? 知らないけど?」

「そうですか……」


 ゼナとツキミは顔を見合わせ、不安げな表情になる。



 あの戦いの後、帰投する最中にティノンから下された指令。その内容は、

「総員、次に総司令官から任務が下るまで、体を休めていてくれ。私は……後始末がある」

 そう言った後に、ティノンは一瞬エリスへと目を向けた。それを見ると彼女は示し合わせたように、小さくうなずいていた。



 あのやり取りは何だったのだろうか。2人の心のざわめきは、大きくなっていった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 机の中にある書類を、全てシュレッダーにかける。


 この程度で隠滅出来るような事態でないことは自身が十分分かっている。だが時間稼ぎくらいになることを信じてやるしかなかった。


 化け物じみた実力だということは聞いていたが、まさか単艦で敵の基地に突入し、生きて帰ってくるなど誰が想像出来ようか。



「随分多忙なようですね、ガウェル大佐?」

 後ろから響く凛とした声。主は振り向かずとも分かる。

「……私は鍵を閉めていたはずだが、ティノン大尉?」

「総司令官からの指示です。貴方を、国家反逆罪で拘束します」

「国家反逆罪? 何故私が?」

「何をぬけぬけと……!!」

 とぼけるガウェルに業を煮やしたエリスが詰め寄る。だがティノンによって諌められる。


「今回のゼロエンドの一件から、私は独自のルートで貴方の近辺について調べさせてもらいました。貴方は裏でグリモアール残存軍だけでなく、グシオスとも繋がっていた。貴方の筋書きでは、私達はあの任務で輸送対象をグリモアール残存軍へ引き渡す予定だった。それがゼロエンドだと気づかせないまま。6号機や7号機と同じ手口で」

「……面白い推理だ。疑われてるのが自分でなかったら、笑っていたよ」

 事実、ガウェルの口元は吊り上っていた。不敵に笑っているようにも、やけになって笑っているようにも見える。

「だが何の証拠もなく疑うのは酷い事だ。是非とも見せて欲しいね。私がやったという、確固たる証拠を」

「……っ」

 歯が音を立てるくらい食いしばるエリス。僅かにティノンへ向けられた彼女の視線には、懇願の色が込められていた。



「こちらを見てください」



 ティノンは端末をスクリーンモードにし、空間に大量のリストを表示する。そこには運び出された物資、通信履歴、そして計画が書かれたデータが広がる。


「解析するとこれらは、グリモアール残存軍とのもの、そして一部はグシオスとのものだという事が分かりました。貴方は処理したでしょうが、グリモアール側に残っていたようですよ?」

「…………」

 ガウェルの表情に歪みが生じ始める。言葉にこそ出していないが、顔に現れている。


 手に入れたのか、と。



「ご自身で確認しますか? それとも、これが確固たる証拠でないと言い張りますか?」

「……ふふ。そう来たか…………」

「いい加減認めたらどうですか大佐!! 罪を償ってください!!」

「罪だとっ!? 私が、何の罪を犯したというんだ!?」

 エリスの叫びを聞いたガウェルの表情が、遂に歪んだものへと変わる。その目は2人を睨んでいるようで、何処か違う場所を見ているようだった。

「大体だ! それが私の名前で履歴が残っていたとしても、誰かが私の名を騙って、私のデータを用いていた可能性だってある!!」

「往生際が悪い……!! これを突きつけられてまだ認めない気ですか!?」

「君達こそ、私を嵌めて何か企んでいるのではないかね!?」

「裏切り者が何を!!」

 腰に下げた銃に手が伸びる。エリスの中に滾る怒りは最早限界を超えていた。


 だがその手は、隣から差し伸べられた別の手によって遮られた。



「ティノン、さん……?」

 どうして止めるんですか、という質問を先読んだかのように、ティノンは黙って首を振った。

「貴方は、どうあっても認めないという事ですね?」

「み、認めるも何もない……!! 私は無実だからなぁ……!」

「……分かりました」

 ティノンは目を伏せると、エリスの手を引いて部屋を出て行こうとする。

「ティノンさん!? どうして、どうして野放しにするんですか!? 折角追い詰めたのに!! この人の所為でツキミさんは、ツキミさんは!! ティノンさん!!」

 必死に抗うエリスを無理矢理連れ、扉のノブに手を掛ける。


「はは……賢明な判断だよ、ティノン大尉……君達がこうしていられるのは、いや、こうしてアルギネア軍が軍備を整えられるのは、私のおかげなんだからね…………」

「…………本当に、残念です」


 ガウェルにも、エリスにも見えなかった。



 光を宿さない、ティノンの瞳が。






「ふ…………くははははっ!!」

 2人が去った後しばらくして、緊張感から解き放たれたガウェルは笑い出した。あの情報を出された時は危機を感じたが、足掻いてみるものだ。

 後はすぐに亡命の手はずを整え、この国から消えればいい。当てはいくらでもある。トリックフェイスという男の元へ行けさえすれば。


 ほとほと愛想を尽かしていたのだ。国民も上層部も、盲目的で学習能力のない無能ばかりのこの国に。

 アルギネアを変えるには、グシオスと統合する他ない。その為には、戦争に負けなくてはならない。


 あのEAなどという一兵器が世界を変えるという虚言より、よっぽど現実的な手段だ。


「はははははぁ……私の勝ちだ。アルギネアの無能どーー」

 その時、部屋いっぱいに通信音が鳴り響いた。思わず肩が震える。

 受話器を取ると、聞き慣れた低い声が聞こえる。



「ご機嫌はいかがかな、ガウェル大佐?」

「総司令官……? どのようなご用件で?」

「あぁ。さっき君の元へ行った2人が戻って来てね。聞かせてもらったよ。事の顛末を」

「2人が……何を言ったか分かりませんが、どうもあの2人は疲れているようでして、少々よく分からない事を話しーー」

「2人を寄越したのは、私だよ」


 ガウェルの目が見開かれる。受話器を取り落としそうになる手を持ち直し、再び耳を傾ける。


「まさかあれだけの証拠が出て尚、罪を認めないとはね。君は優秀だから、償う気があるならまた力を振るって貰おうと思ったのだけど」

「馬鹿な……!! 何故貴方が知って……」

「私には優秀な(なかま)がいる。……まぁ仕方がない。優秀な人材を失うのは痛手だが、これ以上好きにはさせられないな」

「何を言って……!?」

「窓の外を見てみるといい。君に礼を返したい人物が待っているよ」


 プツリと通話が切れる。


 カーテンで遮られた窓を見る。誰がいるのか分からない。ここは地上からかなりの高さの位置にある部屋だ。



 震えながら、意を決してカーテンを開けた。




 空は快晴、いつも通り下には基地が見える。ベランダには誰もいない。

「ハッタリ……か……」

 ガウェルは胸をなで下ろし、ふと離れた距離にある隣の建物に目を向けた時だった。



 同じくらいの階層の窓から、一瞬光が煌めく。



「っ!? まさーー」




 次の瞬間、窓が割れる音。そして、ガウェルの頭が砕け散る音が遅れて響く。

 最早誰か分からなくなった死体から流れ出る血が、床を濡らした。





 消音器をつけた狙撃銃から、空の薬莢が落ちる。


 スコープから目を離し、淡々と狙撃手は銃を畳み始める。

 時期に騒動になるだろう。だが真相は分からないまま、総司令官の手によって闇に葬られる。

 場合によってはガウェルに協力した兵士達も闇に沈めねばならないかもしれない。そうならない事を祈るばかりだ。


 銃をケースにしまい終えると、通信が入った。


「ご苦労だった。観測手無しでの狙撃は、君にしか出来ない芸当だ」

「……約束は、覚えていますね?」

「勿論だ。君には聞く権利がある。アンブロシア計画について。彼ーービャクヤについて」

「事態の収拾はお任せしました。それでは」


 通信を切り、立ち上がる。



 ティノンの瞳に光は無い。

 自分には光などいらない。今は、大切なものを守る為に最善を尽くすだけだ。


 誇りも正義も、今の自分には必要ない。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ああああっっ!? 痛ってぇな!!」

 包帯だらけになったウォーロックの身体から、一気に包帯が引き剥がされる。悶える彼をゼオンが後ろから羽交い締めにし、ノルンとマクシィが新しい包帯に変える。

「大人しくしてろって。こうして生きてんのも奇跡なんだ。変に暴れて悪くするのは良くないぜ?」

「い、いや、死ぬ、死ぬって……痛って!? もっと優しく巻け!!」

「男でしょ! 気合いで耐えなさいよ!」

「情けないですね。リハビリは私が担当して、強い兵士にビルドアップしましょう」

「何言ってぇぇぇ痛ってぇぇぇぇ!?」


 ボロボロのオルトベロスがディスドレッドによって運び込まれた時、馴染みのある3人は必死にウォーロックに呼びかけ、付きっ切りで看病していた。

 こうして軽口を叩けるのは、生きていたからこそだ。


「良かったなお前。ノルンにリムジーにベック、お前を心配してくれるお友達が沢山いて」

「あぁ? おっさんどうした、気持ち悪い」

「それは言いすぎじゃね? ……んでさ、どうすんだお前」

「どうすんだって、何をだよ?」

「お前の復讐は終わったんだろ? じゃあもうここにいる必要は無い。これからどうする? 仕事探しなら付き合うぞ?」

「俺は……」


 自分の一存だけでは決められない。4人で相談し、自分達のこれからを考えなくてはならない。戦いから離れ、普通の生活に戻るという選択もあるだろう。



 だが、ウォーロックの中では既に、答えは出ていた。






「どうしたよビャクヤ? 感傷にでも浸ってるのか?」

「……ベレッタ」

 仮面をブラブラさせながら整備橋で座っている男の隣にベレッタが座る。

「おっと、今はスペクターだったか? 悪い悪い」

「…………いや。ビャクヤでいい。今の俺は、ビャクヤだ」

「素直になったな。……2年前、お前が生きてたって知った時は驚いたよ。それでいて……変わり過ぎてて複雑だった」

「変わらない人間なんていないさ。皆、時代や出来事に合わせて変わっていく」


 見上げる視線の先にあるディスドレッドは、片腕がなく、装甲やカーボン筋肉が焼け焦げた、変わり果てた姿だった。

 そしてその隣には、胸に大穴が開いたアークリエル。更に隣には原型がなくなったデュランハデスがあった。


「無事2機は回収完了。後は7号機だけか?」

「あぁ。7号機は多分もう、グシオスにあるだろうけど。今は総司令官の指示待ちだよ」

「あ〜あ。休暇はまだ先だな」

「今がその休暇だよ。ゆっくり休んでいればいい」

 ビャクヤは立ち上がり、その場を去ろうとする。


「おい、どこ行くんだ?」

「ちょっと輸送ヘリ借りるだけ。寄りたい場所があるんだ」

 そう言うと行き先すら告げず、格納庫を後にする。今更どこに行くのかとベレッタは首を傾げる。しかし、ここがどの辺なのかを窓から下を覗いた時に、予想がついた。

「成る程ね」





 いつぶりか、墓参りに向かう事にした。

 エリスを誘ってみたが、今はまだやる事があるらしく、またの機会に行くと言っていた。なのでまた1人だ。

 一杯の花束を胸に抱え、墓地に入る。


 ふと目を向けると、不思議な光景があった。


 最近行けなかった筈だというのに、いつの間にか2つの墓に花束が備えられていたのだ。


 誰かが置いたのだろうかと最初は考えたが、それにしては違和感がある。ウェルゼとエレナの墓には花束があるにも関わらず、ビャクヤの墓には花束が無いのだ。


 近づいてみると、ビャクヤの墓石の近くに1枚の紙切れが、重石と共に置いてあった。ティノンは花束を置き、その紙を開く。



 内容を見たティノンは、小さく笑い、そしてその紙を空へと放り投げた。



 風に乗り、彼方へと飛び去って行く紙にはこう書いてあった。



 〈またいつか会う時があったなら。今度は、皆と一緒に行きたい。特務隊の、皆と〉



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「血族の呪縛」


血筋に刻まれた呪い。消えない痛みに苦しむ事が、贖罪となる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ