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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第21話(77話) 決別の炎

 

 突き刺さったスピアーを更に深く押し込むと、オルトベロスの動きが止まる。

「はぁ……はぁ……止まった、か……!!」

 肩で息をしながら、ケイオスは押し込む手の力を緩める。

 腹部を突き穿ったスピアーの一撃は凄まじく、胸部に到達するほどの大穴が威力を物語っていた。


 とにかくもう、この機体が動くことは無い。


 味方の救援に向かうため、スピアーを引き抜こうとした時だった。



 [待てよ…………]



 ノイズが混じった音が聞こえ、何かが引っかかる感触がアークリエルの手に伝わる。


 その刹那、オルトベロスの左腕のシールドからトンファーが射出された。アークリエルの兜を模した頭部装甲が砕け散る。

 トンファーの一撃は頭部を破壊するには至らなかったが、兜を砕く衝撃はアークリエルのツインアイを潰した。最後の一撃だと言わんばかりにシールドが崩れ落ちる。


「何故まだ動ける……!?」

「終われねぇんだよ……こんな所でぇぇぇっ!!」

「こいつ!?」

 すぐさまアークリエルはスピアーを抜こうとするが、オルトベロスの蹴りに突き飛ばされ、手が離れてしまう。

 深々と刺さった槍を、オルトベロスは左手で引き抜こうとする。装甲がひび割れる音、フレームが軋む音が鳴り響く。


 側から見ても、最早戦える状態ではなかった。右腕は損失、右脚に空いた穴からは多量のスパークが迸る。

 そして多量の破片と油と共に、スピアーが引き抜かれた。


 腹に大穴が空いたその姿に違わず、コクピットの中も荒れ果てていた。ショートする機材、ウォーロックの額と頬、肩には鋭利な金属片が刺さり、血が滴っている。


「貴様ぁっ!!」

 ケイオスは憤慨し、オルトベロスからスピアーを取り返そうとする。

 オルトベロスは残った左腕で槍を振り回す。それを躱し、懐へ入ろうとするアークリエルにはタックルを当て、態勢が崩れた所へ更に槍を叩きつける。

「ぐ…………っ!?」

 すぐさま立て直し、掴みかかろうとした時にケイオスは気がついた。

 アークリエルの動きが明らかに鈍い事に。


 眉間から火花が飛び散っている事に。


「まさか、さっきの一撃で電子頭脳が!?」

 またしてもスピアーの薙ぎ払いが頭部に直撃する。更に動きが鈍くなり、足元がおぼつかなくなる。

 そして、オルトベロスが振り下ろした一閃が右肩に直撃。そのまま無理矢理引き裂いた。

「があぁぁぁっっっ!!!」

 コクピットの中にまで到達する槍身。捻れたカーボンナノチューブがケイオスの右腕を飲み込み、引きずり出されると共に千切られた。

 鮮血が吹き出す。激痛に苦しむ彼に追い打ちをかけるように、ウォーロックは槍の狙いをコクピットへ定める。



「おおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」



 アークリエルは残った腕で抵抗するが、突き出されたスピアーはコクピットへ寸分違わず当たる。だが装甲の途中で止まり、内部には至らない。



 眼前にまで迫った槍を睨み、ケイオスは口から血を吐きながら悲鳴の様に叫ぶ。

「ふざけるなぁぁぁっっっ!!! こんな所で、こんな奴にぃ、殺されてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」



 オルトベロスは槍から手を離し、左拳で槍を叩きつけた。




 白銀の胸部を貫通すると同時に、オルトベロスの左腕もバラバラに瓦解した。


 倒れ伏す2機。


 ウォーロックは戦いがどうなったのか、もう考える余力すらない。

 意識が薄れゆく中、最後に感じたのは馴染み深い機動兵器の油の匂いだった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「どうしたどうしたぁ!? そんな程度かよ、新型って奴はぁっ!!」

 閃くナイフがガルディオンⅡの片目を抉る。咄嗟に振った反撃は空を斬り、再び背後からの一閃が襲い来る。

「くぅ……!!」

 ブースターを噴射し、フランケンを牽制すると同時に大きく距離をとる。振り向きながらナイフを構えなおし、相手を見据える。


 ゼナは思い出す。


 何故自分は、ティノンとの訓練で勝てなかったのか。自分に足りないものは、自分に必要なものは何か。ゼナは考える。



「お利口な判断だ。だがなぁ、お前の戦い方は礼儀正しいんだよ。命をかけて戦ってはいても、無意識下で安全策、安定択を取っている。だから俺に一歩先を取られるのさ」


 シュランの言葉は届いていない。


 だが、彼女は既に気づいていた。


 思い出す。ツキミの行動を。勇気と無謀の境界にあるあの戦いを。



 フランケンシュタインがナイフを構え、一気に距離を詰めた。

 シュランの予想では、ガルディオンⅡはこの攻撃を受け止めるか、もしくは躱して反撃に出ようとする。フェイントをかけてガラ空きになった首からコクピットを貫き、チェックメイトだ。



「さぁ、どうするよっ!?」



 ゼナは、



 ガルディオンⅡの全ブースター、スラスターを全開にし、正面から突進を仕掛けた。


「嘘だろっ!?」


 思わぬ選択にシュランは走る速度を緩める。ブレーキをかけたその一瞬、隙を生んでしまった。

「せやぁぁっ!!」

 ガルディオンが突き出したナイフは、フランケンシュタインのナイフを弾き飛ばした。そしてすれ違う瞬間に急反転。襲い掛かるGに耐え抜き、ガラ空きの背中にナイフを突き立てた。

「まずった!!」

 態勢を立て直すためにシュランはフランケンを走らせる。しかしガルディオンⅡの速さには敵わない。背中に刺さったナイフを更に押し込む。


 フランケンが振り返る隙にもう1本のナイフを抜く。


 無防備な首目掛けて突き刺した。



「捉え……た!!」

 ナイフをコクピットまで下げていく。


「あっちゃあ……すまん、フランケン。今までありがとな……あばよ!!」

 ハッチを開くと、揉み合う2機の機動兵器の隙間を飛び降りた。

 小型のパラシュートを開いた瞬間、ガルディオンのナイフがフランケンのコクピットを引き裂き、爆発を起こした。




「はぁ…………うっ、ゲホッ!」

 息を吸うのを忘れていた。ひとしきり咳き込んだ後、戦場だという事を忘れて力が抜けた。一気に眠気が押し寄せる。

「ツキミ……やっぱり貴女、凄い……」

 寝てはダメだと頭で分かってはいても、体力を使い果たした身体は眠りの世界へと沈んでいった。






「痛って……あぁ、なんてこったい。俺のフランケンが……」

 轟々と燃え上がる自らの愛機に、シュランは半泣きだった。

 時間は確かに稼いだ。だが部下も機体も無くなった。


 再出発を考え始めた矢先、通信機に連絡が入った。


「はい?」

「あ、生きてました? ハロー、トリックフェイスでございまーす。無事生き延びた貴方にごほーびがありまーす…………指定ポイントで回収いたしますので、後のことはそこでお伝えしましょう」

「あー……ハッハ」


 小さく笑い、シュランはサムズアップした。


「最高だよ、あんた」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 蒼い炎は、コクピットからも見えていた。


 だが機体を焼き尽くす灼熱は、むしろ自分を温かく包む暖炉の火のようで。



 対して死神には、その蒼炎が自らを灰にする地獄の焔に見えていた。それを感じ取ったのは他ならぬ、死神自身。

 中にいる男には、それを考える力は残っていない。だが髑髏の様に固まった表情が一瞬、動いた。



「貴方をもう、利用させたりなんかしない。貴方が遺した意志を継いだ人を、貴方自身の手で傷付けるわけにはいかない!」


 ビャクヤが叫ぶ。生き返った亡霊は、未だ死んだままの男に語りかける。

 デュランハデスはそれを振り払う様に大鎌を振り、ディスドレッドへと斬りかかる。


「お前に言ってるんじゃない……俺はウェルゼ隊長に言ってるんだ……引っ込んでろ!!」


 鎌の柄を掴む。瞬く間に炎は鎌を伝い、デュランハデスの装甲へ燃え移る。

 悶える様に身体を震わせ、炎をはたき消そうとする。だが炎はその手すら伝わり、更に勢いを増す。



 通常の衝撃や火炎程度なら、アクトメタル装甲の前には無力。しかし今ディスドレッドを包む蒼炎は、むしろそれを燃料に燃え上がっている。いくら払い除けようが、アクトメタルの塊であるEAにこの炎は消すことは出来ない。



 劫火に焼かれるのが苦しいのか、天に向かって咆哮する様に身体を反らすデュランハデス。大鎌を闇雲に振り回すが、何も見えていないのか空振るのみ。



 ディスドレッドは、静かに死神に歩み寄る。その手に握られた大剣も炎に包まれている。



 遂にデュランハデスは大鎌すら投げ出した。装甲はドロドロに溶解し、頭部は電子頭脳を守る頭蓋骨の様なフレームが剥き出しになっている。手を振り回し、救済を求める様に足掻く。



 そして最後の抵抗か、ディスドレッドへと掴みかかろうとした。

 ビャクヤはただ、それを見守る。




 寸前で、デュランハデスの動きが止まった。


 ゆっくりと膝をつき、手を広げ、最期の一撃を迎え入れる様にその身を晒す。



 燃えるコクピットの中、男は言った。



「…………後始末……つけ、させて…………悪いな」

「…………っ!!」


 苦痛にビャクヤの顔が歪む。涙が一筋零れ落ちる。


 もうこれは他人の記憶ではない。スペクターが見た、ビャクヤの記憶ではない。



 この人は、自分の隊長で。


 自分達を引っ張って、見守ってくれた、恩人。



「後は、任せて……下さい……隊長……!!」




 振り下ろされる、決別の一撃。



 その身が焼け、灰となって消える瞬間、




 ウェルゼ(・・・・)は、いつもの様な笑みを浮かべていた。



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「残滓の始末」


腐った葉は落とさねばならない。二度と悲劇は、起こさない。

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