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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第5章 終わらない宿命
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第17話(73話) 奪還任務

 

 シュランは呼びつけられた場所に到着する。


 そこはガラディール鉱山の中にある地下機動兵器格納庫。グリフィア、ジェイガノン、ヴァルダガノンなど、旧型と呼ばれる機動兵器を中心に並んでいる。


 その中で一際輝きを放つ機動兵器。アークリエルの前にケイオスの姿があった。


「何の用だ。こんな時間に」

「呑気なものだな貴様は。奴等は必ずここに来る。対策は……」

「立てようがねえだろうよ。旦那の依頼だからここまで付いてきたが……正直降りたい気分だ」

「何だと?」

 最後の一言にケイオスは眉をひそめる。うっかり地雷を踏んでしまったと、シュランは軽い後悔をした。

「貴様、元グリモアールの人間だろ、祖国の栄光を取り戻したくないのか?」

「傭兵やるようなろくでなしにそれを問うか? お国の為に命を捧げるアンタらとは違う。食い扶持の大半は大国同士の戦争で生じる、紛争や小競り合い。生まれた国に誇りも栄光もねえよ」

「まるで屍肉喰いする獣だな。ハイエナか?」

「ハイエナの方が立派だ。所詮、俺達みたいなのはネズミかハエくらいだろ。それでも、死んだ奴を蘇らせようとする奴よりはマシな生き方だ」

「…………」

 2人の間で交わされる言葉と視線。一方は失った祖国を蘇らせようとし、一方は戦争に(たか)って生きる。

 決して理解し得ない互いが、それでも協力するのは、利害の一致という至極単純な理由だ。


「そんな話をしに呼んだんじゃないだろ? 本題を言え」

「アークリエルの新武装の件だ。完成したという話だが」

「見たいのか? 今は最終調整してるから見たいなら第3格納庫に行きな」

「……あの研究者は信用ならない。トリックフェイスとかいう奴もな」

「信用しろって方が無理な話だがな。ま、清濁併せ呑みな」

 肩を叩くと、シュランは格納庫から去ろうとする。

「シュラン」

 その直前でケイオスは引き止める。


「俺達の国に、戻る気は無いんだな」

「…………悪いな」


 ただ一言、そう返すだけだった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ゼロエンドの反応は?」

「ガラディール鉱山前の丘陵地帯で停止しています。隠れているようですが、このままでは奴等に発見されるのも時間の問題です」

「了解。このまま真っ直ぐ向かいましょう。出撃準備を」

「はい」

 アイズマンの敬礼に、ティノンも敬礼で返す。


 グリフォビュートは再び進路をガラディール鉱山へ向けていた。

 あの出来事については言っていない。ゼロエンドの場所についての情報は協力者から得たという体を装っている。


 彼がどんな目的で動いていようと、自分は自分の役目を果たす。ゼロエンドを取り戻す。


 と、廊下で2人の少女とすれ違う。


「エリス、それに……ツキミ」

「あ、隊長」

 ツキミは松葉杖をついている。そのすぐ近くでエリスが寄り添っている形だ。

「もう、歩けるのか?」

「はい! 義足は、まだですけど……」

「本当はまだ安静にしてなきゃいけないんですけどね。どうしてもって聞かなくて」

「す、すみません……」

 肩を竦めるツキミ。その拍子に危うくバランスを崩しかけるが、エリスがそれを立て直す。

「…………行くんですよね?」

「あぁ。戦力的には無茶なんだろうがな。多分大佐は私達を……」

「?」

「やめましょうティノンさん。考えるだけ無駄です。だって私達は、生きて帰るんですから」

 その時ティノンは、エリスの笑顔を2年ぶりに見た。温かな笑顔。

 久しぶりに見る事が出来て、釣られて自らも

 笑顔を浮かべた。

「なら行こう。……ゼナは一足先にデッキで待ってる」



「エグゼディエル、インプレナブル、共に甲板に配置完了。ガルディオン(ツヴァイ)、カタパルトへ着きました」

「対要塞電磁加速砲、インプレナブルとエグゼディエルのアクトニウムコアと連結完了。発射まで、約3分」

 艦橋では通信が慌ただしく飛び交い、船員達はモニター操作を行う。

 そんな中、操舵手のビリーだけが退屈そうに背伸びしていた。

「しかしまさか、グリフォビュートにあんな兵器が積んであったとは……」

「積まれてこそいましたが、アクトニウムコアとの連結機構、充電時間、発射反動の問題が山積みだったそうで。今回が初運用です」

「暴発とか勘弁して下さいよ?」

「既に不運な目には会ってるでしょう。今回くらい、幸運が巡ってきますよ」

 ビリーの皮肉に冗談で返すアイズマン。

 この先制攻撃が、圧倒的な戦力差を覆す手となる。


「発射まで、後2分」

「さて、頼んだぜ!」



 [発射目標、敵機動兵器格納庫!!]

 ティノンは照準を調整。弾丸はアクトメタル製のAP弾。

 まるで天が味方してくれたかのように、無風だった。

 [発射1分前!!]

 引き金に指を掛ける。電磁加速砲の補助バッテリーシリンダー部が高速回転。アクトニウムコア2基が生み出す莫大なエネルギーと合わせ、砲身から青白い雷撃が迸る。

 [充填完了しました! セーフティ解除! 発射タイミング、エグゼディエルへ譲渡!!]


 コールが響く。


 引き金を引くと同時に、砲身がスパーク。


 弾丸はソニックブームを巻き起こし、格納庫の扉を貫通。それだけでは足らず、周りの機動兵器、格納庫の外壁を衝撃波で吹き飛ばした。


「着弾確認! 第1格納庫、及びその200メートル先の第2格納庫を破壊!! そこから300メートル先の第3格納庫は扉を破壊した模様!!」

「よし、インプレナブルは引き続き甲板から援護を、エグゼディエルとガルディオンⅡは出撃!」

 [[[了解!]]]

 作戦が次のフェイズへ移る。

 ツキミは医務室のベッドの上で、手を握った。

 祈るように。



「格納庫がやられた!」

「出撃だ! 出せる機動兵器は全部出せ!! 相手は戦艦1隻に機動兵器3機、袋叩きだ!」

 外が慌ただしくなる。

 爆音はシラキが監禁されている部屋にまで届いていた。キーボードを叩く手が止まる。

「来た……!」

「何が来たの?」

 立ち上がろうとしたシラキの後頭部に銃口が突きつけられる。エルシディアの眼は冷え切っていた。

「いや…………」

「答えなさい」

「…………」

「まぁどちらにしても、貴女はもうここには置けない」

 銃口は後頭部から足に向けられた。

「待っーー」

 シラキが言葉を発し切る前に、彼女の両足を撃ち抜いた。黒いタイツが伝線し、真っ白な床に鮮血が飛び散る。

「あ、ぐっ!?」

「縛る縄が無いの。痛いだろうけど我慢しなさい。欲しいのは、貴女の知識だから」

 彼女の身体を持ち上げると、車椅子に乗せ、頭に頭陀袋を被せた。


「さぁ行きましょう。弾抜きと止血はヘリで…………」


 その時、外で銃声が鳴り響いた。数人の悲鳴が響き、銃撃音が鳴り響く。

 やがてそれらが止むと、扉のノブから火花と発砲音が散った。


「…………っ」

 エルシディアはシラキを後ろへ突き飛ばし、ドアに向かって発砲。ノブが外れたドアは勢い良く開く。

 ドアの向こう側から発砲してくる。

 一瞬見えた人影に、再度射撃。同時に人影も撃ち返した。


 エルシディアの手から拳銃が弾き飛ばされるが、人影の額に弾丸が命中。だが響いたのは頭蓋が砕ける音ではなく、硬質な陶器が割れる甲高い音だった。



「あーあ、結局意味なんて無かったじゃないか、仮面……」

 崩れ落ちる仮面。

 エルシディアは男の素顔を目の当たりにし、大きく目を見開いた。



「ビャクヤ……!?」

「そのビャクヤの願いだ。シラキ博士と一緒に来てもらおうか。エルシディア・ゼイト、いや…………クラウソラス」



 続く

次回、Ambrosia Knight 〜遠き日の約束〜


「蘇りの代償」


果たして意思無き者は、蘇ったといえるのか?

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