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Ambrosia Knight 〜 遠き日の約束 〜  作者: 雑用 少尉
第3章 彼方の希望
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第42話 戦士の本能

 

 グリモアール市街地前の防衛戦で監視を始めて3日。依然敵が接近する気配はなく、広域レーダーにも反応は無い。


 実戦経験の少ないグリモアール防衛軍の兵士の心境は緩みきっていた。


 [こちら本部、状況を報告せよ]

「こちら防衛ライン。特に異常はなし。引き続き監視を行います」

 通信を切った後、疲れ切った溜息を吐く。

 アルギネアとの戦争が始まって約3日。未だ攻め込む様相もなく、ただ無駄な時間が過ぎていくようだった。


「旧式のジェイガノンで監視なんて……いざ攻め込まれたら勝てんのかよ」

 [そこ、無駄話するんじゃない]

「あ、はい!」

 と、通信機から通知音が鳴り響いた。定時報告を終えたばかりだというのに、何かあったのだろうか。

 男は面倒臭そうに通信機を取る。


 [報告、防衛ライン上の広域レーダーに不審な熱源反応を検知。速やかに撤去します]


「不審な熱源反応?」

 いつの間にそんなものを設置されていたのだろうかと、男は首を傾げた。

 それにしても、熱源反応とは何なのだろうか。機動兵器でないなら、戦闘車両の類だろうか。それとも……。


 [何だこれは……いつの間にこんな量の爆弾が!? 全員退がーー]

 焦った男の声を皮切りに、その熱源反応はどんどん強くなっていった。



 防衛ラインに設置された広域レーダーは、付近にいた防衛部隊を巻き込んで爆散した。





「うまくいったか。第一、第二部隊、及び特務小隊へ連絡!! 敵の広域レーダーの破壊に成功! これより攻撃の第一波を仕掛ける!!」

 [第一部隊隊長、了解した]

 [第二部隊、同じく了解]

「特務小隊は第一、第二のバックアップだ!ヘマして死なないように気をつけろ!」

 ウェルゼの号令と共に、第一、第二部隊のグリフィアとギールアイゼンが次々と出撃。その後を追うように、エグゼディエルとマーシフルが空に飛翔した。


「よし、ビャクヤは予定通り第一部隊と一緒に補給基地に行け!」

 [了解です]


 カタパルトからゼロエンドが発進。その手には専用ライフルが握られ、ダーズィエンユニットには大槍「ストレナ」と予備弾倉が装着されている。


「エレナとエリスはティノン達と一緒に第二部隊の援護だ! 多分激戦になるだろうが、何とか頑張ってくれ!」

 [了解でーす!]

 [り、了解しました!]

 続いてカタパルトから、エレナのインプレナブルとエリスのギールアイゼンが出撃した。

 インプレナブルの肩には、搬入前には無かった赤いメビウス模様が刻まれていた。


「さて、ここまでは予定通りだが……」

 グリモアールの索敵を担う広域レーダーの破壊をファンタズマが行い、まずは第一、第二、特務小隊が攻撃。消耗した部隊が補給している間に後続の部隊が攻めることにより、波状攻撃を仕掛ける。

 グリフォビュートの両隣には姉妹艦である「ヒポグリファス」が2隻待機しており、その遥か背後に更に数隻控えている。


「こんだけやって、陥せなかったら笑えねえな」

 いつになく真面目なウェルゼの表情には焦りが浮かんでいた。

 ろくに交戦経験のないグリモアール軍はよい。問題はグシオス軍。


 グリモアールという、大きなパトロンを奪われる訳にはいかないはず。

 今回の戦いは今まで以上に激戦になることを予想させた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あそこが補給基地……!」

 ビャクヤは先にある小さな基地を見つける。機動兵器の反応も確認。

 [補給基地が見えた。まずは俺たちグリフィアと特務小隊機が前に出る。ギールアイゼンは援護を頼む]

 第一部隊隊長からの指示に、ビャクヤを含めた全員が了解のコールを返す。

 それと同時にグリフィア3機とゼロエンドが加速し、先行。その背後にギールアイゼン3機が付く。


 補給基地が近づいてくると、地面を砲撃が穿った。遠方からヴァルダガノンが長距離狙撃砲での攻撃を開始したのだ。

 [全機、当たるんじゃあないぞ! 特務小隊機、頼みがある]

「はい!」

 [その機動兵器の突破力を借りたい。敵の砲撃機の気を引いてくれるか!?]

「……やってみます!」

 ビャクヤはダーズィエンユニットのブースター出力を上げる。青い炎を噴き、敵の砲撃の中を駆け抜けていく。

 それに気づいた数機のヴァルダガノンの火線がゼロエンドに集中する。しかしゼロエンドの示した弾道予測のナビゲートに従い、より濃くなった弾幕を潜り抜ける。


「何だこいつ!?」

「くそッ、当たらない、何で当たらないんだよ!?」

 現実離れした動きに、グリモアール軍の兵士は冷静ではいられない。唖然としている間にその砲撃の手が緩む。

 戦場という魔境に揉まれたビャクヤはその隙を見逃さなかった。

「そこだっ!!」

 ダーズィエンユニットからストレナを取り出し、砲撃の手が止まっていたヴァルダガノンに突進。

 速度が合わさった超硬度の槍は、ヴァルダガノンの装甲を紙のように刺し貫く。

「そんな馬鹿な!?」

「怯むな! 銀の奴をやれ!」

 案の定、ゼロエンドに大半の銃口が向けられる。


 この時点で、防衛ラインは崩れたも同然だと第一部隊隊長は確信した。


「特務小隊機に注意が向いた! 全機、突っ込むぞ!」

 第一部隊隊長の叫びと共に、3機のグリフィアは対艦刀をバックパックから引き抜き、散開。

 ゼロエンドへ気が向いているヴァルダガノン達を、背後からの一閃で撃破した。


 不利と判断したか、残ったヴァルダガノンは撤退しようと背を向ける。

 だがその無防備な背をギールアイゼンが放ったロケット弾が撃ち抜き、無惨な鉄塊に変えた。


「撃破完了。各機、陣形を維持しつつ中枢へ向かえ。補給基地とはいえ、今度はこんな素人連中じゃないはずだ」

 第一部隊隊長は指示を終えると、ビャクヤの個人回線へ繋いだ。

「感謝する。速攻が成功したのは君のおかげだ」

「いえ、そんなこと……」

「若いのにこんなことが出来るのは大したことだ。この調子で頼む」

 そう言い残し、グリフィアは陣形の中へ戻っていった。ビャクヤもすぐにその後を追う。


 補給基地自体の大きさはそこまで大きくない。ここを叩いた後は、第二部隊と合流して軍事基地の攻略へ移ることになっている。

「民間に被害が出ないうちに終わらせないと……」

 だが、そう簡単に事は進まない。


 補給基地から、多数の機動兵器の反応が現れたのだ。

 更にその機動兵器に刻まれたエンブレムは、

 [グシオス軍の機動兵器だ! 気を抜くなよ!]


 敵はジェイガノン、ヴァルダガノン、ゼファーガノンの混成部隊。旧式のジェイガノンが配備されているという事は、手練れのパイロットが中にいる事を示していた。


 [陣形を変える! ギールアイゼンと特務小隊機は前衛、グリフィアは後続で援護!]


 グリフィアが後ろへ退がると同時にギールアイゼンが前進。大型シールドとマシンガンを構え、グシオスの部隊の進行を妨げる。

 ジェイガノンがギールアイゼンと対面し、その隙にヴァルダガノンとゼファーガノンが回り込もうとする。


「やらせない!」

 ビャクヤはそのルートを予測。機動力を活かして先回りする。

 一機のヴァルダガノンがそれに気づき、接近してくるゼロエンドをヒートアックスで迎え撃とうとする。


 しかし、反応速度はゼロエンドに遠く及ばない。


 突き出されたストレナはヴァルダガノンの胸部を深々と貫いた。

 その横からゼファーガノンがスレッジハンマーを振りかざし迫る。すかさずストレナで対応しようとするが、深く突き刺さったために咄嗟に引き抜けない。

「だったら……少し借ります!」

 先ほど討ったヴァルダガノンのヒートアックスを奪い取り、スレッジハンマーの柄へ打ち合った。

「こいつ……何て反応速度してやがる!」

 ゼファーガノンのパイロットが思わず呻く。その僅かな隙さえ、ゼロエンドには格好の的に成り得た。

 分厚い籠手に包まれた拳を、容赦無くコクピットに打ちつけた。

 胸部がひしゃげたゼファーガノンは、ゆっくりと崩折れた。


 続けてライフルにロングバレルをセット、セミオートモードに変形させる。

 遠方からシールドを構えながら迫るゼファーガノンに向けて発砲。地響きを立てるほどの衝撃と共に撃ち出された弾丸はシールドとゼファーガノンを貫通し、背後の建物にも巨大な穴を穿った。



「……中々やるな」

 第一部隊隊長は横目にゼロエンドの様子を確認する。

 と、接近していたゼファーガノンのスレッジハンマーが振り下ろされた。それを滑るように躱すと、今度は背後からジェイガノンのヒートアックスが襲いくる。

 グリフィアの対艦刀がヒートアックスとぶつかり、歯が浮くような甲高い音を散らす。

「確かに性能では劣っているが……」

 しかし直後、ジェイガノンの胸部から対艦刀が突き出した。ゴーグルアイの光が消失した事を確認すると、背中を打ちつけようとしたゼファーガノンに向けて対艦刀を後ろに突き出した。

 ハンマーが地面に転がり落ちる。

「俺たちには連携がある」

 小爆発したジェイガノンの後ろでは、グリフィアのモノアイが輝いていた。


「……」

 第一部隊隊長は眉をひそめ、何かを考えるかのように虚空を睨む。

 そして、ある人物へ回線を繋いだ。

「こちら第一部隊。特務小隊隊長へ、気になることがある」


 補給基地には全く人気がなく、ゼロエンドが撃ち抜いた建造物の中はもぬけの殻だった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 先行していた第二部隊は、既に敵部隊と交戦状態となっていた。

 アルギネア側はギールアイゼンを前衛とし、徐々に前線を押し上げている。

 グシオス側はというと、グリモアールの動きが妨げとなって統制が取れていないのか、次々機体が撃破されている。


 前衛では、エレナのインプレナブルと、エリスのギールアイゼンの姿もあった。

「……大丈夫。大丈夫」

 自分に言い聞かせるように、エリスはトリガーを引く。自分の仕事は敵を寄せ付けないこと。無理に敵を撃破する必要はない。


 それに側には、エレナも、エルシディアも、ティノンもいる。


 だが突然、一機のジェイガノンが弾雨の中を突貫してきた。そのまま真っ直ぐ、エリスのギールアイゼンへ向かう。

 [特務小隊機、敵を寄せ付けるな!]

「……っ!?」

 シールドを構え、ゆっくりと近づいて来る機動兵器。それを見たエリスは、反射的にトリガーから指を離してしまった。

「そんな……あれだけシュミレーションでやったのに! どうしてまだ……!?」

 いくら頭で命令しても、指はトリガーを引こうとしない。そうしている間にも、ジェイガノンは接近してくる。


「お願い! 今更怖がってる場合じゃないの! 自分から逃げないで!」


 その時、後方から大量の弾丸が飛来する。


 圧倒的な弾幕はジェイガノンの動きを封殺した。焼け焦げていくシールドと装甲。

 だがそれらが焼き尽くされるより前に、上空から降下したマーシフルの対艦刀が、頭部から真っ二つに斬り裂いた。


「……お姉ちゃん、エルシディアさん」

 [……気にしてる暇があるなら、戦って]

 エリスの方を一瞥すると、エルシディアは一言そう言って飛び去って行った。

 [エリス、私達がいる。大丈夫だよ]

 エレナは通信モニター越しに、笑顔を送った。


 エルシディアの強い言葉に、エレナの優しい言葉。

 それらを受け取ったエリスは、強く拳を握りしめた。



 続く

なんで旧式の方が活躍してるんすか……


というわけで42話でした。ちょっと尻切れとんぼでしたが、次回からはグシオス側の主役も出てきますよ。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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