第5話「西の白虎・影のモガの群れ」
路地裏の石碑前に着く。
菊乃が静かに言う。
「西方白虎……虎の気を集め、楔を打ち込む。
葵、中心に」
葵は頷き、石碑前に立つ。
紅い線が光り始め、金色の瞳が開く。
低く唱える。
「西方白虎、青葉の血を以て、楔と成せ……」
儀式が始まる。
だが——。
周囲の瓦斯灯が、一斉に赤黒く変わった。
影が地面から這い上がり、
影のモガの群れが現れる。
ボブヘアーのシルエット、膝上丈のスカート、
だが顔は溶けた蝋のように歪み、
口紅の代わりに黒い血が滴り落ち、
目は赤黒く輝き、無数に瞬く。
ハイヒールのような足音が、**カツカツ……**と不気味に響く。
群れは百体近く。
カフェーから漏れるジャズが、歪んだ不協和音に変わる。
菫が声を上げる。
「大量よ……影のモガ!
葵、急いで!」
菊乃が浄界七曜陣を展開し、結界を張る。
「耐えなさい!」
葵の瞳が完全に金色に。
表情が消え、低い抑揚のない声で。
「……浄化を開始します」
葵は一歩踏み出す。
沸魂業湯・紅蓮浄化・極。
紅い炎が爆発的に広がり、影のモガの群れを包む。
ジュゥゥゥ……グチュゥゥ……
肉が煮え溶ける音が連続し、
ボブヘアーが一瞬で炭化し、頭皮が剥がれ落ちる。
溶けた顔の皮膚が垂れ下がり、
露出した眼球が煮詰まって白く濁り、
**ポトッ……ポトッ……と地面に落ちて潰れる。
口から黒い血が噴き出し、
喉の奥からゲェェェ……という、肺が焼ける湿った悲鳴が漏れる。
膝上丈のスカートが炎に食われ、
太ももの肉が剥離し、筋繊維が一本一本焦げて縮む。
骨が露出し、白く光った大腿骨がパキン……**と折れ、
折れた断面から髄液が滴り落ちる。
数十体の影のモガが一斉に崩れ、
黒い肉塊と骨の破片が路地に散乱し、
腐臭と焼け焦げた肉の臭いが充満する。
残りの影のモガが密集して襲いかかる。
葵は無表情で避け、
光針穿刺・極。
金色の針が雨のように降り注ぎ、
影の体を貫く。
ズブズブズブ……
針が腹部を貫通し、内臓が串刺しに。
胃袋が破裂し、酸性の黒い液体が噴き出し、
腸が引きずり出されて地面に垂れ下がる。
ドロォ……
心臓を貫かれたものは、胸が陥没し、
肋骨が内側から突き破って飛び出し、
黒い血が噴水のように噴き上がる。
ハイヒールが折れ、足首が180度逆方向に捻じ曲がり、
腱が千切れる**ビリッ……**という音が響く。
赤黒い瞳が次々と潰れ、
眼窩から眼球が押し出されて転がる。
最後の群れが密集。
葵はさらに、
圧縮封魔・五芒星崩壊。
五芒星の陣が展開し、圧縮。
グシャァァァァァ……
肉と骨が一瞬で内側から潰れ、
頭蓋骨が粉砕され、脳漿が飛び散る。
ベチャァ……
圧縮された体が爆ぜ、
黒い血と臓器の破片が周囲に飛び散り、
壁にべっとりと張り付く。
骨の粉が舞い上がり、
肉の残骸が地面で蠢きながら溶けていく。
最後の影のモガが、
半分潰れた顔で**アァァ……**と途切れ途切れの悲鳴を上げ、
完全に沈黙する。
戦いは、激しくも短く終わった。
葵の金色瞳が消え、柔らかな色に戻る。
紅い線は指先だけ。
弱々しく息を吐き、5秒以内に笑顔。
「……あらあら〜、終わりましたわね。
ふふっ、ちょっと賑やかでしたわ〜」
菫が娘を支え、
「葵……無事でよかった」
菊乃が儀式を完了。
石碑に白い光が宿り、脈動が静まる。
三人は急いで青葉堂へ。
店先で待つ茂さんが、灯りを灯して迎える。
みーちゃんが飛びつき、
茂さんは家族を抱きしめるように。
「……おかえり。
羊羹、温めてあるぞ」
葵は父の胸に寄りかかり、
「お父様……ありがとうございます。
西の白虎、打ち込めましたわ」
夜の銀座は、まだ遠くでジャズが響く。
だが、地鳴りは少しずつ、強く、近づいていた。
残る南と北、そして地獄門への道が——。
葵は空を見上げ、微笑む。
「えへへ……次は南の朱雀ですわね。
みんなで、がんばりましょう♪」




