156 開戦前
プーシーユーが初任務でやって来た廃村では会議中。シモンはいつの間にか指導権を握って、地図を広げて見ていた。
「ちょうどいい高台があるな。俺たちはここから攻撃する。合図は~……仲間が遠くに声を伝えるスキルがあるから、逐一報告するな」
トウンを含めたここにいるメンバーが軽く頷いたら、シモンも頷く。
「俺たちができるのはそれだけだから、会議はもういいだろ? 明日の準備をさせてもらうよ。行こう」
「待て」
シモンは揉め事が起きない内にさっさと離れたかったが、トウンに止められてしまった。
「お前は何者だ?」
「おれ??」
「そう。お前だ。鮮血女王すら従うお前は何者だ??」
「俺は~……すまん。秘密部隊だから俺たちは名乗れないんだ。鮮血女王の下僕とでも呼んでくれ」
「下僕~~~??」
「もう、人使いが荒いのなんの。哀れんでくれていいぞ? 暴力も酷いんだからな。いてっ」
シモンはよかれと思って嘘をついたのに、ヤコビーネに頭を小突かれちゃった。
「ククク。下僕が出しゃばってすまなかったな。行くぞ。アハハハハハ」
「ヘッドロックやめて……めっちゃ痛いッス」
でも、気分は良さそう。ヤコビーネまで下僕と認めたからには、何も言えなくなるトウンたちであったとさ。
「下僕は言い過ぎやったんちゃう?」
ところ変わって国王直属秘密部隊にあてがわれた小屋。プックはあのやり取りが気になって仕方なかったみたい。
「そうは言っても、あれぐらい言わないと煙に巻けないだろ? あいつ、絶対俺にも絡もうとしてたし」
「プッ……ギャグで乗り切ったんや」
「それに名前を出せないのは本当だし……」
「プーシーユーってバレますもんなあ」
ユーチェが答えを言うと、シモンは首を横に振った。
「それもあるけど、蒼き群雄がなに吹き込んでるかわからない。最悪、めちゃくちゃ強いと思われて、毎日誰かの相手をさせられそうだ……」
「「ああ~……」」
各国の君主にまでシモンのことを自慢していたパーティだ。冒険者にも広まっているのではないかと、シモンはたとえどんなに口が固いと思っても言う気になれないらしい。
「おい、下僕。話は終わったか? 酒を注げ」
「聞いてた? あの場を乗り切る冗談だよ?」
「下僕は口答えしないもんじゃ。これは教育が必要じゃのう」
「え? 酔ってる?」
ヤコビーネの目が据わっていたから怖すぎる。なのでシモンは犯人っぽい人を名指しする。
「プック! なに飲ませたんだ!?」
「はい? あーし用に買っておいた、たっかい火酒が~~~!!」
「あ……全員に注いじゃいました」
「これ、アルコール度数99%やで!?」
「なんでそんな危険物をユーチェの前に置いてるんだよ!!」
でも、半分。半分は粗忽者のせいでもある。
「ほれ、早く注げ。マッサージもするのじゃ」
「はっ! この下僕、ヤコビーネ様に尽くさせていただきます!!」
しかし揉めている場合ではない。シモンはヤコビーネの機嫌を損ねないために、本当に女王様の下僕みたいになってしまうのであった……
「踏まれてるのに喜んでへん?」
「シモンさんは踏まれるのが好き……」
でも、ドストライクのヤコビーネにイジメられるのは、ちょっと楽しいシモンであったとさ。
プックが楽しみにしていたほぼアルコールの原液を二杯飲んだところで、ヤコビーネはダウン。あの強いヤコビーネがたった二杯で倒れたから、プックが化け物のように見られてたよ。
もったいないからって全部飲んでもケロッとしてるんだもん。
おかげで夜はゆっくり休めたけど、翌朝のヤコビーネはすこぶる機嫌が悪い。二日酔いで頭が痛いんだって。
シモンは休んでいるように言ったのに、初陣だからと無理矢理ついて来る。というか、見習い騎士にアウトドアで使うようなベッドごと無理矢理運ばせてた。
馬車を走らせて狙いの高台付近に着くと、プーシーユーは登山。頂上で狙撃の準備をしていたら、シモンの影からヤコビーネが出て来たので、シモンが滑落するところでした。
あとからアウトドアベッドを抱えて登って来た見習い騎士は、すでにヤコビーネがいたから驚いていたよ。
「して……どんな状況じゃ?」
ヤコビーネはパラソル付きのベッドに寝そべって聞いて来るので、シモンは苦笑いで答える。
「女神軍はまだ到着していない。外壁の上もまだ疎らだな」
「ふむ。早く来すぎたか。それでここから当てられそうか?」
「ああ。見やすいから余裕だ」
「ククク。1キロ以上離れているのに余裕か」
「まぁ俺より余裕そうな人はいるけど……」
こんなリゾート気分の人が近くにいては、シモンもジト目だ。
「ヤコはあっちに参加しないのか?」
なので排除したいっぽい。
「妾は秘密兵器じゃからな。こんな野戦に出るのはもったいないじゃろう」
「ふ~ん。鮮血女王とか言われてるから、てっきり1人で突っ込んで行くと思ってた」
「それは昔の話じゃ。血に飢えておったからのう。クククク」
「なんで舌舐めずりして俺を見てるのかな~?」
シモンは血を吸われそうでブルッと震えた。
「冗談じゃ。本当はプーシーユーの護衛を兼ねておる。邪神に目を付けられておるだろうからのう」
「うっ……空も気を付けないと!?」
「妾が見ておいてやるから、前に集中しておけ」
邪神軍からしたら、シモンは勇者に並ぶ超危険人物。そのことを思い出したシモンは慌てていたけど、ヤコビーネは見習い騎士に空を見張らせていたから「自分で見ないんだ……」と冷静になった。
それから30分程が経つと、遥か遠くに女神軍の影が見えた。その10分後に要塞の外壁の上に人型の魔獣がワラワラと出て来た。
「どいつが邪神の使いだ~?」
「アレちゃうか?」
「あのモフモフ、ちょっとかわいないどす?」
「ククク。合戦前のこの雰囲気はいくつになっても血が昂ぶるのう」
開戦はもう間もなく。シモン、プック、ユーチェ、ヤコビーネは気合いは入れずにうっすらと笑っていたのであった……




