完成した武器が変です
何だかんだで、この村に来てあっという間に1週間も過ぎていた。やばいです。本当にやばいです。テスト勉強が進んでいません。元の世界に帰った時の時間差が本当に怖いです。美和も真司も帰る方向で考えているので、村長には準備ができ次第、私達は街に向かう事は伝えてある。
そうすると、新たな問題が出てくる。
「じゃあ、クロが小屋に近寄らない様に見ててね」
「いいけど、この子また大きくなってない?猫って言うより豹並よ?」
拾った時の面影は無く、クロが立ち上がると私と同じ身長になる位大きく育っていた。
「飼った事ないけど、猫って成長早い?」
「早すぎでしょ!本当に猫?噛んだりしないわよね」
「大丈夫!クロは賢いから!でも、こんなに早く成長して、心配だな。長生きしてよ?」
クロの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めゴロゴロ言っている。可愛いな、毛並もサラサラでずっと触っていたいくらいだ、ただ体積が大きいだけで。
「クロの事は解ったわよ。その代わり私の分もお願いね」
「うん、でも勝手が違うから期待はしないでよ。じゃあ、クロは美和の事守っててね。」
リュックを担ぎうきうきと小屋に向かった。
相変わらず蒼の趣味は理解出来ないけれど、今回ばかりは期待したい。身を守る道具を創る事に。
ふと、クロが後ろに向かってシャーと威嚇し始めた。何かと思い振り返ると真司さんが此方に向かってくる所だった。大丈夫と言うように頭を撫でると静かになった。本当に賢いな、でも真司さんは懐かれていないのか。
「蒼は何処に行ったんだ?」
「真司さん、おはよう。蒼に何か用?今日は趣味に入るから明日にならないと戻って来ないわよ」
「趣味?いや、いつも一緒にいたから聞いただけだ。ほら」
「?」
色違いの小瓶を3本渡されたので受取る。
「これ何?」
「試作品。赤っぽいのが石鹸、水色が化粧水、白色が保湿」
「え?貰っていいの?ってどうやって作ったの?」
「この村での作り方を聞いて」
薬品関係の仕事をしていたので、その関係には詳しく、その情報と照らし合わせて安全そうな材料で作ってくれたそうだ。
「ありがとう!すっごく助かる!」
「別に・・・痛っ!」
クロが真司さんの足に噛み付いている。本気では無くあま噛みのようだけど。
「クロ、噛んだら駄目だよ。台所で何か食べ物貰おう?」
「クロ、いい加減慣れてくれよ」
真司はがくりと肩を落としている。
相性もあるから気長に慣れてもらおう。
「そうだ!薬草とかも詳しい?」
「多少なら」
「じゃあ、試しに作ってみよう!蒼に美味しいご飯を食べさせてあげられるかも」
赤く青白く変化する空間、漂いながらも強く儚く存在する。暖かい姿、恐怖させる姿、そして私には魅了する姿。小槌で叩き鍛え、火花が舞い、創造する形へと徐々に姿を現す。
さてと、作る予定の物は創れたはずなんだけど。何が問題だったんだろう。今回は廃棄された中から使えそうな物を打ち直した。でも、問題あるのと、無いのが出来上がった。何か条件が必要なのか、原因は数をこなさないと解らないかもしれない。
「蒼、開けるよ?ご飯持ってきた」
返事をすると引戸を開て入ってきた。一緒に付いてきていたクロは大人しく入口で待っている。他の人の意見を聞いてみようかな。
「あっつ!サウナ状態ね。で、出来たのはその6個?」
少し長めのナイフ 2、弓 1、剣1、盾2。
「包丁は打った事あるけど、剣は初だから難しかったよ。でも、今の腕じゃこの位かな」
「ふーん、でもアーチェリーはやっぱり無理だったか。でもこの弓可愛い」
美和はアーチェリー部に入っていて相当の腕らしいが、私が実物を見た事がないので、今回はこれで我慢して貰おう。銀色の弓、軽量で両端には小さな花びらの柄が彫られている。美和が手に取り弦を引こうと手をかけると
『あらやだ、可愛い子じゃない。でも、ちょっとお肌が荒れているわねぇ』
弓から野太い低い声が響く。私達の世界で言えばオネェの様な。
「?!!??」
美和は声(?)を聞いた途端固まった。私だけが聞こえる幻聴じゃなかったので安心した。
「うん、まぁ。異世界だし、そんなもんよね」
「え?適応私より早いな!創っといて何だけど、すごくびっくりしたのに!」
『何驚いてんねん、俺が特別凄いって事やろ』
『えっらそうに、だからモテないのよ』
『関係ないやろ!』
「仲良し?」
『仲良くないわよ。ただ破棄されてからここで一緒だっただけ。意識は無かったから感覚だけね』
「元々話せたんじゃないの?この世界ではそれが普通とか」
『それやったら、戦場はえらい賑やかやな』
「じゃあ、なんで・・・」
『俺と会えたんなら100人力やな』
「ね、蒼。街に行けば知ってる人いるかも。とりあえず、解かんない事は解かんないわ」
『無視すんなや』
美和の言葉はもっともで、切り替えよう。彼らにも名前があるそうで、それぞれ自己紹介を始めた。
弓の彼女(彼?)はミヤギ、ナイフの彼はシバと名乗った。
美和におにぎりを渡されたので食べてみる。食事抜きで作業していたので、一口食べると大きなお腹の虫が鳴った。かなり恥ずかしかったけど、あの味のないご飯でも食べたくなるものだな。
「え?美味しい!味がある?」
驚いて美和を見るとすごいドヤ顔をされた。あ、腹立つ。
「たまには私が驚かせてみたかったのよね。色々調味料を作って組み合わせて、あと山菜と。これで梅干があれば文句ないんだけどね」
「梅干、疲れた時には良いよね」
「真司さん、意外に詳しくてびっくりしたわ」
「へー、その真司は?」
「造った化粧水が好評で村の女性に頼まれて大変そうだったわ」
「化粧水?へー、すごい特技だね」
要するに置いてきたのか。
食べ終わり、部屋を片付け終わった所でミヤギとシバに質問してみた。
「二人?は、街に行ったことある?この世界で話をする武器は多いの?」
『地形が変わってないならほぼ知ってるで。武器は少ないやろな、俺らも前は意識なかったし』
『そうね、私も話が出来る武器なんて情報持ってないわ。でも、街に行くなら案内してあげる』
じゃあ、道案内は二人に頼むとして
「二人の事は内緒に・・・」
「あはははは」
急に入口の方から笑い声が聴こえ、振り向くと1番面倒な人物がいた。
「ファイ何が可笑しい?」
座り込み肩を震わせ笑っている。クロに頭を噛じられながら。
「それ、魔剣だろ?久しぶりに見たのが、蒼の武器って。魔力扱える訳じゃないんだろ?偶然でもあり得ない!流石蒼!」
「褒めてないよね?魔剣て何?」
「そのまんま、魔力を帯びた剣。通常とちがって特殊なスキル持ちが多いけど、話が出来る武器は初めて見た。話すだけ?闘えるの?」
「ま、まだ試してない。いきなり実践は怖いから後でラクヤさんに場所借りるけど、それより、他の人には言わないでよ」
「えー、騒ぎになって慌てる姿とか面白そうなのにな。じゃあ代わりに俺の剣の相手して」
「素人なので手加減して下さい」
「蒼以外は?」
にやにやしながら言うファイは腹立つけど、全員に対して本気出されても困るので、承諾した。
ラクヤさんに場所の使用許可を貰い真司も呼んで訓練用の広場に集まった。
グラウンドの半分位の広さがあり、入口の左側に、武器や道具を収めている小屋が1つ、正面奥に弓道場で見かける丸い円が書かれた的が6つならんでいるだけで、他に目に付くものは無かった。シンプルというか。広さがもったいないというか。
取り合えず、時間も勿体無いし気にせず始める事にしよう。真司には剣と盾を渡した。
「真司からどうぞ」
「はぁ?無茶振りか?」
「ほら!慣れとかないと怪我だけじゃ済まないよ、自分の身は自分で守らないとね。美和はあっちで弓の感覚の練習してたらいいよ」
ファイは小屋にある剣を1本持ち真司と向き合った。
「くそっ」
渋々剣を構えた瞬間、ファイの攻撃が始まった。涼しい顔をしながら攻撃するファイに対し、真司は防御に徹しているけど辛そに顔を歪めている。数回攻撃した後向きを変えた。
「真司は終了、じゃあ、次美和だね。感覚掴めた?俺が攻撃しに近寄るからその前に当てる事」
奥で練習していた彼女に向かって声を張り上げた。
「え?危なくない?」
「素人相手なんだから、避けれるよ?もしかして当てれる気?」
むっとして、弓を構え、矢を放とうとした瞬間ファイは一気に詰め寄り始めた、美和は落ち着いて何射か撃つが、全て躱され、あっという間に彼女の隣に立っていた。
ぽんっと肩を叩き何か話している。遠くて聞こえない。会話出来るから何か特殊攻撃とか出来るのかと思ったけど、普通の弓?
「じゃあ、今からそっち行くから蒼頑張って避けような」
「は?」
今度は奥から大声を出したかと思えば、途端に寒気が走った。
「真司伏せろ!!」
条件反射で真司と私は伏せた、次の瞬間頭の少し上を空気の刃が横に通った気がした。
バキッ、バキッ、グシャ。
嫌な音と共に小屋が崩れた瞬間、気のせいじゃないと解った。
「ふ、ふざけんなー!!!」
避けなければ吹っ飛ばされ骨が折れていただろう。
「今の何なの?っていうか危ない!無理!」
巻き添えを避けるため真司から距離をとり、ファイの攻撃を避ける。剣を振るたびに風が鎌鼬の様に吹き上がる。三日月の形をした空気の刃がファイの剣から飛び出してくる。ほとんどカンで避け続ける。
「風の魔法だよ。皆すぐ飛ばされるから使用禁止でさ」
「使える人少ないんじゃないのか?だったら使うなー!ぽんぽん出すなー!」
「この村では俺だけだよー。でも、よく避けるな。すごいすごい」
「嬉しくないー」
『蒼って変なやつに好かれる体質やろ』
「違うから!シバも呑気にしてないで戦おうよ」
ナイフでもファイには魔剣と言われていたのだから。
『真面目にやったらもっと懐かれるで。逃げの一手にしとけ』
「それが厳しいんだってば」
暫くするとファイの気が済んだのか静寂が訪れた。周りに最低限しか置かれていなかったのって、もしかして今までファイが全部壊していたから?かすり傷程度で終わったのは運が良かったのかもしれない。嫌な想像をしていたら意外な事を言われた。
「街までは生き残れそうだね。でも魔物見つけたら逃げる事を進めるよ」
あれ?もしかして心配してくれてこんな事を?実は良い人?
「村の仕事終わらせて追いかけるから、それまで生き延びててよ」
「え?何でファイも来るつもりなの?助けてくれる訳じゃないよね?」
「そんなの決まってるじゃないか、必死になってる様子を見に行くんだよ」
言葉通り本当に見るだけんだろうな。やっぱり最悪だ。
三人は心に誓った。早急に街にたどり着こうと。