必要な物を準備しよう
先程私が見つけた場所にラクヤ達に集まってもらった。
元々の井戸からは真逆の位置になるけど、
「この円を掘るのを手伝って欲しい」
地面に枝でガリガリと円を書いて頼んでみた。
ラクヤと、昨日私達に絡んだ4人とファイが訝しげに私を見ている。さて、どう説明して納得して貰おう。
「ふざけてんのか?」
「何で俺達が!」
急に呼び出され、穴を掘れと言われれば勿論不満や不信が出るだろう。ましてや昨日の今日だし、信頼関係も全くない。必要な事です。としか言えない。
「出来るだけ力になりたいが、説明してもらえないだろうか。こいつらもこのままじゃ動かないだろうし。」
ラクヤは頭ごなしに否定せず、仲介役になってくれている。何だろう、ありがたいんだけど良い人すぎる人物って心配になる。後ろの4人はさっさと言えと文句を言い、ファイはニヤニヤしながら今回も見ているだけ。
「祖父に教えて貰った特技で、水の気配が解るんです。土の上限定だし、辿れる範囲が狭いから中々見つけれなかったけど」
「それが此処に?」
「はい」
黙っていた一人が口を開いた。
「お前、俺らに嫌がらせしたいだけじゃねぇの?水が本当にあったとして、お前に特なんてねぇだろ」
「あっ!さっき言ってた鍛冶する為か?」
ぽんと手を叩いて呟いたファイに皆の視線が集中する。
「鍛冶?この子供が?冗談だろ」
4人が馬鹿にした笑いでこちらを見る。予想出来る反応ですね。腹立つけど。
「解った」
ラクヤの一言に、一瞬しんとなりざわつく。
「ラクヤさん?」
「冗談だろ、ある訳ないだろ。俺たちだって散々探して、でも見つからなかったから森に行ってるんだし」
「そんな無駄な事する意味あんのかよ」
「お前達、昨日の罰がまだだったな。この仕事をこなせば良しとしよう」
横暴だ、最悪だと悪態は付いていたけど、最後には仕事に取り掛かってくれた。信頼厚いラクヤの指示を出してもらえて助かった。元の井戸の深さは30~40メートル位の深さはあったから、数週間は掛かると思ったら、握力筋力の違いか5日で、掘った土を他の場所に移動、掘った周りが崩れないように固定等、全ての作業終わった。凄いな猫族。
飲水に使えるがどうかの判断は彼らに任せるとしても、無事に水が出て良かった。これで鍛冶が出来る。
不要になった土を片付け終わった後、ひと息ついているファイ達を見つけた。
「ご協力ありがとうございました。お疲れさまです。」
声をかけると、皆が無言で見てくる。あれ?疲れ過ぎて文句も言えないとか?
「・・・本当に水が出た」
1人がポツリと言った。
「あ、うん。前の井戸と水流は違うから見つかりにく…」
「すげぇ!」
わっと、糸が切れたように騒ぎ出した。騒ぎに駆けつけた1人達も出来たての井戸を見ると、他の村人に伝え始め、あっという間に水面に広がる波紋の様に広がり騒ぎから宴に変わっていった。
その日の夜の宴は村の中心に位置する広場で行われた。
「本当に退屈しないな!蒼は!」
上機嫌にファイが絡んでくる。酒臭い。水不足で、色々制限していたらしく、その1つのお酒も今日は大盤振る舞い。未成年には、全く有り難みはないけど。
「離れろ、みっともない」
ラクヤが間に割って入り助けてくれた。
まとめ役のラクヤは今日も大変そう。
「蒼。あっちに食べ物があるから行ってきたらどうだ」
「ありがとう。ラクヤさん」
でもご飯は素材の味しかしないのでいくのは迷っていたが、調理場に近寄ると意外な人物がいた。
「何やってるの?美和と真司」
「呼び捨てにするな!俺は年上だぞ」
「おつかれー、蒼。何か食べれる物作れないかと思って」
「無視するな!」
「そういえば、はぐれ種って他にも居るって言ってなかった?その人達に聞いてみるとか」
「聞いたわよ。でも、材料ないから諦めろって!あり得ない!」
「はぁ、調味料自体違うのかもな。味覚の違いか、それとも…」
料理論議は続きそうなので、後は任せて自分の目的の小屋に向かう事にした。
水を見つけた対価として、小屋の物は好きに使って良いと許可が降りたので、大掃除は明日の朝から始める事にしよう。
水を掘り当ててくれたのは彼ら猫族なんだけど、気が変わらない内に使わせて貰おう。
中に入ると、ホコリでむせるのを我慢して周りを調べ始めた。使える物がどれ位残っているか確認したいし。鉄、鉱石、破棄されている刀、剣、弓、槍。ここの主は街に行ったまま戻らなかったそうだけど、主も凄いけど、この世界の鍛冶技術はどれだけ凄いのかな。制作手順は違うのか、同じなのか、とりあえず試しながら作ってみないといけない。
やっぱり街に行こう。家に帰りたいし、街の鍛冶も見てみたい。技術は無理でも知識を祖父と話したい。明日の為に今日は早く寝よう。わくわくしすぎて眠れず、起きたのは昼前だった。
高校受験する為に都会へ引っ越したけど、昔住んでいた家は山奥にあり、隣にあった祖父の家にはよく遊びに行っていた。祖父の鍛冶場には子供は近寄らない様に厳しく注意されていたけれど、気になって覗いて、そして虜になった。両親や祖父母には鬼の形相で怒られた。
祖父が創り出す作品がとても綺麗で、どうしても自分もやりたいとお願いした。
勿論却下。火傷や怪我、鍛冶場の暑さに耐えきれない、色々な理由で。祖父には現実的に女性が鍛冶職人になるのは皆無であると教えられている。それでも食い下がる私に根負けした祖父は条件を提示した。
祖父の条件は
1 体力作りと無駄な力を使わないやり方を知るため古武術を皆伝まで修得する事。
(祖父は師範代でもある)
無駄な力を使った打ち方をして怪我や筋を痛め無いようにする為とか。
鍛冶の前に古武術で散々怪我やアザを作る程スパルタだったから、此処で諦める事を期待していたのかも。
2 宿題、睡眠、食事、運動は手を抜かない。
3 テスト期間は一切鍛冶場に近付かない事。80点以下は赤点とみなし出禁にする。
諦めさせる為に、他にも細かい事を最もらしく言われたけれど、全てクリア。
そして、高校1年になって、やっと打たせて貰えるようになった。週末にしか山奥の家には通えなくなったけど(交通費とかの金銭面で)、バイトも増やして勉強もこれからもっと頑張って。なのに、こんな所で絶対に終わりたくない。終われない。