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文化の違い

何も考えずに勢いで書いてます。楽しい。



「お前の魔法で俺を魅了させてくれ!!」



この発言を敢えて細かく説明するとしたら……

お前の=貴方の

魔法で=魔法(この場合手品)を使って

俺を魅了させてくれ=私の心を惹きつけてください


となる。

何一つ問題のない発言である。


しかし、俺の渾身の言霊を受け取った相手方は、どうやら日本の言葉に不慣れな少女だったらしい。



「よ……よろしく、お願いします」



何かを期待するような上目遣い。

モジモジと恥じらい脚の前で組まれた両手。

先程の覇気が嘘のように消えて、借りて来た猫の様に大人しくなってしまった。


ん?どうした? 一体俺と彼女の間にどのような差異が生じている?


その時、俺の生存本能が何かを必死に語り掛けていた。

冷静に、そして慎重に行動すべきだ……でないと貴様、死ぬぞ! と。



「ちょっと待ったーーーー!!!」


「っ!?」



俺の声に、真剣な表情に驚いたのか、ハッとした顔で身をこわばらせる少女……おっと、いかんいかん。今なおロリを家に連れ込んでいるという客観的事実を忘れてはいけない。まだ社会的に死ぬ可能性から俺の脚は抜けていないのだ。



「その、少し……冷静に話し合いませんか?」


「……は、はいっ」



再びキュンっ……とした顔を見せる少女。なんだ? 一体俺の何が君にそうさせる?

産まれてこの方、ありとあらゆる女性にそのような顔を向けられたことは……特殊な例を除いて無かった。逆を言えば、その特殊な例のお陰で俺は彼女が俺に向けている感情が“普通ではない”と理解出来ている。



「一旦お座りください。ささ、こちらへどうぞ」



100均で購入した安っぽいクッションの上へと彼女を誘導する。俺に言われるがまま、身だしなみを整えてから優雅にスカートを折って座る少女。所作の一つ一つに育ちの良さが見て取れる。



「えっと、一旦玄関のドアを閉めてきますね。いやー建付けが悪くて、すみませんアハハハ」



少女に背を向け、ドアを閉めて戻るまでの僅かな間に心を決めねばならない。

第一目標は、特に何の進展も変化も禍根も残さず彼女に出て行ってもらうことだ。次点で、何かしら関係が続くことになったとしても今夜はお引き取り願うことだろう。さて、何かいい作戦はないものか……ないものか…………ない……


ドアが、無い。


一歩外に出て、左右を見渡すと見慣れない物体が転がっている。

記憶の中を探って似ているもので例えるなら、チョコレートを包んでいた銀紙をスケールアップしたようなものが通路に転がっている。

それが恐らく“元ドアだったもの”と認識するまでに数秒を有した。


えーっと。一旦逃げるか?



「ご、ごめんなさい! すぐに直しますわね……」


「えっ」



気が付くと俺の直ぐ横に立っている少女。恥ずかしくて仕方がないといった表情を浮かべたまま、玄関ドアがあった辺りへ手をかざして何かをボソボソとつぶやき始める。

流石にその光景を例えられるものを俺は知らなかった。録画した映像の逆再生とも違う。玄関扉があった空間を淡い光が囲ったかと思うと、外に転がっていたゴミがスッと引き寄せられ、ぐしゃぐしゃだったソレが元のドアの形へ戻ったかと思うと、丁番から壁の抉れた部分から、何から何まで元通りになった。この間僅か数秒の出来事である。



「見慣れないものだから時間が掛りましたが……これで元通りですか?」


「あっ、はいっ、大丈…夫……ッス」



流石の俺も、これを手品だと思い込めるほど無垢ではない。





ドアを修復した後、部屋の明かりを点けてからちゃぶ台に向かい合って座る俺達。これから将棋の対局でも始まるのか、というように互いに頭を下げた後、彼女はポツリポツリと自己紹介と己の事情を明かし始めた。



「改めまして、私(わたくし)……シロヴェナ・ルミエール・ヴォイドと申します。シノブと呼んで頂けると嬉しいですわ」


「村上孝、です。その、大体人からはタカシと呼ばれています」



タカシ様……と、少し顔を伏せて照れるように復唱するシノブ嬢。おいおい、なんか怖いからやめてくれ。


軽く咳払いした後に彼女が語った内容は、俺が漫画の世界でしか聞いたことのないような内容だった。

サキュバスとして生を受けたものの、人間の精気を主食とする種族的な在り方に馴染めず、生き繋ぐのに必要な分以上のソレを求めずに育った彼女は、いつしか一族の中でも浮く存在になったのだという。

その影響か成長が遅く、同族や兄妹に白い目で見られながらも、家柄に守られ偏食の矯正を無理強いされることは無かったのだとか。


幸いなことに魔術の才能があった彼女は、サキュバスとしては異例の魔界の魔法学校に通い、次席で卒業するまでの成績を収めたのだという。

しかし、家に帰ってみれば両親以外にそれを褒めてくれる人も居らず、名家の淫魔らしい行いを全く示さない彼女に対する他家からのバッシングも強く、いよいよ父親より“サキュバス修行”を命じられたらしい。



「人間界へと降り立ち、自らの力のみで人間の精気を1万人分集めるという内容ですの……くだらないでしょう?」


「ははは、そーっス……ね」



1万人の精気と言うのが正確にどれ程の規模なのか俺にはわからないが、人間界で欲望が渦巻く場所……いわゆる都会や歓楽街などで、そこそこ力のあるサキュバスが真っ当に活動すれば一年以内には達成できる課題らしい。時間の感覚が同じだとすれば、1日に27人ちょっと召し上がる計算になる……末恐ろしい。


彼女からしてみれば、米なんて不味くて食えないのに米農家として大成するために米どころへ飛ばされ、嫌々田畑を耕し米を栽培して食す生活を強いられるようなものなのだろう。



「とにかく形だけでも修行に出てくれ……とお父様に泣きつかれてしまいましたので、仕方なく人間界に出てきたのですが。何者かの策略によって本来向かう場所とは違う場所、この部屋に出て来てしまいましたの」



魔界には人間界へ繋がるゲートというものが多数存在するらしく、予定では目的を果たしやすいように都会の歓楽街に降り立つ筈だったらしい。

しかし、何者か……彼女を屈服して名家に取り入ろうとするインキュバスや、魔法大学次席卒業の彼女と勝負を望む魔族、或いは自分を嫌っている兄妹の策略により彼女は俺の部屋へと降り立ってしまった。

都会とは呼べず、さびれた商店街があって、街の平均年齢もそこそこ高そうな辺鄙な田舎の、ボロアパートの一室へ。


とりあえず警戒をしつつ、俺の家周辺を軽く見回ったもののサキュバスとして活動するに値しない環境であることを認識し、自分をここへ送った何者かのリアクションを待つ為にひっそり息をひそめて待機していたらしい。



「来た時に通ったゲートを戻ることは出来ないんですか?」


「本来は可能なのですけれど……向こう側で何かしらの妨害をしているのか、或いは他の要因でゲート自体が狭まってしまっていて帰れないのですわ」



それ故ことさら警戒した状態で俺と邂逅を果たしたらしい。なるほど。

ここまでの会話のやり取りで俺が得た情報を精査すると、彼女の表情、語り口調、先程目の前で見せられた超常現象を合わせて、確たる証拠は無いものの信じるに値する内容であると判断出来る。

彼女の話す日本語は非常に流暢で、難なく俺には彼女の置かれた状況や身分は伝わっている……ならばこそ、最大の疑問が一つ残る。


なぜ、今なお彼女の表情は恥じらう乙女のそれなのか、だ。


俺の目線に気が付いたのか、一瞬目が合った後に再び顔を伏せて照れる彼女。

うん、俺にロリコンの素養は無いが、その気がある諸兄には致死性の表情ではなかろうか。育ちの良い言葉遣いながら、甘ったるい幼声も相まって俺ですら少なくないダメージを受けている。このままではジリジリHPを削られて気が付いたときにはデッドエンドだ。



「す、すみませんでしたわ!」



突然平謝りする彼女。スカしっ屁でもしたのだろうか、律儀な人だ。



「その……冷静に話し合おうと提案して頂いて、私の独りよがりな勘違いをしていると……その、気づきましたの」


「勘違い、と申されますと?」


「……説明するのがとても恥ずかしいのですけれど、私共(わたくしども)の一族には“婚約”に用いるちょっと変わった問答がございますの」



彼女が言うには、古来一族の悪魔……いわゆる淫魔族には婚約の習わしがあるという。相手を魅了し己の従属とする彼等にとって、夫婦となる相手とは対等の関係を築くのが好ましく、一方の力が強く片方を支配する関係を忌み嫌ったのだとか。

その結果生まれたのが『互いに魅了の技を掛け合い、その力に抗った後に婚約を申し出る』というものらしく、その時に用いられる文言が『私を魅了してください』もしくは『貴方を魅了させてください』らしい。



「今では一族間に大きな力の差が生まれてしまい、自由な恋愛や結婚を望む者も多くて廃れてしまったやり取りなのですけれど……」



彼女の祖父母、そして両親は名のある名家というのもあり、この習わしに則って婚約が果たされた後に夫婦になったのだとか。今では同世代の誰もが軽視するこのやり取りを、彼女は幼い頃からずっと憧れ続けていたらしい。



「その……落伍者の私にも魅了の力はそれなりにありますの。でも、そんなもので相手の心も体も奪って自分の物にする行為になんの魅力も感じないのですわ。私は、お爺様やお婆様のように互いを想って愛し合う関係が羨ましかった……」



しかし、彼女の憧れは無情にも打ち砕かれ続けた。

家の名前欲しさに強引に魅了(チャーム)をかけ襲ってくるインキュバス達。魔法の力を求めて力づくで襲ってくる他属の悪魔達。人間界同様に発展した社会とは裏腹に、魔界は今なお実力行使上等!な世界なのだとか。



「そんな中……タカシ様は私の魅了にも、魔法にも打ち勝って“あの言葉”を下さったものですから……その、勘違いをしてしまって……」



湯気が立ち込めそうな程に顔を真っ赤にして告白する彼女。なるほどなるほど。そういうことでしたか。



「一向に構いません」


「…………えっ?」


「貴女がその気なら、婚約の言葉として受け取って頂いて結構です!」



俺は語気を強めて言い切る。

男には決断が大事だ。それっぽい誰かも言っていた筈だ。


サキュバスの御令嬢?

ものすごく良い。俺が望んでいた漫画のような高校生活とはまさにこのような導入から始まるのだ。


勘違いの婚約?

殊更良い。むしろ狙って出来ない出会いと言える。こういう形からスタートした関係は強固になるに違いない。アニメや漫画でもこの手の展開はよく見たが大体ハッピーエンドだ。


ロリ? 問題ない。あと数年待てばいいだけだ。微かに甘い匂いがするメロンを、熟れるまで大切に見守るというのも乙というものだ。間違っても青いうちに手を出してはいけない。逮捕だ。


俺の確固たる、揺るぎない、力強い返答を受けて僅かな間放心していた彼女は、思い出したかのように顔を赤く染め、うつむいてしまった。



「あ、あの……えっと、その……え、えぇ……」



見よ!この麗しき少女を。どこからどう見ても圧倒的美少女だ。

今になって告白するが、初めて彼女の姿を見た時、俺は僅かな間見惚れていた。俺はロリコンではないと強く主張するが、それでも、彼女は美しく、可憐だ。

つまり、俺は彼女に惚れていた。



「その理知的な姿勢や、己の生まれに縛られない強い意志を持った生き方。美しい容姿に甘く撫でるような声も素敵です。置かれた境遇に折れることなく、理想と現実の落としどころで藻掻く姿も尊敬します」


「あぅ……あっ……んんっ……」




俺が言葉を発するたびに、よからぬ嗚咽を漏らす彼女。やめて欲しい、変なことをしていると勘違いされてしまう。

俺は幼い頃より師匠に刷り込まれた技を実践しているに過ぎない。想いを寄せる女性へは真っすぐ褒める、兎に角褒める、照れず衒(てら)わず実直に想いのまま褒める。

そして



「貴女が好きです」



愛を伝えるのだ。

さすれば、必ず想いは相手に通じる……その結果を師匠は保証しなかったが、ダメな時は仕方がない。諦めるなり藻掻くなりは今考える事ではない。

俺は真っすぐに彼女を見つめ、姿勢を正して全身で誠意を伝える。

例え如何なる動機であろうと、心から望めば純も不純も無い。師匠は常に不純な顔をしていたが、その教えと行動だけは常に実直で尊敬できたので真似(リスペクト)できる。


キッと、意を決したように依然赤い顔を上げるシノブ嬢。

俺同様に居住まいを正し、真っすぐ目と目を合わせて向き合う……瞳の色が深い真紅から淡い空色へと変化していく。どこか優しい顔つきになった気がする。

固く結んでいた小さな唇を、柔らかく解いて彼女は言った。



「ふ、不束者ですが……末永く、よろしくお願い申し上げます」


「こちらこそ、よろしくお願いします」



互いに深く頭を下げ合い、えらく古風なやり取りを交わす。サキュバスの習わしに合わせた現代語訳みたいなものなのだろう。


なにはともあれ、こうして俺は齢十六にしてサキュバスのお嬢様と婚約関係を結ぶことになった。ウハウハである。うひょ~~!




俺達はその後も色々と話し合った。

対等の夫婦になるために敬語を止め、自然に会話しお互いを思い遣ること。

目下、彼女の現環境を打破する策を模索する……これは魔界に戻って去るとかそういうことを意味するわけではないということ。

落ち着くまでこの家で共に暮らし、寝食を共にすること。


寝食を、共に、すること。


……この場合の“寝”とは同じ床につくという意味であって、つまり今の若い子にも通じるように言うと、同じ布団・同じベッドで寝るという意味だ。わかるかな~?



「あ、あの……つかぬことを伺いますが」


「敬語はやめて。その、少しずつでも良いから……お願いだわ」


「あぁ、うん、それでちょっと聞いても良いかな?」



俺は同じ布団の中、すぐ隣で俺に背中を向けて横になっている彼女に恐る恐る尋ねる。これだけはハッキリとさせなくてはならない。



「女性に聞くのが失礼なことだとは重々承知の上なんだけど、シノブって……その、何歳なの?」



くるり、と体の向きを変えて俺の顔を見上げる彼女。少し心配気な、不安を抱えた表情が意地悪したくなるほど可愛い、やめてほしい。



「その…………引かないで欲しいんだけど……」



俺の目が正しければ13……いや、12歳もありえる。流石にそれより下という可能性は……いや待てよ、シノブの場合見た目が整っていて欧米人のような成長曲線を辿っている可能性もある。その場合9…………お、落ち着け! 俺は奥さんとなる人と共に寝るのではない。その、年の離れた妹と寝ている。風邪を引かせないために人肌で温め合い……いやそれもっとダメかもしれない。



「……352歳よ」







お父さん、お母さん。

僕、孝は今日初めて女の人と一緒の布団で眠りました。

名前はシノブさんといって、見た目はちょっと幼いけれど大人の女性です。

色んな意味でとってもドキドキして中々寝つけませんでした。

僕が年齢を聞いて黙っていると、可愛い顔をして照れながら怒るんです。

いつか実家に連れて行きたいと思います。

どうかそれまで、僕が警察沙汰にならないように祈っていてください。


追伸

ページをめくって送れない現実ってバグってませんか?





どんな一言でもご意見いただけると泣いて喜びます。ありがとうございます

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