11 御令嬢
オルクスくんさぁ……
「……とにかく、白衡のやつが攻めてきた時の為にも、一旦俺らは手を組んどくべきじゃねぇか?」
「だからね、何回も言ってるけど私はあんたとは組まないの。……大体、私の領域で好き勝手暴れて破壊して回ってる時点で私からの微塵もない信用の底が抜けてんのよ!」
しつこい、とオルクスの提案を蹴り続けてはや2時間が経過しようとしていた。
「だから……」
「とにかく。あんたはさっさと弁償分の金を置いていくか、あんたらのとこの修理できるような能力者つれてきて元通り完璧に治させるか、あんた自身で全て完璧に治すかして帰れ」
「星那様……お言葉が少々強すぎますよ…………」
いい加減にしろと叫びたいのを我慢していつまでも帰ろうとしないオルクスに対して紡いだ言葉に、アルカナが「やれやれ……」と言いたげな顔で呟いていた。
「そこまでしてやっとあんたは私に、雪月花に交渉を乞う立場に立てるって事を肝に銘じなさい」
私よりも遥かに巨躯なオルクスがプライドなど無いのかと言いたくなるような視線の低さで居るのだが、それを私は突き刺すような冷たい眼差しを向けて言い放った。
「……わかった、アビスの修復できる能力者を連れてくる。その後ならちゃんと俺の話聞いてくれンだな?」
私の応じようとしない姿勢に諦めがついたのか、オルクスはそれ以上粘ってくることもなく自らの組織から雪月花を修復できる能力者を連れてくると言った。
どうにも素直すぎて逆に不吉だが、きっとそれほどまでに今回の白衡のことは不穏なのだろう。オルクスが戻ってくるまでに私も何か手を考えとかないと。
「…………さて、アルカナ、一旦戻るわよ」
無言のまま頷き、地を蹴って尋常ではない速度で去っていったオルクスの背を確認した後、雪月花の本拠地へ戻ろうとアルカナに声をかける。
「はい、星那様。……そういえば、星那様に会いたそうな子が待機してると思いますよ?」
「会いたそうな子?」
はて、そんな人が居ただろうか?雪月花の誰かであることに間違いないだろうけど。
…………転生完了したとはいえ、記憶はまだ曖昧な部分が多いなぁ……やっぱ転生繰り返しすぎるとその分記憶が全部戻りきるのに時間がかかるのが面倒ね。
「星那様、もしかしてまだ記憶が……」
アルカナが心配そうな、悲しそうな顔で私に聞いてくる。
「あぁ……うん、まあね。私の記憶はまだ完全に戻りきってないの。まったく、転生する度にこの状態が長くなるのだけはほんとに嫌んなっちゃうよねぇ」
そう、私は数えるのも億劫になるほどの回数の転生を繰り返し、その度に1世紀分の時を老いることなく生きてきた。回数を重ねるほどに私の中に記憶と力は蓄積していった。
それらの蓄積されてきたものをデータの容量で例えるなら、どんどん増えていくデータは機種変更を繰り返すにつれてその都度新しい端末にデータをダウンロードしなければいけない。
ダウンロードする為には時間が沢山かかる。容量は増える一方だから、その分要らないデータは整理する必要がある。面倒だけど、転生する度にしておかないと今回みたいなイレギュラーがない限り途方もない時間が必要になる。
「まあいいや。とりあえずその私を待ってる子に会いに行こうか」
軽く伸びをした後、アルカナの方に振り向いて微笑む。
「はい、星那様」
アルカナが私に短くそう返事をすると、微笑んだ。その微笑みは、初めてアルカナに会った時に見たものに似ているように感じたが、どことなく悲しそうで、そして大人びていた。
「アルカナ、その私に会いたがってる子ってのはどんな子?」
ふと気になったことを聞いてみる。
「うーん、そうですね……一言で言うなら、 ” 御令嬢 ” って感じです」
「御令嬢……?」
御令嬢……?確かに私は雪月花の子達にある程度の教養は身につけさせたけど、御令嬢なんて言われるような子は流石に心当たりがない。無論、これまでの記憶全てを一通り断片的にだけど見た中で。
……となると、私がまだ会ったことのない子って事になるよね。
「……とりあえず、その子はどこで待ってるの?」
「星那様のご邸宅の門の前に」
「そんなとこに待たせるなっ!」
危ない、思わず叫んでしまったじゃないか。何故主人が知らない人物を主人が不在の間にその主人の家の前に待たせるのか。待つ方も待たれる方も嫌だろうよ。
「だって……どうしても星那様とお話がしたいと可愛い顔を向けながら訴えてきたんですよ……!?」
アルカナよ……変なところで美少女に弱いのは何なのだ……?
そんなこんなで私がアルカナに少し呆れていると、星月邸が見えてきて、その門の端の方に堂々とした立ち姿の黒に赤の差し色の入った綺麗なドレスを着た少女が目に入る。立ち姿はとても品のあるものだが、その表情はどことなく気まずそうであった。
「アルカナ、あの子?」
「はい、そうです」
おいおい……まじで可哀想じゃないか……さっきのオルクスとの戦闘とかあってる最中にここまで来てずっと独りで立って待ってたんでしょ……?中に入れる訳にもいかなかったのは分かるけどもう少しましな所があっただろうに。
「ごめんね、待たせたかな?」
門に近づいたところで軽く手を振りながら少女に声をかける。
少女は私達に気づいて、顔をこちらに向けるとぱぁっと花が咲くような満面の笑顔を向けた。……可愛い。
「……初めまして、わたくしは 穹詠 紅羽と申しますわ。以後お見知り置きを」
見つめられたまま少しの間が空くと、ハッとしたように紅羽が自己紹介をした。
その所作は完璧なものだった。短めのドレスのスカートを両手で摘んで少し持ち上げ、軸足を曲げて片足を軸足の後ろに持ってきて軽く頭を下げる。完全にどこぞの貴族の挨拶の仕方だ。ハーフアップにされ、ところどころに編み込みのある焦げ茶の髪とドレスが幼い顔立ちながらも色っぽく魅せていた。
「ご丁寧にどーも。……それで?穹詠ちゃんは私と何の話がしたかったのかな?」
あまりにもお嬢様という言葉が型にハマる所作の紅羽に少し見とれそうになったが、雪月花の” 天如 ”としての私を降ろしてなんとか耐えて紅羽に質問する。
斜め後ろからなんとなくだがジトっとした視線を感じる……多分、きっと、おそらく、いや、確実にアルカナの視線であることに間違いはない。
分かってる。別に紅羽が可愛すぎてテンション上がってオフのノリで話しそうになったとかそんなんじゃないから。
「あっ、そうですわね!……実は、わたくしを望月様の組織である『 雪月花 』に加入させて頂きたいのですわ」
ハッとした顔と仕草をした後、直ぐに真面目な顔で私に紅羽がそう頼み込んで来た。
「…………それはどうして?」
頼みを聞いた瞬間、私は少し難しい顔をした。
雪月花は確かに私を頂点として秩序立ててある程度暮らしやすいようにはしているし、実際他の2つの組織の領地よりも確実に生活水準は高いと思う。それを目的としているなら私に直接言わずとも雪月花の本部か支部の建物に行って入居手続きをすればいい。
そうじゃないとして、どうしてわざわざ危険な目に遭うかもしれない立場に身を置こうとしているのか?
それが、私が1番違和感に思ったこと。
……こんな可愛くて育ちのいいTheお嬢様☆みたいな子を組織同士の争いに巻き込んで戦場に送り込んだりとかできるわけないでしょうが!…………なんでもないですごめんなちゃい。
「それは……わたくしの目的を達成するのにこの『 雪月花 』は最適であると判断したこと。そして、望月様のその圧倒的なまでの人望に惹かれたからですわ」
……と、凄く長時間並べられた熱烈な私語りをとっっっっっっっっても簡潔に纏めた結果がこれである。
んまぁ……お嬢様からは到底想像できないような熱量だったんだよね……すっごいなんかこう、この私ですら引き気味になるほどのオタクぶりというか…………なんかアルカナみたいな子が来たというか。
…………アルカナさんや、何故この熱量の語りを長時間聞いた上で志望動機を話されてどうして自慢げに頷いておられるのでしょうかぁ……?普通そういうのってボスである私を助けるために何か行動起こしたりしなぁい……?
もしかして…………
「ねぇ、穹詠ちゃん。…………貴女、もしかして私の事アルカナに熱弁されたね?」
そう、私が言った途端。
「んなっ…………そんなわけ……あるけど…………無いですよ!」
あったんかい…………
「やっぱりか。とりあえず、アルカナは後でシバくとして……穹詠ちゃん、貴女は一先ず採用ね。貴女の能力を中心にできること教えて?……あぁ、アルカナが居るのが嫌なら別室に居させるから」
一先ず門を開けて望月邸の客間に案内した。
少し首をアルカナのいる後ろ側に向けてアルカナに目配せをすると、アルカナが少しガーンとした顔をしたが、能力関係の力はシビアな面も多いことを知っているために納得した様子で部屋を出ていった。
「…………さて、それじゃ聞かせてもらおっか。穹詠ちゃんの能力とかその他諸々のこと」
アルカナは美少女に弱い……!?!?




