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災淵の雪月花  作者: 暁星
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10 あんた1人で行けっ!




「ほんとに、アルカナは生きてるんでしょうね?」



「何回聞くんだよ?……生きてるっつってんだろーがよ」



 アルカナが気絶している方向へ走り出そうとした私は、オルクスに再び問う。

 何度も問いかけてくる私にうんざりしたように言い放ちながらさっさと行けといわんばかりに手を鬱陶しげに振り払うような仕草を私に向けた。



「生きてなかったら……覚えてなさいよ」



「……へいへい。……………おっかねぇなぁ」



 私は一瞥して言い残すと、気の抜けたオルクスの返事を聞いてアルカナの所へと急ぐ。動き出してから、オルクスの私に対する悪口が聞こえた気がしたが、今はそれどころでは無いので聞かなかったことにしておく。



「……アルカナ!大丈夫!?」



 地面に力なく倒れているアルカナを見つけ、直ぐに駆け寄って首筋に指を当てて脈があるかを確認する。



「良かった……脈はある…………」



 脈は安定していたし、本当にただ気絶していただけのようで安心した。この調子ならあと少しで目を覚ますだろう。

 私はアルカナを仰向けで寝かせ、その頭を自らの膝に乗せた。所謂膝枕というやつだ。頭の重量とそこら中に散乱している瓦礫などで少々足が痛むが、アルカナの頭をずっと固い地面に放置しておくよりはマシだろうと我慢した。



「そう言えば……なんでオルクスのやつ、あんなボロボロだったのかな」



 私が意識を取り戻してからの事を思い出して疑問に思う。オルクス程のやつをあれだけボロボロにできるのなんてそうそう居ないはず。一体何があったというのか。


 うーん、と足に伝わる瓦礫の痛みを紛らわせるように首を傾げて自分の行動をもう一度思い返してみる。



「あれから私が意識飛んじゃったから……意識が途切れる寸前は……あんまり覚えてないんだよなぁ……」



 能力を確認すれば何か分かるだろうか?何せ、これまでの転生全てでこのような事は無かった、と思う。魂魄に刻み込んでおける記憶にも限度があるから一概に全て覚えているというわけではないから何とも言えないけれど。



「………………あれ……?」



 物は試しという言葉に従って能力とその権能を1つずつ確認していった時、まだ転生したてでは絶対に発動すらできない権能が発動されていたのが確認できてしまった。



「なんで……" 神座 " が発動されてたの……?」



 私が無意識のうちに発動した……?いや、それは絶対にありえない。" 神座 " は特殊詠唱を言う必要がある。常時発動型の権能ではない以上、無意識で発動した線は薄いだろう。

 じゃあ副人格?いや、副人格は副人格で私の命令は絶対だから命令にないことはしないはず。

 じゃあ…………柚永ちゃん?いや、それが一番ありえないだろう。確かに柚永ちゃんは賢いけれど、あの幼さではまだ能力の知覚すらできない。できたとしても発動はできない。



「じゃあ誰が……?」



 同じような思考がぐるぐるとループし始める。



「……ん…………星那様……?」



 延々と悩んでいると、目を覚ましたアルカナの寝ぼけた声が聞こえた。



「ぁ…………アルカナ!」



 良かった……と呟きながら私は起き上がったアルカナの身体を抱き締める。



 アルカナはぽかんとしていたが、私があんまりにも大袈裟な反応をしていたからか少し微笑みながら言った。



「星那様も……ご無事で良かったです…………」



 抱きしめていて見えはしなかったが、言葉を言い終わる頃にはアルカナの声は少し鼻声になっていた。それをまた隠そうと頑張って声を戻そうとしていたのはアルカナらしい。



「…………うん」



 しばらく抱きしめたまま、私はアルカナの頭を撫でて落ち着かせていた。



「……アルカナ、表情はあまり変えず、静かに聞いて」



 近くにいるであろうオルクスには聞こえないよう、アルカナの耳元で小さく話しかけた。

 アルカナはまた同じように小さく頷くと、私の話に耳を傾ける。



「さっき、アルカナが起きるまで能力の確認をしてたの。そしたら…………" 神座 " が開いてた」



「えっ…………?」



 元々声を出すつもりは無かったのだろう。思わず声が漏れてしまったといった声色で一瞬声を出したアルカナ。



「それって……確か転生したての今じゃまだ発動すらできないから開けないって…………」



 耳元で囁かれる小さい声には当然だが困惑の色が強く現れていた。



「その通り。本来なら発動すらできないはずの " 神座 " …………いや、『 赫焉たる神座 』が発動されていて、しかもその先の " 神座 " が開かれてた」



 このような事は今まで起こったことが無かったし、ありえないことだと思っていたのに。

 私の話を聞くアルカナもこれ以上ない困惑を浮かべている様子だった。



「それが発動されたって事はつまり……」



「……そ。この器が私に限りなく近かった上に、完全な同意の元に転生が完了している。

 転生がいつも以上に早く終わったのは僥倖と言えるけど、それよりも私の()()()()()()()可能性がある事はまずいわ。」



 お互いに神妙な面持ちを崩さずに話した。

 私の幾千回もの転生を繰り返して気がついたこと、それは、“ 私の転生が全て完了した時、完了するまでにかかった年月に応じてその代の寿命がある程度決まるというもの。


 何代か前、ある事がきっかけで4歳の時に記憶と力が全て戻って転生が完了した事がある。その代の私は16歳で寿命が尽きて急死した。まぁ、あの時の代は私と肉体との相性が今回ほど良かったわけじゃないし、緊急事態だったのもあってゆっくりと転生していた私が急に叩き起された形だった。


 今回の転生は色々とイレギュラーが多い。考えることも多いし……オルクスが雪月花の領地を荒らして回るし……もう…………やんなっちゃう。



「……さて、そろそろ話は終わったかよ?」



 私がため息混じりに考えていると、私とアルカナが話し終わるのを律儀に待つために時間を少し潰してから私たちのところにやって来たらしい。



「私の領地を荒らしておいて、今更どの面下げて来たのよ。さっさとアビスに戻ればよかったでしょうに」



「んだよつれねぇな。俺ァよ、星那、手前に話があんだよ」


 

 皮肉交じりに私がオルクスに言えば、オルクスは少し気まずそうにしながら私に話があると言った。



「……はぁ?話…………?」



 これだけ荒らしておいて今更なんの話があると言うのか。



「嗚呼。……手前も薄々気づいてんじゃねぇのか? “ 奴 “ のことをよ」



「 “ 奴 “ ……?あ……そうか。私たちが転生をある程度完了してるってことは白衡(しらひら)も……」



「……そーゆーことだ。彼奴(アイツ)も俺らと同じく、そろそろ転生が完了してくる頃だろ」



 “ 奴 “ こと白衡(しらひら)は、雪月花やアビスといった旧東京を3つに分けた組織、領地の最後のひとつ。東の雪月花、西のアビス、そしてその間のライブラ。そのライブラのボスとして君臨しているのが白衡。

 

 白衡の転生が完了したとなれば……正直オルクスよりも面倒かもしれない。オルクスは第一に暴力というのは変わらないけど、まだ力を示して言葉を交わせば割と話し合いというものができる方だし。

 ただ、白衡は……少し、という度合いで取り繕えない程には話が通じないというか、融通が効かないというか。まあ、一言で言えば頭でっかち。



「……確かに、アレがまた転生してくるのは…………面倒ね」



 オルクスは私と話しながらかなり渋い顔をしている。きっと、私も同じような顔をしているだろう。

 大抵のことなら軽く片付けられる私たちですら、白衡という男は面倒な存在というのがこれだけでも分かるだろう。そう、面倒なのだ。とても。とっても。できれば関わりたくないと思うほどには。



「……だろ?まあ、そこで折り入って頼みというか提案なんだがよ……白衡の野郎を片付けるまでは俺らアビスと一時的に協力しねぇか?」



 いつも謎の自信に満ちているオルクスにしては、随分とよそよそしい提案の仕方だった。これは、受けなければきっとオルクスに何か不都合でもあるのだろう。



「それはいい提案だけれどね。……あんた、そう言ってどうせ私をいざって時の囮にしたいだけでしょうが」



 ジトっとした目でオルクスを見ながら私がそう言えば、オルクスは図星をつかれたように顔を引き攣らせて黙り込んだ。



「はぁ…………やっぱそういう事か。妙によそよそしいと思ったのよ。じゃ、そんなあんたに私から言うことは1つ。……あんた1人で行けっ!」



 私は無慈悲にオルクスに言い放ち、拳を握り親指を立て、そのまま親指を拳ごと下に向けた。にっこりと目に光のない笑みを浮かべて。……仮にも巫女が、しかも巫女服のままにすることでは無いことだけは確かだった。



「……はっ、はァ……!?ちょっ、待って、待ってくれよ……!」



 オルクスが焦ったように私を引き止める。



「何?もうあんたと話すこともないと思うんだけど?」



 私が見下すようにそう言っても、オルクスは怒り狂う様子も無く、懇願するように言葉を紡ぐ。



「だからよォ、白衡が転生を完了させちまったら雪月花にも遠からず被害を被ることになるだろ?」



「その時はその時。どうせ既にあんたに散々荒らされてるし、私は仮にもこの世界の平和を目指して動いてるんだから、アレも雪月花よりも荒れ狂って秩序もクソもないアビスの方に先に行くでしょう?」



 オルクスの表情がみるみるうちに青くなっていく。このような様子は正直見てて楽しいが、早く服を着替えたい。



「そこをなんとか頼む……」



「無理」



 最後の頼みのように懇願された言葉を、私はあっさりと切り捨てて望月邸に帰ろうと歩みを進めた瞬間。



「今回の白衡は何処か様子がおかしいらしい」



 その言葉を聞き、私はピタリと歩みを止める。



「……どういうこと?」



「組織の奴らに色々と探らせたんだが、今回の白衡はどうにもいつもと違う行動が目立つらしい。調べたヤツらが言うには、『まるで本物じゃないみたい』だそうだ」



 本物じゃない……か。仮にそうだとしても、組織のボスとなれるほどの資質を持った人間の転生を邪魔などできるものではない。



「人格の転写と魂の定着に手間取ってるって所かな……それとも…………元の体の持ち主に同情でもして、転生の完了を渋ってるのか」



 可能性の話ではあるけど、ない話ではなさそう。

 ただ……最後の可能性は薄そうではあるんだよねぇ……



「うーむ……だがよ?流石に最後のはねぇんじゃねぇの?」



 オルクスは顎に手を当てて考える仕草をしつつ、渋い顔で言った。



「あぁ……やっぱりぃ……?私も思ってたんだよねぇ……」



「あの白衡に限って同情で自分の転生を渋るとか……まさかまさか……ははっ…………まじでありえねぇよ」



 そうだよねぇ…………まさかあの白衡に限って……ねぇ?

 少しずつ現実味を帯びていくものを見ないふりするように乾いた笑いを零した。




新たな不穏の種をばらまきに来るついでに雪月花を軽く荒らすオルクス......そりゃ星那も怒りますわ......

戦闘以外の話を書くのは相変わらず苦手なので、多分またすぐ何かしらの戦闘描写が近いうちに出てくると思いますが楽しんでいってくれたら嬉しいです。

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