四十、忘れた感覚
「何が…何がどうなってるんだよぉぉぉお!!!」
僕はみっともなく泣き叫びながら、時折後ろを振り返り、今起きていることが夢であればいいと願いつつ、山道を駆け下りていた。
どどどと迫りくる恐怖の足音から、必死に逃げる。
「っ…どうすればいいんだ!一体どうすれば…!」
『知ってる…筈だよ。』
「…えっ!?」
その時、自分をこの状況へと巻き込んだ火の玉が再び目の前に現れた。それどころか、その火の玉が、自分に話しかけている気がする。
『君は…どうすれば良いか知ってる。ただ…忘れてるだけ…。』
「ええっ!?もう嫌だ!頼むから話しかけないで!!!」
『…来る。』
「えっ…?」
後ろを振り向くと、火の玉に気を取られている隙に、鼠が後6メートルくらいのところまで近づいていた。
『言霊を…乗せて…。』
「へっ…ちょっ…!」
青白く光る火の玉が、急に僕の身体の中に入り込んでいく。その刹那、頭の中で何かが弾けた。どこか懐かしい、遠い日の記憶を思い出したような気がした。
突然立ち止まり、まるでずっと昔から行ってきたことのように、自然と体が動く。
勢いよく鼠の方を振り向き、腕を構えて言葉を叫んだ。
「祓え給い、清め給え!」
掌の前に、五芒星の描かれた円が浮かび上がる。現れた五芒星がぐるぐると回転し、服が下から紺色の狩衣へと変わっていく。
「神ながら護り給い、幸え給え!!!」
五芒星の印が光り、手の中に鼠色の勾玉が現れた。
「六根清浄、急急如律令!!!」
ドッという大きな衝撃と共に、目の前の印が手元から離れる。印は突進してくる鼠に、勢いよく命中した。
『…ギャァァァァァォァァ!!!』
青白い光に包まれた青い目の化け鼠は、断末魔の様な叫び声を上げ、空中に霧散した。




