百六、笑う猫
「…どうします?」
比較的のどかな街の中、私たち陰陽師は仙太郎さんを探して若狭を訪れていた。
「どうもこうも無かろう。あやつの霊力の痕跡を探して追う。それだけのこと。」
2人1組となった面々に、優那さんがお手製の呪符を渡す。
「それを使えば、奴の霊力の残滓が青白く光って見える仕掛けなっておる。見つけたら、それぞれ形代を飛ばして連絡じゃ。よいな?」
ーーピシィッ!
「!?」
「???」
突然、何かにヒビが入ったような大きな音が辺りに鳴り響いた。電気を消した窓の無い部屋のように、空から太陽が姿を消し、真っ暗になる。
「な…何?」
気がつけば、さっきまでいたはずの車や人は消えていて、陰陽師の面々と優那さんの式神である才蔵さん以外、誰もいない状態になっていた。
警戒し、陰陽師の姿になった直後、空から艶のある女の声が聞こえた。
『ふふっ…。こんにちは、陰陽師の皆さん。』
「「「!!!」」」
『私はあすか。…あぁ、探しても姿は見えませんよ?私はもっと遠いところから話をしていますから。』
余裕のある不敵な笑い声を空に響かせ、あすかと名乗る女の声は話を続けた。
『私は恐らく、あなたたちが今探している物を、手元に置いている…。』
「その口ぶりやと、八乙女サンはあんたんトコにいるっちゅうことやな。わざわざ…ウチらまで誘き出しよって、何が目的や!!!」
勇ましくも、天の声に向かって紡さんがそう叫んだ。
『ふふっ…。そんな怖い顔しないで?お礼をしたくてあなたたちをここまで招待したのよ?』
「お礼…?」
『ふふっ。まぁ、身に覚えが無くても仕方ないわ。直接お礼がしたかったのは、あの子の母親と、あなたたちのご先祖様ってところかしらね。』
「まわりくどいの。はっきりと申せ。わらわたちは雑談に時を割いていられる程暇では無い。」
『せっかちね。まぁ、こう言ったら分かるかしら。』
数秒の間が空き、女の呼吸音が聞こえる。
『私たち《・・・》数百年前、あなたたちのご先祖様に封印された復讐がしたいの。』
ーードォオォォオン!!
女のその一言が聞こえた直後、私たちのかたまっていた場所の中央に、唐突に何かが落ちてきた。アスファルトが歪な円形に陥没し、大きな地響きが鳴り響く。
現れたのは、猫。美しい白髪を靡かせた、人型のやけに力の強い、猫。
全員が咄嗟にそれを避けた刹那、多くののメンバーが一瞬で私の視界から消え去った。猫の一撃で吹っ飛ばされたのだと気がついた時には、私と恭士さんだけが、その場に立っていた。




