◆第一話『変わりゆく日々』
お久しぶりです。
本作「五つの塔の頂へ」について後書きにて告知があります!
アッシュはむくりと半身を起こした。
わずかながら気だるさはあるものの心地よい目覚めだ。
「んぅ……もう食べられないよぅ……」
隣から聞こえてきた呻くような小声。
見れば同じベッドで1人の女性が寝ていた。
毛布の中から顔だけを出して穏やかな寝息をたてている。
愛嬌のある顔立ちは美人より可憐という言葉が似合う。
ただ当人が最近は背伸びをしているからか、それはなりをひそめている。
「クララはそのままでもいいんだけどな」
アッシュは女性──クララの頬に流れる一房の髪をすくって戻した。そのわずかな感触が伝わったのか、クララが重たそうにまぶたを持ちあげる。
「アッシュくん……おはよぅ……」
「ああ、おはよう」
目をこすりながらむにゃむにゃと口を動かすクララ。
ただ、その緩慢な動きは唐突に終わりを告げた。
「や、やだっ! あっち向いてて!」
クララが慌てて背を向けてきた。
乱れた肌着をなおし、手櫛で髪をときはじめる。
「……いまさらだろ」
「そういう問題じゃなくてっ! その、アッシュくんには……綺麗なとこしか見せたくないのっ」
「俺はべつに気にしないけどな」
「あたしがいやなのーっ」
「わかったわかった」
似たようなやりとりは何度もしている。
それでも繰り返してしまうのはクララの恥じらいを見るのが楽しいからだ。もちろん、こんなことを思っているのは秘密だ。
知られたら拗ねられること間違いなしだろう。
「──アッシュ、そろそろ時間だけど起きてる?」
扉が小突かれたのち、聞こえてきた。
ベッドから立ち上がって扉を開けにいく。
「おはよう、ラピス」
「おはよ」
迎えてくれたのは同居人のラピスだ。
すらりとした肢体に切れ長の目は昔から同じ。
ただ、一時期髪を短くしていたせいか、昔のように髪を結ってはいなかった。
またいつか長く伸ばすのかもしれないが、近年は肩にかかる程度で留めている。本人いわく、伸ばす必要がなくなったとのことだ。
「パン工房だよな。クララのほうはちょっと時間かかるかもだが、俺はすぐいけるぜ」
「……ん」
ラピスが無表情で頷いたのち、1歩近づいてきた。
こちらの胸元に一瞬顔を寄せたかと思うや、すぐに離れる。
「シャワーを浴びる時間はあるわ」
「べつに汗は──」
「そういう問題じゃないの」
先ほどクララからも同じようなセリフを言われたばかりだ。
「アイリスなら睨みながら同じことを言うと思うけど。ウルにいたってはきっと笑顔を作りながら余所余所しくなるでしょうね」
「……想像できるからやめてくれ」
アイリスとウルはミルマの仕事で朝早くから出ている。
そうでなければ、今頃きっとラピスの言うとおりになっていただろう。
なんとも度しがたい気分に陥っていると、ラピスの向こう側──キッチンのほうからルナが顔を覗かせてきた。
「アッシュ、素直に言うこと聞いておいたほうがいいよー」
エプロンを身につけ、野菜を手にした彼女の家庭的な姿にはいつも癒やされている。だが、もう片方の手に持たれた包丁がいまは妙に鋭く映って仕方なかった。
「ちなみに聞かなかった場合はどうなるか教えてもらっても?」
「戦闘中、後ろに気をつけてね?」
「……急いでいってくる」
もはや選択肢はない。
アッシュは潔く風呂場へと向かいはじめる。
最中、「懸命な判断ね」とラピスの声が聞こえてきた。
どうやらいつの間にかログハウスもダンジョン並みに……いや、それ以上に気の抜けない場所になっていたようだ。
前書きにてお伝えしたとおり告知です。
このたび「五つの塔の頂へ」がコミカライズされることとなりました!
8/12よりピッコマ様にて先行で連載開始となります。
詳細については活動報告でお伝えさせていただきます。
またそれに際して番外編【無垢なる魔術師】を書かせていただきました。
そう長くはありませんが、本日より毎日投稿していくのでお付き合いいただけたら幸いです…!





