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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【煌天の舞台】第一章
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◆第ニ話『決戦に向けて』

 ジュラル島と五つの塔が創られた理由に、そんな裏があるとは思いもしなかった。だが、なにかと人間の成長を促すような構造や仕組みが多かったこともあり、納得できた。ただ、反して納得できない部分も多々ある。


「そんだけ切羽詰まった状態なら、5人と言わずもっと多くの挑戦者に行かせるって手もあったろ」


 力のない者が戦闘に出向けば無駄死にするだけなのはわかる。ゆえに人数を絞ること自体に疑問はない。だが、5人はあまりにも少なすぎる。


 島にはヴァネッサやシビラ、ベイマンズを筆頭とした実力者が多くいる。本当に目的を達成したいのなら可能な限り向かわせるべきだ。そうした矛盾点を指摘されると踏んでいたのか、アイティエルからすぐさま答えが返ってくる。


「我の半身が隔離された場所へと入るには、その封印に穴を開けねばならない。当然、人数がより多ければ多いほど穴は広くなり、我の半身が封印を抜けてくる危険性が高まる」

「あんたが見極めたその限界が5人ってことか」


 そのとおりだ、とアイティエルは応じた。


 試練の間に入れるのがなぜ5人なのか。

 塔を昇りはじめてからずっと疑問に思っていたが、ようやく得心がいった。すべては負の力に染まったアイティエルの半身との戦いを想定したものだったのだ。


「でも、どうしてミルマの人たちがいかないの? あれだけ強いんだし……あたしたちよりも充分向いてるんじゃ」


 クララが疑問を口にした。


 たしかにミルマたちは相当な強さを持っている。異常なほどの回復手段も持っていたし、正直なところ彼女たちが本気になれば負ける未来が見えない。


「負の力に染まっているとはいえ、あれもまたアイティエル様ですから」

「主に刃を向けることはできないということだね」


 レオがそう纏めると、アイリスが目を伏せる形で頷いた。わずかに悔しそうな表情に見えるのは、きっと気のせいでないだろう。


 世界の崩壊を防いでいるアイティエルを助けたいのに、人間に頼らざるを得ない。その状況が、おそらく彼女の胸を苦しめていた原因だろう。


「挑戦は1度きりだ。撤退は許されない」


 アイティエルが淡々と告げてきた。

 仲間たちが息を呑む中、アッシュは確認せんと問いかける。


「俺たちを送ったあとはすぐに封印を閉じるってことか」

「冷酷だと罵りたいのなら好きにすればよい」

「いいや、あんたは世界のためを思ってやってんだからな」


 当然の判断だろう。

 そもそも世界が滅びればどうせ生きてはいられないのだ。文句を言いようがない。


「やってくれるか」

「塔を昇ってたら知らないうちに世界を救う一戦に身を投じることになってたとはな。さすがに驚いたが……元から神を倒すつもりでここまで来たんだ。頼まれなくても戦うぜ」


 正直、世界の運命を左右するなんて状況をわずらわしいとさえ思っているぐらいだ。仲間の顔を確認すると、全員が力強い首肯を返してきた。もとより仲間たちとは意志を統一している。いまさら引くことはない。


「お前は本当に変わらないな」


 アイティエルが楽しげに顔を綻ばせた。

 まるでずっと見てきたかのような口振りだ。


 実際にそうなのかもしれない。ジュラル島に来てからだろうか。いや、アイティエルは自身を唯一の神と言っていた。もしかすると、ずっと前からかもしれない。


「それで、いつ戦えるんだ?」

「およそ10日後といったところだ」

「結構長いな」

「この世界に、我の半身を封印した境界を近づける必要がある。なにぶん、繊細な封印術だ。慎重に事を運ばねばならない」


 おそらくこちらが思っている以上に大掛かりなのだろう。

 大きな戦いが迫ってきたことを実感しはじめたのか、クララがどんどんこわばりはじめていた。普段の怯え癖を出しながら、おそるおそる提案してくる。


「でも、次が最後の最後で一番強い相手なんだよね。だったらもっと装備を完璧に仕上げたほうが……」

「いますぐに世界が滅びるというものではない。だが、いまこうしている間にも我の半身は負の力を吸いつづけ、力を増している」

「早ければ早いほどいい、ということね」


 そう言ったのはラピスだ。

 すでに彼女は戦意が高まっているようで目に力がこもっていた。


「装備に関しては我から最高のものを用意する。おまえたちにしてもらうのは、せいぜい心の準備だけだ」


 ジュラル島の塔は、すべてがこのときのためにあったのだ。また塔を創ったのは眼前のアイティエルでもある。目的のために最高の環境を整えるのは当然のことと言える。


「では我はこれより準備に入る。アイリス」

「はい。……当日は各々が制覇した塔の頂まで来てください。我々、頂の守護者があなたがたを向こう側へとお連れします」


 言いながら、アイリスがずっと静観していたウルやシャオ、クゥリ、オルジェのそばに立った。応じて彼女たち全員が普段は見せないような真剣な顔を向けてくる。


 張りつめた空気の中、代表してアイリスが口を開いた。


「――それでは、10日後に」



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
(公式ページは↓の画像クリックでどうぞ)
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