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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【機巧戦線】第ニ章

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◆第十六話『ゼロ・マキーナ戦③』

 ゼロ・マキーナが両肩を前後させるようにして上半身を揺さぶり、背から伸びていた太い管をすべて外した。直後、もうもうとその体から紫色の瘴気が溢れはじめる。周囲に広がるような勢いではないが、敵の身を常に覆っている状態だ。


「アレハ、ドクダ! チカヅクナ、キケン!」

「っても全身から出てるぞッ!」


 敵は巨体とは思えない速度で右足を踏みだすと、すくい上げるような軌道で伸ばした右手をこちらに繰りだしてきた。上半身だけさらしていたときと段違いの速さだ。アッシュはとっさにヒュージを掴み、転がるようにして前へと逃げ延びる。


「くっ」


 あまりに際どい避け方だったこともあり、敵の手がまとっていた瘴気に触れてしまった。一瞬にして視界がかすみ、よろめいてしまう。回りが早いなんてものではない。


「アッシュくんっ」


 クララの声が聞こえたかと思うや、体が白い光に包まれた。解毒魔法の《ピュリファイ》をかけてくれたのだろう。おかげで視界だけでなく、体の自由も戻った。


 と、周囲の床に影が差した。見上げる暇もない。本能的にヒュージを押し飛ばしながら自身もまた転がると、大きく揺れた床に体が跳ね上げられた。すぐ後ろで敵の右拳が落とされたのだ。


 クララの《ピュリファイ》が少しでも遅ければ今頃あの拳の下で潰れていた。ただ、またもぎりぎりのところで回避したこともあり、瘴気による毒を受けてしまった。クララが再び《ピュリファイ》を飛ばしてくれる。


「助かった!」

「このままかけつづけるから安心して!」


 なんとも頼もしい発言だ。


 ただ、もっとも火力の高いクララが攻撃できないのはかなりの痛手だ。こちらも瘴気のせいで敵の攻撃にあわせてもう反撃ができなくなった。


 ラピスとレオも瘴気のせいで脚に近づけないでいる。離れたところから属性攻撃を放ってはいるが、やはり直接攻撃と比べると威力に乏しい。それにいまは敵が動き回ることもあって捉えにくいようだった。


 唯一、ルナだけが着実に攻撃を加えている。が、敵は大型だ。とてもひとりで削りきれる耐久力ではない。どうにかして全員で削れる方法を探さなければこのままジリ貧な状況が続くだけだ。


「本当に巨体とは思えない速度だなっ」


 アッシュはヒュージを連れたまま、いまも敵の両手から繰りだされる攻撃を躱していた。すでに目は慣れたが、体が反応に追いついてくれないため、相変わらず際どい回避を繰り返している。


 と、壁のあちこちから人間の頭大程度の穴が顔を出した。そこから先が尖った円筒形のものが飛びだしてくる。あれはオートマトンや、レオの《エンシェント0》にも搭載された攻撃機能――《ミサイル》だ。全員に最低でも2発は向かっている。


 回避行動をとっても、まるで背中に糸が繋がったように追いかけてくる。ヒュージを連れたまま逃げ切るのは難しい。そう思った矢先、こちらに向かってきていた3発の《ミサイル》が爆発した。


 ルナが矢で射抜いてくれたのだ。


 クララも自身で迎撃していたが、ラピスとレオだけはいまだ《ミサイル》に追いかけられている。《ミサイル》は急な方向転換ができないようで、わずかに膨らむ形で曲がっている。そのおかげもあっていまも捕まらずにいるが、徐々に距離は詰まっている。時間的な余裕はない。


 敵の手による攻撃を躱しながら、アッシュは首を振って打開策を探す。と、ちょうどラピスとレオ、敵の脚、《ミサイル》の3つが視界内に入り込んだ。瞬間、はっとなる。


「敵の脚に限界まで近付いて当ててやれ! クララ、2人に《ピュリファイ》を頼む!」


 すかさず意図を理解してくれたようだ。


 ラピスとレオが指示どおりに敵の脚に接近し、接触寸前のところで横へ飛んだ。先にラピスを追いかけていた《ミサイル》4発が敵の右足に、少し遅れてレオを追いかけていた《ミサイル》3発が敵の左足に激突。けたたましい音と黒煙をあげて爆発した。


 ラピスとレオは爆風に弾かれ、転がっていたが大きな怪我はないようだ。クララから《ピュリファイ》と《ヒール》がかけられる。最中、敵が呻き声をあげながら前のめりに崩れ落ちた。立っていられないほどに広間が揺れる。


「瘴気が消えてるっ!」


 ラピスが叫んだ。

 たしかに敵の体からもれていた紫色のもやがなくなっている。倒れた衝撃か、あるいは立っているときしか瘴気を出せないのか。いずれにせよ、この機を逃すわけにはいかない。


「いまのうちに削れるだけ削れ! ラピス、レオ! 俺たちは脚を削るぞ」


 アッシュはヒュージを一旦置いて、前衛組と合流。脚を攻撃しながらルナとともに頭部を攻撃するクララへと叫ぶ。


「クララ、頭に《メテオストライク》をかましてやれ!」

「え、でもいいの!?」


 おそらく大量の破片が辺りに飛び散ることを心配しているのだろう。


「敵の耐久力を考えれば使わない手はない! 俺たちのことは構うな!」

「わ、わかった! いきまーすっ」


 なかなか放つ機会がない最大威力の魔法とあってか、返事の声は弾んでいた。


 上空に現れた巨大な魔法陣から巨岩――《メテオストライク》が姿を現すと、そのまま周囲の空気を呑み込むようにして敵の頭部に落ちた。さらに続いてもう1発があとを追って激突。敵が倒れたときとほぼ同じぐらい床が激しく揺れた。


 また《メテオストライク》が四散した破片が大量に降りはじめる。前衛組は揃って敵の脚の下に転がり込んで身を隠し、やり過ごす。相変わらず周囲への被害が凄まじい魔法だ。ただ威力に見合った被害を敵に与えてくれていた。


 脳天から左目を削り取ったような形で敵の頭部が欠けていた。


 敵が両手を床について立ち上がりはじめる。脚を切断するまでいきたかったが、しかたない。アッシュは早めに後退し、ヒュージのそばに向かう。


 また周囲の壁から穴が顔を出していた。

 ラピスが敵の足下に駆けながら声を張り上げる。


「また《ミサイル》がくるっ!」

「これはもう一度当てるしかないね!」


 レオもまた敵の足下に向かいはじめる。

 先ほどのように《ミサイル》を脚に当てて敵を倒せれば、またクララの《メテオストライク》を当てられる。そうすれば今度こそ敵にトドメをさせるかもしれない。


 敵が胸を突き出すようにして咆哮をあげた。

 途端、アッシュはその場で片膝をついてしまう。


 攻撃を受けたわけではない。単純にいきなり全身がとてつもなく重くなったのだ。見れば、ルナやラピス、レオも同じように膝をついていた。クララにいたっては床にへばりついた格好だ。


「《グラビティ》かっ」


 これまでに何度も受けたことはあるが、1度の戦闘でかけられるのはひとりかふたりのみ。全員が同時に受けるのは初めてだった。


 周囲の壁から多くの《ミサイル》が発射された。

 全員にもれなく2発以上が向かっている。


 最悪のタイミングだ。

 なんとか属性攻撃を放って迎撃せんとするが、立ち上がることすらできない。クララが使える《グラビティ》よりさらに強力な効果だ。


 このままでは《ミサイル》をまともに受けてしまう。アッシュは諦めずに《ミサイル》の先端を見据え続けていた、そのとき。


「エネルギー、サイダイ、ジュウテン。サポートモードニ、カンゼンイコウ、シマス」


 突然、バゾッドの声が聞こえてきた。かと思うや、体の輪郭をなぞるように白光が現れた。得物もまた眩い白光をまといはじめる。


 白光の影響なのか、いままで感じていた《グラビティ》の効果が完全に失われた。アッシュは弾かれるようにして立ち上がり、虚空を斬るようにして獲物を振るう。と、普段よりもさらに巨大な属性攻撃が放たれた。


 それは向かってきていた先頭の《ミサイル》に振れると、巻き込む形で後続の2発も爆発させた。風とともに黒煙が押し寄せ、視界が奪われる。


 やがて晴れた黒煙の中からバゾッドが姿を現した。

 目を明滅させながらいつもの淡々とした声を発する。


「マタセタ」



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
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