◆第二話『バゾッドノネガイ』
変に高い音だったこともあり、聞き取りにくくはあった。
だが、オートマトンから出されたそれは、たしかに人の言葉だった。
「しゃ、しゃべったぁっ」
「……これは驚いたな」
アッシュは思わず目を瞬いてしまう。
クララにいたってはその場に尻をついている。
そんな彼女の反応を見てか、ルナたちもこちらの床に飛び移ってきた。
「どうしたの?」
「人形が喋ったんだよっ!」
クララが振り向いてそう説明する。
ルナとラピスが顔を見合わせたのち、怪訝な表情を見せた。
本当だよっ、と必死に訴えるクララへと、レオが爽やかな笑みで応じる。
「あはは。なにを言ってるんだい、クララくん。そんなことあるわけが――」
「バゾッド、ニンゲンノ、コトバ、リカイ、デキル」
「た、たしかに喋ってるね……」
信じられないとばかりにレオが目を見開いた。
ルナとラピスも同様に驚いている。
クララが「ほらー!」と勝ち誇った顔を見せる中、アッシュはひとりバゾットと名乗ったオートマトンの前に立った。屈み込んで視線を合わせる。
「お前、そんな体でずっとここにいたのか?」
「バゾッド、マダ、キエタクナイ。ヤルベキコト、アル」
「やるべきこと?」
「ゼロ・マキーナ、タオスコト」
聞いたことのない名前だ。
塔のどこかにいる魔物だろうか。
そう疑問に思っていたところ、バゾッドが説明を始めた。
「ゼロ・マキーナ、オートマトン、ツクッタ。イダイナ、ソウゾウシャ。デモ、バゾッド、ココロ、アル。シッパイサク、ステラレタ」
話し方が独特で理解するのに少し時間がかかる。
ルナがバゾッドの言葉を整理して確認する。
「えーと、オートマトンを造ってる〝ゼロ・マキーナ〟が、バゾッドのことを心があるから失敗作として捨てたってことで合ってるかな?」
「セイネン。セイカイ」
バゾッドが〝青年〟と口にした、瞬間。
ルナが無表情なまま静かに弓を構えた。
「ねえ、アッシュ。トドメ刺してもいいかな?」
「待て待て。なんか面白そうだから最後まで聴いてみようぜ」
ルナは渋々と弓を下ろしてくれたが、少しふてくされているようだった。俯いて自身の胸をさすりながら、「やっぱり胸なのかな」ぼそりと一言。普段はほとんど気にしていないように見えたが、どうやら胸中では気にしていたようだ。
「バゾッド、ジユウノタメ、ゼロ・マキーナ、タオシタイ。デモ、ウゴケナイ。エネルギーコア、ホシイ。ジョウホウ、リリーナ、モッテル」
「あなたが動くために必要なエネルギーコアっていうものがあって、それの入手方法をリリーナって人が知ってるってことでいいのかな?」
今度はクララが翻訳してみせた。
ぎぎぎ、とバゾッドが音を鳴らしながら首を回し、クララのほうを見る。
「コドモ、セイカイ」
「ルナさん、わたしも協力するよ」
クララもまた攻撃しようとしたので早々に腕を掴まえて制止しておいた。クララが「放してアッシュくんっ! これは大事なことなんだよっ」と叫びながら暴れる中、ラピスが構わずにバゾッドに問いかける。
「それで、そのリリーナって人はどこにいるの?」
「リリーナ、ミルマ。チュウオウ、ヒロバ、イル」
どうやらリリーナはミルマらしい。
ただ、記憶の中に該当する者はいなかった。
アッシュはクララを押さえながら振り返る。
「そんな名前のミルマいたか?」
「僕は聞いたことがないね」
「レオが知らないってなると、あまり目立たないとこにいるミルマかもな」
ミルマも相当な数がジュラル島で暮らしている。
古参のレオでもさすがに全員を把握してはいないようだ。
「とりあえず、そのエネルギーコアがあればバゾッドはゼロ・マキーナって奴に戦いを挑めるんだな」
「デモ、フアン。バゾッド、ツヨクナイ。ゼロ・マキーナ、10トウキュウ、オオガタレア。トテモ、ツヨイ」
まさかの相手は大型レア種だという。
その姿を見たことがないのでわからないが……。
とてもバゾッドでは勝てそうな気がしない。
壊れかけた姿とあってなおさらそう感じる。
ただ、それはバゾッド自身がよくわかっているようだった。
「ダカラ、オナジ、ココロアル、ナカマ、ヨブ」
「同じように心があって捨てられたオートマトンがいるのか」
「アカ、アオ、ミドリ。96、イル」
ふいにオートマトンの目と思しき光が明滅しはじめた。
「ニンゲンタチ、タスケテ、クレ? チガウ。タノム? タノミタイ? オ、オネガイ、シマス?」
バゾッドは壊れて動けない状態だ。
つまり彼の願望はこちらが叶えるしかない。
棒読みなうえに人の声とはかけ離れているため、言葉自体は冷たく感じる。だが、懇願するバゾッドの切実な想いのようなものはひしひしと感じられた。
と、返答する間もなく、左手の甲に紋様が浮かび上がった。球を包み込む燃え盛る炎といった形状だ。炎は球の左右と上部に分かれている。
紋様は最後にかすかな光を放つと、すぅと色をなくして消えていった。
「左手の甲ってクエストのときと同じだな」
「これもクエストだったりするのかしら」
ラピスが左手の甲を掲げながら言った。
途端、クララが暴れるのをやめ、目を輝かせる。
「なにかレアなものをもらえるかも!」
クララの現金さは間違いなくジュラル島一だろう。
ただ、ほかの仲間たちも同じ考えを抱いていたようだ。
「10等級の、しかもこんな隠されたクエストみたいなものってなると、かなりいいものがもらえそうだね。でも大型か……」
「危険度が高そうだね」
レオに続いて、ルナがそう見解を述べる。
判断を任せるとばかりに仲間の視線がこちらに集まった。
ラピスが首を傾げながら訊いてくる。
「どうするの、アッシュ」
「決まってるだろ」
10等級の強敵を相手に塔を昇りつづける日々も悪くはない。ただ、敵の顔ぶれが固定化してきたこともあり、さらなる刺激が欲しいと感じていたところだ。
10等級の大型レア種。
ゼロ・マキーナ。
話から察するにバゾッドたちと協力して戦うことになると思われるが、それでもおそらく簡単な相手ではないだろう。だが、だからといって挑戦しない理由はなかった。
――塔の魔物に負けるようなら、きっと神には勝てない。
アッシュは剣の柄を強く握りしめながら、にっと笑う。
「神と戦う前に、いっちょ肩慣らしといくか!」





