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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【英雄の血】第二章

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◆第十四話『王の参戦』

「アッシュッ!」


 宙空を舞う中、後方からラピスの悲鳴じみた声が聞こえてくる。


 仲間たちはいまも大量の天使を相手にしている。

 さらに魔術師型の攻撃まで加われば壊滅しかねない。

 盾型をとおしてしまった以上、せめて魔術師型だけはここで食い止めたい。


「あいつらは俺がやる……ッ!」


 そう狙いを定めた瞬間、鋭い軌道で3本の矢が飛んできた。これまでのものとは明らかに違う。見れば、魔術師型のわずか後方まで弓型部隊が距離を詰めてきていた。


 アッシュは空中で体をひねり、向かってきた矢を短剣で素早く迎撃する。最中、風切り音を鳴らして7本の矢がすぐそばとおり抜けていった。向かう先は、ほかの仲間たちの頭上だ。


「矢が7本抜けたッ! 気をつけろッ!」


 注意をするだけであとは仲間に任せるしかなかった。


 いま、自分にできることは魔術師型に加え、弓型の注意を引きつけることだ。ただ、それよりも先に直下から襲いくる槍型をどうにかしなければならない。


 見下ろした先、槍型が背の翼を使って迫ってきていた。突き出された槍は4本。このままでは串刺しになってしまう。


 即座に両手の短剣を振り、属性攻撃で直下を牽制。2体の体勢を崩したのち、残り2体が突き出してくる槍へと短剣を当てながら身をすべらせ、槍型たちの中をくぐり抜けた。


 着地と同時に転がって衝撃を殺し、すぐさま立ち上がって魔術師型、弓型部隊のほうへと駆ける。と、眼前の地面に亀裂が入り、光が漏れだした。接近させまいと魔術師型が《アースクエイク》を放ってきたのだ。


 アッシュはそのまま速度を落とさずに疾駆。地面の隆起に身を任せ、衝撃をいなして飛び上がった。待っていたかのように幾本もの矢が向かってくる。


 多くは弾き落とせたが、2本を逃した。

 肩、太腿を矢がかすめていく。肌を削られ、血が飛び散るが大した傷ではない。


 そうして大量の矢が飛んでくる中、魔術師型の間近まで一気に距離を詰めて着地する。


 正面の魔術師が《ライトニングバースト》を放ってきたので即座に《光の笠》を放って迎撃。燐光が飛び散る中を駆け抜けて敵に肉薄し、スティレットで抜き差しして1体を沈めた。やはり槍型に比べれば遥かに脆い。


 残りの魔術師型が慌てたように《ライトニングバースト》で応戦してくるが、動きが遅い。アッシュは駆け抜けざまに1体、また1体と続けて魔術師型の数を減らしていく。


 そうして5体目を沈めたところで鋭い刃が横合いから迫ってきていた。先ほどまで相手をしていた4体の槍型だ。どうやら追いつかれてしまったらしい。


 アッシュは身をよじって回避し、一旦飛び退いた。が、逃がさないとばかりに槍型たちが執拗な攻撃をしかけてくる。


 いまのうちに厄介な魔術師型、弓型の数を減らしておきたいが、槍型が邪魔で近づけない。いまも眼前に迫る穂先を躱しながら魔術師型を睨む。と、その魔術師型の頭部が矢によって吹き飛び、その場に倒れた。


「遅くなってごめん!」


 ルナの声だ。

 彼女の矢によって残りの魔術師たちも次々に倒れていく。


「僕らもいるよ!」


 レオが槍型を突き飛ばす格好で視界に飛び込んできた。とっさのことに驚きつつも、アッシュは即座に気持ちを切り替えて1体を処理。残った槍型をレオとともに流れるような連携で沈めた。


 弓型部隊にはラピスが接近していた。《ティターニア》シリーズが持つ俊敏性大幅向上の恩恵を十二分に活かした動きで矢を回避。豪快に槍を振り回しながら蹂躙していた。


 ありがたい加勢だったが、彼らも多くの天使を相手にしていたはずだ。アッシュは視界に映っていない味方を求めて振り返る。


「クララはっ!?」

「いま、倒し終えたよっ」


 ちょうど《テレポート》で再出現したクララが《フレイムバースト》で残った盾型を消滅させるところだった。すごいでしょ、とばかりにクララが得意げな顔を向けてくる。


 仲間たちなら倒されることはないと思っていたが、まさか逆に倒し切ってしまうとは思わなかった。9等級階層に初めて挑んだ頃からは考えられない成果だ。


 間違いなく全員が成長している。

 その事実を噛みしめた、瞬間。


 クララがいきなり顔を歪ませた。

 いったいどうしたのか。


 そう思った瞬間、アッシュはぞくりとした悪寒に見舞われた。弾かれるように振り返ると、すぐそばにマントをなびかせた王の天使が立っていた。いままさに肉薄したところなのか、強烈な風が顔を叩いてくる。


 先ほどまで遥か先で待機していたはずだ。

 黒の塔産の魔法である《テレポート》を使ったとは考えにくい。まさか自力で距離を詰めたというのか。だとすればとてつもない移動速度だ。


 そんなことを考えつつ、アッシュは半ば無意識にソードブレイカーを胸前で構えていた。さらにその腹にスティレットの柄をそえる。


 すでに王が繰り出した突きが回避不能な域まで達していた。


 激突まで瞬きする間もなかった。

 気づいたときには弾き飛ばされ、地面の上を転がっていた。後衛組のそばを抜けたところでようやく勢いが止まる。


 腕が多少しびれているが、受け切った。ただ、地面を転がった際に身体のあちこちを打ったり擦りむいたせいか鈍痛や疼痛がひどい。頭もくらくらする。すぐに立ち上がれそうにない。


「アッシュくんっ! このぉっ」


 うつ伏せのまま顔を上げたところ、クララが敵へと《インフェルノ》を当てていた。


 炎が轟々と音をたてて荒れ狂いはじめる。だが、敵は怯むことなく大剣を薙ぎ払うように振り、自身にまとまりついた火炎を消滅させた。


「うそぉ……っ」


 信じられないと驚愕するクララ。


 敵の体はあちこちが黒ずんでいる。

 効いていないわけではないだろう。

 ただ、効いていないとばかりに泰然としている。


 クララが動揺する中、接近したレオが剣で突きを繰り出していた。が、敵の大剣によって外側へと弾かれ、盾ごと突き飛ばされてしまう。


 その間に横合いからラピスも突きを放っていた。

 ほぼ同時にルナの放った矢も敵の頭部へと向かっている。絶妙なタイミングだ。


 しかし、敵がたった一度の振りでラピスの突きだけでなくルナの矢も迎撃してみせた。攻撃直後の硬直を狙われ、ラピスが遠くへと弾き飛ばされる。


「ラピス!」

「ラピスさんっ」


 ルナが矢を、クララが《インフェルノ》を放って応戦するが、たやすく薙ぎ払われた。お返しとばかりに敵が大剣を豪快に薙ぎ、巨大な緑の斬撃を放つ。回避できる規模ではとうていなく、まともに受けたルナが吹き飛ばされたのちに倒れた。


 クララだけはテレポートで回避できたが、予測していたとばかりに敵が接近していた。大剣とは思えないひどくなめらかな動きで大剣が振り下ろされる――。


「おおおぉっ!」


 直前、雄叫びとともに現れたレオが割り込み、盾で受け止めた。その場で押し潰されそうになりながらも、敵の腹目掛けて真横からの一撃を繰り出す。が、すぐさま敵が引き戻した大剣によってあっさりと剣を弾き飛ばされてしまった。


 敵が引き絞った大剣を突き出し、レオもろとも後ろにいたクララを押し飛ばす。


 とても人間が飛んでいるとは思えない距離を飛んだのち、2人は痛々しく地面を転がる。装備の重さもあってレオの勢いが先に止まり、数拍遅れてクララの勢いも止まった。


「レオッ! クララッ!」


 気を失ってしまったのか、2人とも転がったまま動かない。離れたところで倒れたラピスとルナもいまだ起き上がる気配がない。


 一瞬にして壊滅状態に追いやられてしまった。

 しかも、おそらく敵はまだ狂騒状態にすら入っていない。


 圧倒的に実力不足だ。

 しかし、やり直せる機会はあるのか。


 撤退の方法がわからないのだ。

 そもそも撤退できるかすら不明だった。


 敵はその王者の風貌が真実であるかのように、ゆったりとした歩みでもっとも近いレオのもとへと向かっていた。その手に持った大剣でおそらくトドメを刺すつもりだろう。


 そしてレオを倒したあとはクララ、ラピス。ルナ。

 このままでは全滅は必至だ。


 アッシュは下唇を強く噛む。

 視界には転がった長剣が映っている。

 先ほど王によって弾き飛ばされたレオの長剣だ。


 あれを使って状況を変える術はある。

 この身に宿る、忌まわしき血統技術。


 ――ラストブレイブ。


 だが、あれを使えば望んだ未来は待っていない。

 敵を倒したあと、いまにも消え入りそうな味方の命をも刈り取ってしまうだろう。


 ただ、いまは昔にはなかった選択肢がある。


 アッシュは両腕を胸側に引き寄せるようにして上半身を起こした。次は両膝を立て、ゆっくりと立ち上がる。まだ痛みは残っているが、動ける。


 両手に武器はなかった。吹き飛ばされた際に放してしまったようでそこらに散らばって落ちている。だが、もう拾う必要はない。


 左腕にはめた《アイティエルの鎖》を右手でぐっと握りながら、深呼吸をする。


 やれるかわからない。

 だが、いまはやるしかない。

 やらなければ仲間が殺される。


 アッシュは頭から痛みを切り離し、駆け出した。



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もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
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