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五つの塔の頂へ  作者: 夜々里 春
【妖精大祭】第一章

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◆第九話『白の80階』

 ほかに7等級階層で居場所を掴んだレア種は3体いたが、すでに狩られてしまっていた。そのため、急遽予定を変更してその日は8等級階層に上がり、以前に討伐した双頭の竜アンフィスバエナを討伐。


 翌日には黒の80階を攻略。

 そして本日――。


 白の80階の主に挑んでいた。


「ちぃっ、すばしっこい……!」


 アッシュは舌打ちをしながら、眼前を横切ったそれを目で追う。


 視界の中、人間よりもわずかに大きい程度の小型飛竜が2体飛び交っていた。どちらも真っ白な鱗を持ち、げっそりと骨ばった体つきをしている。


 威圧感こそないが、飛竜たちは細身の外見相応におそろしく素早かった。そのうえ、まるで斬撃のような風を周囲に飛ばし、さらには口から細い光線を吐き散らしている。


 肉迫はもちろん近接攻撃を当てることすら難しい状況だ。仮に8等級装備で挑んだ場合、どれほど苦戦しただろうかと考えてしまう。


 ルナが放った黒い矢が1体の飛竜の鱗へと命中した。

 浅く突き刺さったそれからは黒い靄が溢れ、飛竜の体を渦巻くように包み込みはじめる。それを機に飛竜の速度ががくんと落ちた。


 9等級黒弓の特殊攻撃だ。


 ミルマから得た情報だが、9等級階層で入手可能な《グラビティ》と呼ばれる魔石の効果と同じく、対象の敏捷性低下を一瞬だけ付与できるという。浮遊した対象にも効くうえ効果が全身に及ぶため、まさに《ゴーストハンド》の強化版だ。


 速度低下を受けた飛竜へと、アッシュは即座にスティレットで《光の笠》を放つ。わずかに胴体からずれ、命中した先は左翼。だが、ぐらつかせることには成功した。


 そばにいたラピスがいち早く接近。槍を敵の腹に突き刺し、力任せに床へと叩きつけた。悲鳴をあげた飛竜の首へと遅れて駆けつけたレオが剣を斬りつけ、飛ばす。


 ばたりと翼を床につけ、飛竜が動かなくなった。その体は薄れていき、ついには燐光と化していく。


 もう1体の飛竜が高く舞い上がり、悼むような鳴き声をあげはじめる。そこへ先ほど倒れた飛竜が残した燐光が集まり、まとわりついた。燐光は消えることなく、しゃらんしゃらんと鈴のような音を鳴らし続けている。


 その神々しさに見惚れそうになった、そのとき。


 飛竜へと巨大な火球が衝突した。

 クララによって放たれた《フレイムバースト》だ。けたたましい爆発音が響いたのち、巻き上がった煙が晴れていく。


 直撃とあってか、飛竜の身は少なくない損傷を受けていた。だが、まとわりついた燐光がしゃらんと音を鳴らしたのにあわせ、すべての傷がみるみるうちに消えてなくなった。


「えぇっ、一瞬で回復したっ」


 燐光が治癒効果をもたらしたのは明らかだ。

 おそらく回復のタイミングは鈴の音が鳴ったとき。

 ただ、その間隔は3拍程度とかなり短い。


 つまり回復する間を与えずに一気に沈める必要がある。


 ルナが淡々と次なる矢を放っていた。だが、その矢は当たることなく、虚空を貫いていく。敵がひるがえるようにして後方へと退いたのだ。さらに勢いを止めることなく、敵は地面へと頭部から体当たりをかました。


 なにを考えているのか。


 そう思ったのも束の間、敵が体当たりをかました床から横一線に白光が迸り、壁となってせり上がった。それは試練の間を縦横もれなく覆うと、こちら側へと迫ってくる。


 どう見ても回避の選択肢はない。

 アッシュはすぐさまクララのほうへと駆けながら叫ぶ。


「ラピスはルナと合流して障壁を! クララは俺のほうへ!」


 時間的な余裕はない。

 すでに自身で属性障壁を展開したレオは光の壁に呑み込まれていた。光の壁によって遮られ、彼がどうなったかはまったく見えない。


「アッシュくんっ」


 クララと合流するなり、アッシュは素早く体の向きを変えつつ、床をスティレットで削った。黒の属性障壁が現れたのとほぼ同時、光の壁と接触する。


 金属を強くこすりつけたような不快音に見舞われ、クララと揃って顔を歪める。さらに属性障壁を抜けて襲ってきた風に体中を刻まれ、血が飛び散った。意識を失うほどではないが、無視できるほどの傷でないことはたしかだ。


 一瞬でありながら長く感じた時間は終わり、視界に色が戻った。どうやらほかの仲間もなんとか属性障壁でやり過ごせたようだ。ただ、大量の切り傷のせいで表情に余裕はない。


 クララがすぐさま《サンクチュアリ》を展開し、全員の回復につとめる中、轟音が耳をついてきた。


 最前線に立つレオが構えた盾へと敵が体当たりをかましていた。9等級防具のおかげか、レオはわずかに後退しただけで体勢を崩さずになんとか堪えている。だが、伴って襲ってきた鋭い風のせいか、露出した肌に幾つもの傷をつけられていた。


 レオが剣を振って応戦しようとするが、敵はあざ笑うかのように後退。再び最奥の壁付近で床に体当たりをかまし、光の壁を放ってきた。さらにそれをやり過ごしたかと思えば、またレオへと突撃し、後退と忙しない動きを繰り返しはじめる。


 生半可な攻撃では仕留めきれずに回復されてしまう。加えてあの体当たりを食らう可能性を考えれば下手に飛び出すことすら難しい状況だった。本当に8等級の装備では難しい相手だったろう。


 アッシュは左方で固まっているルナとラピスのほうへと声を張り上げる。


「ルナ、いけるか!?」

「たぶん、大丈夫だと思う! ……ラピス、広めにとってくれる?」

「了解っ」


 何度目かの光の壁が襲いくる中、ラピスがこれまでより大きめに属性障壁を生成した。その背後でルナが弓を構える中、またも全員が光の壁に呑みこまれる。


 これまでどおり光の壁をなんとかやり過ごしてから間もなく、敵がまたもレオへと一直線に向かっていた。その盾へと激突する、直前。ルナが矢を放ち、敵の右目を射抜いた。


 呻いた敵は勢いを殺しきれず不恰好なままレオの盾に激突する。すぐさまはばたいて後退しようとするが、《グラビティ》の効果もあって機を逸していた。


 その隙にレオが剣を突き出し、翼角を斬りつける。ゆらゆらと力なく飛行する敵だが、鈴の音を鳴らした燐光によって目に刺さっていた矢も抜け落ち、翼角の傷も塞がった。相変わらずありえないほどの回復力だ。


 生気を取り戻した敵が早々に離脱せんと翼をはばたかせるが、再び命中したルナの矢によって阻害されていた。


 その一瞬でなんとか間に合った。


 アッシュは敵へと接近し、跳躍。上方から背中へとスティレットを突き刺し、着地とともに床へと押しつけた。敵が放せとばかりに暴れ、口から光線を吐き出し続ける。


 レオもまた剣を突き刺し、その口を閉じさせる。鈴の音が鳴り、またも敵は回復するが、剣は突き刺さったまま。アッシュはレオとなんとかその場に留まり、敵を固定しつづける。と、視界の端で閃光が迸った。


 ラピスの限界突破だ。


 アッシュはレオとともに限界まで残ったのち、離脱する。直後、ラピスの雷光のごとく一撃が敵へと命中し、胴体を穿った。竜にしては小さなその体では衝撃に耐え切れなかったか、槍の刺さった箇所から膨張するようにして破裂し、肉片が飛び散った。


 なんともえげつない光景だったが、早々にそれらは空気に溶けるように消滅した。


 ラピスが《限界突破》を撃った反動で倒れかけていた。アッシュは素早く得物を収めながら彼女のそばへと駆け寄り、その体を支える。


「おつかれ」

「……ありがとう」


 彼女はふぅと息をつきながら、その前に垂れた一房の髪をかきあげた。

 がちゃがちゃと騒がしい音をたてながら、レオが歩み寄ってくる。


「いや~、1発でいけたのはなかなか嬉しいね」

「ああ。強いっていうか、面倒な敵だったな」

「もっと長引いてたら目が回ってたかも」


 レオがおどけるように肩をすくめる中、ルナが弓を軽く持ち上げながら苦笑する。


「9等級の武器が強すぎたね」

「それは間違いないな」


 そもそも《グラビティ》の効果がなければ捕捉すら困難だった敵だ。ほかの攻略法を思いつかない現状、突破はまずできなかっただろう。


「とりあえずこれで80階はすべて突破できたな。……クララ、どうだ?」

「う~ん……属性石が4個だけかも。せめて交換石があればなぁ」


 属性石も相場は5000ジュリーから6000ジュリーと決して安くはない。だが、何十万ジュリーもする交換石と比べれば、やはり見劣りしてしまう。とはいえ、高確率で良戦利品を落とすレア種や狩れる主はもういない。


「あとは9等級階層で天使を狩って地道に貯めるしかなさそうね」

「だな」


 ラピスにそう相槌を打ちつつ、アッシュは出口のほうへと歩きだした。



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書籍版『五つの塔の頂へ』は10月10日に発売です。
もちろん書き下ろしありで随所に補足説明も追加。自信を持ってお届けできる本となりました。
WEB版ともどもどうぞよろしくお願いします!
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