◆第七話『討伐会議』
2日後。
アルビオンのギルド本部にて。
アッシュは大型レア種討伐を目的とした会議を開いていた。
声をかけたのは当初の予定どおり3大ギルドとファミーユ。各ギルドから代表者2名ずつに来てもらっている。
ソレイユからはヴァネッサとオルヴィ。
レッドファングからはベイマンズとロウ。
ファミーユからはレオとウィグナー。
と、ここまでは予定どおりの参加者だったのだが……。
アルビオンのマスターであるシビラの隣。
そこに座っていたのはリトリィではなく、キノッツだった。
こちらが見ていることに気づいたか、キノッツがしたり顔を向けてくる。
アルビオンに入っていたこともそうだが、代表者に選ばれるほどギルド内での発言力が高いことも驚きだ。昨日の別れ際、再会を示唆していたが、まさかこの場だとは思いもしなかった。
アッシュは気持ちを入れ替えたのち、参加者全員の顔を見回しながら言う。
「にしても、まさか声をかけた全ギルドが参加してくれるとは思わなかったぜ」
「こんな面白そうな話、乗るしかねぇだろ。まあ、ひとつ気がかりなのは余分なギルドが混ざってるってことだな」
「なんだい、自分たちのことを言っているのかい。面白い奴だねえ」
ベイマンズとヴァネッサが早速火花を散らしていた。
ひとまず殴り合いの喧嘩に発展する様子はないので放置だ。
「我らアルビオンはアッシュたちに大きな借りがあるからな。いまはもう以前ほどの戦力はないが、協力は惜しまないつもりだ」
「ファミーユのみんなも、アッシュくんの頼みなら喜んで参加するってさ」
シビラに続いてレオが言う。
島を訪れてから約1年。
色んな事件に関わってきたが、自分が思っていた以上に得られた人との繋がりは大きかったのだと改めて思い知った。
アッシュは人知れず微笑をこぼしたのち、話を進める。
「今回の討伐対象は事前に話したとおり妖精郷の奥にいるであろう大型レア種だ。その姿を確認した挑戦者はまだいないが、リッチキングの城と似た魔物の歓迎ぶりからしてまず間違いなくいると思ってる」
ロウが首肯し、ベイマンズと目を合わせる。
「わたしも間違いなく存在すると思っている。だからこそギルドを動かしたのだからな」
「結果は散々だったけどな。結構進んだが、妖精とユニコーンの群れに追い返された」
「知ってのとおり我々アルビオンもあえなく撤退したが、あの激しさからして存在するのは間違いないと思う」
続いて同意するシビラ。
この場に来てくれた時点でわかっていたことだが、妖精郷の大型レア種の存在を全員が確信しているようだった。
「レッドファングとアルビオンが追い返されるってのは相当だが、さすがに今回は規模的にも突破できるだろう。……ひとまず各ギルドの参加人数を教えてほしい」
「ソレイユからは12人の予定だ」
「アルビオンは10人だ」
「レッドファングからは16人が参加するぜ」
「ファミーユからはレオさんを除いて9人です」
「ってことは俺たちのチームは5人で計算だな」
参加人数の申告が終わり、オルヴィがぼそりと言う。
「52人……結構な数ですね」
「ああ、戦力的には充分すぎるな。ただ、相手は大型レア種だ。予想外の攻撃をしかけてくる可能性もある。たとえば全員を行動不能状態にするような魔法、とかな」
言って、アッシュはヴァネッサと顔を見合わせた。
リッチキング戦の際に受けた、超広範囲に渡って放たれた昏睡魔法。あのような攻撃がくれば壊滅する可能性がある。
「ま、これに関しては考えがある」
「幾つかの部隊を待機させるのか」
そう口にしたのはロウだ。
彼もまた同じ答えに行きついていたらしい。
「ああ。標的となる可能性を完全に排除するために緊急時以外はいっさいの手出しを禁止。そして最悪の状況を想定して魔法だけでなく道具も含め準備をしてもらうつもりだ」
「異論はない。わたしも同じ考えだ。ただ……」
ロウが悩ましげに視線をそらした。
その先ではベイマンズが難しい顔をしている。
「敵を前に見てろってのか? たぶんうちの奴らには無理だぜ」
「堪え性のない奴らだねぇ。そんなんじゃ女にモテないよ」
「本当に野蛮です。これだから男は――あっ、アッシュさんは違いますからねっ」
煽り気味に苦言を呈するソレイユ組。オルヴィはついでに求愛染みた顔を向けてきたが、いまは会議中だ。ひとまず目をそらしておいた。
「とりあえず、その部隊の規模は3チーム……15人を検討してる。レッドファングは抜くとして、各ギルドから5人ずつ選抜しておいてくれ」
「メインの盾はそこの変態がするんだろう? だったらうちのドーリエを待機部隊に回したほうがよさそうだね」
「そうしてくれると助かる」
もしレオが戦闘不能となったとき、ドーリエ以上の適任者はいない。
ただ、これまで島で最強の盾と言われてきた彼女だ。レオの代わりともとれるようなことを言いにくかったため、ヴァネッサから進言してもらえたのは助かった。
待機部隊について決まったのち、シビラが質問してくる。
「まだ戦ったことのない相手だ。やはり攻撃パターンの把握のため、何度か撤退も想定しているのだろう?」
「できれば1発で倒したいところだけどな。その選択も一応は考えてる」
敵の攻撃に都度対応できればいいが、参加者の規模が規模だ。各ギルド間の連携が上手くとれない可能性も考慮すれば撤退も選択に入れるべきだろう。
そうして会議の場が戦闘方面に向きはじめたときだった。
「これだけの戦力だし、道中は問題なく突破できる。大型との戦闘手段については戦ってから決める。となるともうほかに決めることはひとつだよね」
異質な空気をぶち込んだのはキノッツだ。
彼女は全員から注目される中、にやりと口の端を吊り上げる。
「倒したあとのこと……大型レア種から出た戦利品をどうするか」
レア品を求めているのはどこも同じのようだ。
少しだけ場の空気が変わった中、アッシュは淡々と答える。
「それに関してはオークションにするつもりだ」
「でも、そうなると複数のレア品が出た場合、ジュリーを持っているところがすべてを落札してしまうんじゃないかい? だとしたらせっかく危険を冒してまで倒したのに揉め事になっちゃうかもね」
戦闘のことばかり考えていたため、その点にはあまり頭が回っていなかった。
「ってことで落札できるレア品は、各勢力ごとにひとつだけって形にすればいいんじゃないかな。そうすれば揉めることはないだろ」
「あんたが言うなんて意外だね、キノッツ」
ヴァネッサが挑戦的な笑みを浮かべながら言った。
女性挑戦者とあってか、どうやら彼女たちは知り合いのようだ。
「ノンはなしでもいいんだけどね。ただ、参加する以上、揉め事はいやだからねー」
委託販売所に入り浸っていることからも大量のジュリーを持っていることは予想できたが、もしかするとその額はこちらが思っている以上なのかもしれない。それほどまでにキノッツからは余裕を感じた。
「キノッツの意見に異論があれば言ってくれ。なければそのまま採用する」
「レオ・グラントの立ち位置が不明瞭だ」
即座に声をあげたのはロウだった。
彼はレオを見ながら淡々と問題を述べはじめる。
「彼はアッシュチームのメンバーであり、ファミーユのマスターでもある。現状、複数のレア品を落札できる可能性が生じている」
「それに関しては、今回はアッシュくんのチームとして考えてくれるかい?」
レオの言葉に頷いたのち、ロウが次なる問題を指摘する。
「ではファミーユを利用しての、代理入札の可能性についてはどう説明する?」
「それなら大丈夫です。わたしたちファミーユはもとより入札しない予定なので」
ウィグナーが挙手し、指摘された問題を早々に潰した。
レオも聞かされていなかったのか、目を瞬いている。
「いいのかい? ウィグナー」
「はい。レオさんの力になれればと思って参加してますから。そもそもわたしたちが落札してもきっと持て余すと思いますし」
そんな軽口とともにウィグナーから向けられた微笑に、レオが感極まったように目を潤ませていた。本当にその名のとおり家族のように温かいギルドだ。
アッシュは「ありがとう」と小声で礼を述べたのち、気持ちを司会へと戻した。先の問題を挙げたロウから首肯が返ってくる。
「そういうことなら問題はない。わたしからは以上だ」
「ほかに意見はないか?」
独占によって生じる軋轢を嫌ってか、あるいはひとつでもレア品を購入できる確率を上げたいと考えてか、それ以上、異を唱えるものはいなかった。
「それじゃ複数のレア品が出た際、購入できるのは各勢力で1品のみってことで頼む。……ひとまずこんなところか。あとは細かいところを――」
全員と知り合いだったこともあってか。
以降の話もとくに大きな問題なく円滑にまとまった。
アッシュは全員の顔を見回しながら言う。
「じゃあ、みんな。13日後、緑の塔前に……!」





