彼の家で
小山梨沙:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な大学3年生。天真爛漫でとても優しいが、考え込みやすい性格。「ダジャレ、ビール、相撲」の3つが好きで中身がおっさんだと言われることも。すぐに彼氏ができてしまう。(ENFJ)
大森和也:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な男子大学生。淡々とした性格で人によって態度を変えず、正直に物事を言う。クールに見えるが、実はあまりクールではない。梨沙に好意を持つ。(ISTP)
笹岡明音:小学校から大学まで一緒の梨沙の親友。常に冷静で落ち着いている。すぐに彼氏ができる梨沙のことを心配している。(INTJ)
倉本七海:梨沙と明音と大学時代に出会い、仲良くなった。ムードメーカーで明るい性格。すぐに彼氏ができる梨沙のことを羨ましく思っている。(ESFP)
川越雄太:和也の友達。梨沙とは高校が同じで、高校時代に片思いをしていた。盛り上げ役だが、周囲への気遣いができる性格。梨沙への気持ちがまだ残っている。(ESFJ)
松田有希:梨沙と同じクラスの友達。気が利くお姉さん体質で、サバサバしている性格。和也と小中学校が同じだった。(ISTJ)
私は有希ちゃんと2人でカフェにやって来た。紅葉狩りから帰った後、有希ちゃんから連絡があったのだ。私は目を疑ったが、今まで一度も2人でお出かけをしたことがなかったので、嬉しさと緊張が入り混じった感情が芽生えた。
「急に誘って驚かせちゃったでしょ?」
有希ちゃんがホットコーヒーを一口飲んで言った。私は慌てて首を横に振った。
「ううん!嬉しかったよ!2人でゆっくり話したこと、あんまりなかったと思うし。」
「そうだね。ありがとう、梨沙ちゃん。」
私の言葉に彼女はホッとしたような表情をした。私もアイスカフェラテを一口飲んで胸を撫でおろす。
「それで、早速本題に入るんだけど。」
有希ちゃんはそこまで言って小さく咳払いした。私は姿勢を正して首を傾げる。
「単刀直入に言うと…私、雄太くんのことが好きになったの。気付かれてたと思うんだけどね。」
「あ…うん、実は気付いてた。」
私が苦笑すると、有希ちゃんは真剣な表情をした。
「前に雄太くん、紅葉見て泣いてたでしょ。あの後、2人きりになってから雄太くんが言ってたんだよね。」
彼女は遠くを見るような目で小さく呟いた。
「これでもうけじめを付けられたって。」
「けじめ…?」
私がキョトンとすると、彼女は何度も頷いた。
「そう。梨沙ちゃんに対する恋心のけじめ。」
一瞬固まったが、私は思わず大きな声を出してしまった。
「え!?わ…私への?」
「雄太くんはね、本気で梨沙ちゃんのこと好きだったんだよ。高校生の頃から。」
有希ちゃんが呆れたように言うので、私はさらに目を丸くした。
「そうだったんだ…全然気付いてなかった。私にとっては、仲のいい男友達で。」
「梨沙ちゃんが鈍感すぎるから彼も苦労してたんだよ。謝った方がいいって。」
私が反応に困ると、彼女は「今のは流石に冗談だけど。」といたずらっぽく笑った。私は頭の中で有希ちゃんと雄太が手を繋いで歩いている様子を思い浮かべた。
「うわー!雄太と有希ちゃん…私、めっちゃ推せる!」
「推せる?」
「お似合いカップルすぎる!今すぐにでも付き合ってほしいな。」
私が目を輝かせていると、彼女は目を細めた。
「梨沙ちゃんって、恋愛のスピード速い人でしょ?」
「ば…バレたか。」
「やっぱりね。かずくんと付き合うのも結構速かったし。」
ここまで話して有希ちゃんは明音タイプなのかもしれないと私は察した。
「私だって、今すぐにでも雄太くんの彼女になれたら嬉しいよ。でも…じっくり行った方が良い気がしてて。」
有希ちゃんは頬をピンク色に染めていた。とても可愛かった。
「雄太は行動力あるから、好きになったら積極的になりそうだよね。」
私が言うと、有希ちゃんは「梨沙ちゃんにもそうだったからね。」と納得した。
「有希ちゃんも積極的に動いたら雄太も気付くんじゃないかな?雄太、明るいキャラだけど、割と周りのこと考えたり空気読んだりできるタイプだから。」
私がさらに助言すると、有希ちゃんも頷いた。
「何も考えてないようで、実はちゃんと色々考えている。それが雄太くんの良さだよ。」
有希ちゃんはすっかり恋する乙女になっていた。私が手でハートを作ると、彼女は小さく肩をすくめた。
「何も考えてないようで、本当に何も考えていない。それがかずくんね。」
「ちょ…ちょっと!和也くんのこと、悪く言わないでよ。」
私が口を尖らせると、彼女は声を出して笑った。
「やっぱりかずくんの彼女なんだね!かずくんに変なこと言われたりされたりしてない?」
「そんなことないよ!なんでそんな心配を…。」
ぶつぶつ文句を言う私に有希ちゃんは衝撃的な言葉を放った。
「過去の話だから気にしなくていいと思うけど。かずくん、周りの目全然気にしないで中学校の時に付き合ってた子とイチャイチャしてたから。」
「ええ?和也くんが!?」
私が素っ頓狂な声を出すと、彼女は何度も頷いた。
「凄かったよ。付き合ってた子とずっとくっついてたもん。まあ、あまりにもオープンだったから先生たちも生徒たちも『ラブラブで何より。』みたいになってたけど。」
「そうなの…意外すぎる。全然想像つかない。」
私の反応を有希ちゃんは面白そうに眺めている。
「あの頃はみんなまだガキだったからね。でも、今ももし嫌なことされたら、ちゃんと伝えるんだよ。梨沙ちゃん、言いなりにならないようにね。」
「言いなりって…絶対にそんな風にはなりません!」
私が張り切って言い切ると、彼女は余計に心配そうな表情をした。
「まあ、それなら良いんだけど。」
有希ちゃんと別れて、私は1人で帰途に着いた。和也くんの過去の話まで聞いて、私の頭は少し混乱していた。いつもクールな和也くんがみんなの前で…!?そんな姿、全く思い浮かばなかった。
「あれ?梨沙?」
いきなり後ろから声を掛けられて私はひっくり返りそうになった。振り向くと、そこには和也くんが立っていたのだ。
「か…和也くん!なんでここにいるの?」
動揺を隠し切れずにいると、彼は怪訝そうに私を見つめた。
「梨沙、何かあった?」
「え…?いやいや、何もないって!まさか和也くんがいると思ってなかったから…。」
私は慌てて言い訳をする。すると、和也くんは優しく微笑んで私の手を掴んだ。
「梨沙に会えて嬉しいよ。」
「あ…わ、私もだよ。」
和也くんは私の手を強く握った。たしかに彼は積極的な気がする。
「ねえ、梨沙。この後、何か用事ある?」
「ううん。和也くんは?」
私が首を傾げると、彼も「ないよ。」と微笑んだ。
「じゃあさ、俺の家…来ない?」
彼の言葉に私はキョトンとしてしまった。私が固まっていると、彼はいたずらっぽく笑った。
「梨沙、顔真っ赤だよ。なんでそんなに動揺してるの?」
「い…いや、だって…家にお邪魔するなんて…その、迷惑なんじゃないかなって。」
また言い訳をしてしまうと、和也くんは「大丈夫だよ。」と呟いた。
「今日は家族が留守なんだ。だから何も迷惑じゃないよ。」
「そう…なんだ。じゃあ、お言葉に甘えて。」
私の胸の鼓動が速くなっていく。和也くんは嬉しそうな表情をしている。
20分程歩くと、和也くんが足を止めた。
「ここ、俺んち。」
見上げると、そこには立派な一軒家が立っていた。私が口をポカーンと開いていると、和也くんは苦笑した。
「そんなに驚かなくても…普通の家だよ。」
「いやいや!すっごく綺麗なお家だよ。」
和也くんはニコッと微笑んで家の扉を開けた。私はドキドキしながら玄関に足を踏み入れる。
「お…お邪魔します。」
私が深くお辞儀すると、和也くんは声を出して笑った。
「そんなかしこまらなくて良いよ。親いないし。」
「でも…いないのに来ちゃってるから、つい。」
リビングに入ると家の中も綺麗だった。物が少なく、開放感のある部屋だった。私の部屋とは大違いだ。私がぎこちなく椅子に座ると、和也くんはすぐにお茶を出してくれた。
「あ…ありがとう。ごめんね、気遣わせて。」
私が会釈すると、彼は私の正面に座った。
「梨沙、緊張してる?なんか表情が硬いよ。」
「え…そ、そうかな。他の人の家に上がるの慣れてないからかも。」
私は思いつきで変な言い訳をした。和也くんはそんな私を面白がっているかのように見つめている。私は和也くんがいつもの彼と違う人のように思えた。
「梨沙、友だちの家に遊びに行ったりしないの?」
「女子の家に行くことはあるよ。稀に…だけど。」
「そうなんだ。仲いい友だちがいるんだね。」
彼はそう言うと麦茶を一口飲んだ。
「和也くんは?友だちと遊ばないの?」
「うーん。昔から仲いい人たちとはたまに遊ぶけど、大学で会った友だちとはあんまり。」
「そっか…他人にそこまで興味ないんだもんね。」
私が苦笑すると、彼は小さく肩をすくめた。
「まあね。でも、仲いい友だちにはちゃんと興味あるよ。」
「はいはい、分かりました。」
軽くあしらう私を彼は軽く睨んだ。私も彼のことを睨み返す。
「そんな顔で見ても梨沙は可愛いよ。」
彼からのドストレートな言葉に私は「出た…そういうの。」と苦笑してしまう。すると和也くんの表情がいきなり真剣になった。
「梨沙。」
いつもより低い声で私の名前を呼んだ。私はハッとして彼を見つめる。
「俺の気持ち…ちゃんと伝わってる?」
「え…?」
私がキョトンとすると、彼は私の目をじっと見つめたまま話を続ける。
「俺が梨沙を好きな気持ち。」
その言葉を耳にした瞬間、私の心臓の鼓動が一気に速くなった。彼にまで聞こえてしまいそうな程に。
「うん…伝わってるよ。」
私が小声で呟くと、和也くんは立ち上がって私の隣に座ってきた。私は自分の顔が真っ赤になるのを感じる。
「そう?俺はもっと伝えたい。」
和也くんは優しい笑顔を浮かべた。私は彼から目が離せなくなってしまう。
「そんな…もう十分伝わってるのに…?」
何とか口を開くと、彼は大きく頷いて見せた。思わず俯いた私の頭に彼は優しく手を置いた。
「梨沙、俺の部屋見る?」
「へ…部屋!」
私が目を輝かせると、彼は苦笑した。
「まあ、特に何もないけどね。片付いてはいるよ。」
彼が立ち上がったので私も付いていく。2階に上がっていくと、廊下には沢山のトロフィーやメダルが置いてあった。
「すごい!これって全部和也くんが取ったの?」
「うん。水泳でね。」
私は和也くんが水泳をやっていたと話していたインターンシップでの外回りを思い出した。
「まさかこんな実力者だったとは…。今はもう続けてないの?」
「辞めたよ。水泳選手になりたいわけじゃなかったからね。」
和也くんはあまり水泳の話を続けたくなさそうだった。私はそれ以上何も言わずにまた歩き出す彼の後ろを付いて行った。広い廊下の1番奥まで行くと白い扉があった。彼はその扉を勢いよく開けた。
「ここ、俺の部屋。」
私は思わず目を見張った。これでもかと奥行きのある広い部屋にベッドとテーブル、椅子2つ、クローゼットしか置いていなかった。何だか和也くんらしい部屋だ。
「こんな大きな部屋なんだ!すごすぎ…!」
部屋をうろうろする私を見て和也くんが「椅子に座っていいよ。」と静かに笑った。私はまたぎこちなく腰を掛けた。和也くんも私の隣の椅子に座った。
「物が少ないのは和也くんらしいね。私の部屋とは大違いだよ。」
私が苦笑すると、彼はいたずらっぽく笑った。
「いつか梨沙の部屋片づけに行くわ。」
「いいえ結構です。自分でちゃんとやれますので。」
ムキになって答えると、彼は「できないくせに。」と小声で呟いた。そんな彼を睨みつつも私は綺麗な絵画が壁に飾られてあるのに気付いた。夕日の光が海に照り返している風景が息をのむほど美しい。
「綺麗な絵だね。どこかで買ったの?」
「ああ、これは俺のばあちゃんが描いてくれた絵。」
「おばあちゃん、もしかして画家?」
私の問いかけに和也くんは大きく首を横に振った。
「看護師だったよ。もう死んじゃったけどね。」
私が黙り込むと、彼はニコッと微笑んだ。
「もう1年も前のことだから大丈夫。」
「1年って…もうじゃなくて、まだじゃない?」
「そうかな。俺にとっては1年って結構経ってると思うけどね。」
和也くんはそう言うと、私の頬に手を当てて笑った。
「梨沙を好きな気持ち…もっと伝えていい?」
私の胸の鼓動が一気に速まって彼の瞳に吸い込まれそうになる。その瞬間、彼は私に優しく口付けした。それも…1回だけじゃなく何回もだった。
ー過去の話だから気にしなくていいと思うけど。かずくん、周りの目全然気にしないで中学校の時に付き合ってた子とイチャイチャしてたから。
有希ちゃんの言葉が頭に蘇ってきて、私は思わず声に出してしまった。
「イ…イチャイチャ…。」
和也くんは目を丸くして私を見つめる。慌てて口を押さえるが、もう時すでに遅しだ。
「梨沙、どうしたの?」
「え…?いや、何でもない!本当に気にしないでください…!」
和也くんから離れようとしても、彼は私を放してくれなかった。彼の目は今まで見たことのない光に包まれていた。
「俺、ずっと我慢してたのに…いいのね?」
それから私は有希ちゃんに言われた警告も忘れて和也くんの言いなりになっていた。でも、それが嫌でなかったことは自分でも分かっていた。ただ私は彼を愛していて、彼に愛されたいだけなんだ。
つづく
ご一読ありがとうございました❀




