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音
空は青から淡い茜色に染まる頃だった。
風の音すら鳴りやんだ。
静かな夜の始まりだった。
クランは教会の中で静かにリコーダーを吹いていた。
そして、吹き終わるとアイリの姿が思い起こされた。
クランが静かに歌い始めた。
月の光が教会の床へそっと落ちていた。
愛しき人よ
なぜに僕に振り向かない
僕の心は届かぬままなのだろうか――
暖炉の火が音をたてた。
その歌声をアイリは耳にした。
なぜか、心に染みた。
遠い記憶が蘇った。
それは白夜祭でタピオを見かけた時の光景だった。
でも、タピオはもういない。
あるのはクランの歌の響きだけ。
アイリはクランの歌声に導かれるようにクランの部屋へと入った。
クランの姿が、ふとタピオの姿と重なった。
消えかけていた想いが、胸の奥で再び揺れ始めた。
クランはアイリの姿を見るなり、リコーダーを吹いた。
なぜそうしたのか、自分でもわからなかった。
彼の眼差しには、アイリの姿ばかりが映っているようだった。
吹き終わると何も言えなくて、窓から見える月に目をやった。
アイリは心にぽっかりと穴が開くように思えて、部屋を後にした。
タピオの姿がやけに心に焼きついた。
空は茜色だった。
夜の音がした。




