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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟⑲

「固定式ジャケットタイプのプラットホームが採用されておる。荒れることの多い日本海にも耐えられる構造だな。そしてあそこから岩船沖海底パイプラインがプラットフォームから新潟市太郎代たろうだいの陸上基地まで全長21㎞にわたって繋がっておって、原油と天然ガスが陸揚げされとる。海底土中の埋設導管は直径32㎝もある」

九頭龍はステアリングホイールから手を離し、大体このくらい、と像作ってみせる。クラがシエンタそのものであるとはいえ、危なっかしい挙措はやめてほしい。

「うわ、そうやって汲み上げていたんだ…」

ぴょこんと耳を立ててタカが助手席と運転席の間から顔を出した。

「九頭龍さま!そんな太いホースが海の底を這っていて大丈夫なんですか⁉︎」

「タカさん?」

「だってメイアン、太郎代って東港の左岸ですよ!船が出入りします」

「東港ってガントリークレーンがあったところだね?あのクレーンがあるってことは、コンテナ船が出入りするね?」

タカはじたじたと足踏みした。

「ああっ、もう!船が出入りするんですよ!錨をおろすでしょう!」

「あ。そうだね。引っ掛けちゃうかも?」

九頭龍はくす、と笑う。

「無論容易には錨が触れぬようにはしてある。海図にも当然パイプラインの情報が記載されておって、投錨禁止区域を設定しておるし、投錨について注意喚起されておるよ」

その程度で防げるのかとタカはかなり懐疑的だ。

「タカさん、港には水先案内人がいるんだよ」

「なんですかそれ」

「船は、さ、当然操船のプロ達が操って海を渡るんだけど、港の状況って港によっても違うし、その時々によっても海図だけじゃ追いつかない変化とかあるじゃん。だからね、入港してくる船に小船で寄って乗り込む人がいるんだ。それが水先案内人パイロット

「パイロットって操縦する人のことでは?特に飛行機の」

「ほら、先行販売されるものをパイロット版っていうし、先駆けて光って知らせるのをパイロットランプっていうでしょう。水先案内人は船の乗組員の前に立って指示するんだよ」

「うーん…」

「実はね、飛行機の操縦士はキャプテンなんだよ」

「キャプテン?」

「うん。英語で大尉を表す言葉だね。日本語じゃチームリーダーみたいに使われるけど。つまりね、飛行機って昔は大尉が操縦してたの。軍隊の飛行機がルーツだね」

「ひとり?」

「そう。飛行機の操縦士は船と違って船長の役割も水先案内人の役割も航海士の役割も一手に担ってる」

「えっ、なんで」

「だって空港は統一規格なんだもん。水先人がいなくても操縦方法は一緒だから。航法技術も状況判断も地上との連携も…旅客機には乗客の安全の為に副操縦士やアテンダントらクルーもいるね、そういったクルーへの指示も全部やらなきゃなんない。その中で最も尊敬される部分を取ってパイロットと呼ばれるようになった、というよ」

「機長はパイロットで、キャプテン」

「そう。英語ってそういうとこあるんだ。F1ドライバーもF1パイロットって呼ぶ。運転技術ドライビングだけじゃなく、コースを知り尽くし監督を始めとするピットクルーとの連携で勝利に向かうから。逆にね、戦闘機F15(イーグル)乗りのことはイーグルドライバーっていう。軍人は命令に従うのも作戦を熟知するのも当然であるという上で、如何に上手く操縦できるか、というところに重点を置いてるんだろう。ふふふ、乗組員の多い船はまだまだ分業の世界なんだよ」

「詳しいのう、メイアン」

「あは、一応ヘリと船の訓練積まされたから〜」

タカは首を捻った。

「なんで?」

「前職傭兵さんだもんよ」

タカは聞かされていなかったのか、と顔に出さずに思う。

「嘘ん」

嘘を並べる必要はないことに思い至ったのか、質問を繰り出し始めようとしたタカを九頭龍は後ろ手でマズルごと掴んだ。

「やめんか。デリカシーが足らぬ」

九頭龍からカタカナ言葉が出たことがなんだか可笑おかしくて、メイアンはぷっと吹き出した。

「いいよいいよ九頭龍さん」

タカは九頭龍の肉厚な手を外して貰えず踠いている。

「やめてあげて。苦しいよね、タカさん」

九頭龍の掌がぱっと開くと、タカは風のようにメイアンの膝に飛び移り、助手席のドア側に潜む。

「日和った態度を」

やめなさいって、と苦笑いで言うと、タカに向き直る。

「タカさんは傭兵って漫画とかで読んだ?」

タカは首を竦め、上目遣いでメイアンの顔色を読む。メイアンの顔にネガティブさが見えないのを確認して恐る恐る小さく数回首を縦に小刻みに揺らした。

「そう。そういうのだと、恰好いいんだよねぇ、傭兵。正規兵より自由度が高くて何故か能力が高くて、戦局が見通せたりする。でも考えてみて?正規の兵隊さんってさ、徹底的に仕込まれてんの。ひとつの出来事について必ずしなきゃならない行動が叩き込まれていて、もう脊椎反射かってくらい正確に身体が動くんだ。その上ちゃんと座学も詰め込んであって、知識と理論が実践と結びつけられてる。付け焼き刃で銃を手に取った傭兵なんかよりずっと有能よ正規兵」

「そうなんだ」

「うん。勿論傭兵極めちゃってる人もいるよ。でもね、大概経験値で動けるようになった人って欠けてるものがある」

「なにが、無いの?」

ふふ、とメイアンは低く笑った。

「若ささ。若さには大体敵わない」

「どして?」

「運動能力で先ず敵わないだろ。無謀さや踏ん切りの良さは経験を積んだ分だけ失われる」

「無いと、駄目なの?」

「生き残った者勝ちの場所で、生存本能が衰えたらアウトじゃん」

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