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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、セーヌ⹀サン⹀ドニ⑥

メイアンは眉間に皺を寄せて唸った。

「抜歯怖かった痛くなかったけど、じゃ沽券に関わるよね。勇猛果敢なチェロキーの名が廃る」

ウルテは膝を叩いてまだ笑っている。

「あっはっは、貴女のそういうとこ。そういう気の寄せ方が面白くて、ついディズマルで見てたんだあ。やっぱりこっちの人だってわかって、嬉しかったよ」

「そりゃどうも…」

「でもディズマルを壊滅させちゃったのは派手過ぎたね。私は別にあんなの無くなっちゃえばいいと思ってたからすかっとしたんだけど、レイヴンモッカーの総意としてちょっとやばいって。今の土地に所有権があるってとこがね」

企業が遊んでいる土地をそのままにしておく理由などない。訓練所を再建するだろう。また傭兵を作る為に。

…傭兵の仕上がりに拘らず要請があれば戦場に送り出すことだろう、生成り傭兵出荷の道筋ってことか。レイヴンモッカーの中にも見通しの利く御仁がいるのだな。

昨晩の忠遠の話が急に現実味を帯びてくる。

「…雨が上がるのを待っているなら、諦めた方がいい」

「待ってはいないけれど…なんで?」

「だってプラムが凄い雨女なんだもん。雨男?どっちでもいいや。だから止まないよ」

「そりゃ参ったね、行く先々雨じゃん」

「そうなんだよ〜逸そ旱魃地帯に派遣したらいいんじゃないかと常々思ってる」

「素晴らしい社会貢献になるねえ…いやいや、それじゃプラムが救われないなあ」

そういえば当のプラムの姿がない。耳を澄ますと台所から密やかな声がする。弁当でも作っているのだろう。忠遠はといえば、榑縁くれえんに新聞紙を広げ、大きな松の盆栽を置いて鋏を片手にまるでどこを切るべきかずっと迷っているように固まっている。どうせどこも切る気などない癖に、と思っていると、忠遠の声が頭に届いた。これは、妖精パイク経由だ。

…照る照る坊主でも持たせてやれ。ティッシュペーパーでのっぺらぼうの、な。晴れたら目を描き入れて川に流して感謝して供養。晴れようが晴れまいが、止雨祈願なんて晴れるまで続ければよいことだ。

この似非祈祷師め。

心中で罵りつつ、確かにプラムはこういう初歩から躓いているのだなと実感する。泣きたくなる程鬱とした気分なのに、泣いてはならないと自制した分雨を呼んでしまうのだろう。ウルテがそこに気づいていないとは思えないのだが。

「行き先については訊かないの?」

「目的地より、移動手段について訊きたいね。プラムにずっと跨っていくのは互いに辛いでしょ」

「なんか貴女、プラムに甘くない?」

「弟子や養い子だからって酷使してはいけないってがっつり身に叩き込まれてる世代なの。ウルテがそうやって育てられたのなら、それを次世代に継承しないことが正解だよ。嫌だったことを第三者に押しつけるのは悪辣でしかない。今なら言えるでしょ、そういうことした本人に」

ウルテはふっと横を向いて皮肉げに笑った。

「言えるけどね、墓標もない」

仙なのに死んだのか。

「生分解されてんの?じゃあ向き合わなくてもいいんじゃん。そこら辺に吐き散らせばいいんだもん」

「やめてよ、分子レベルになったのをもしかしたら体内に取り込んだかと思ったら嫌じゃん」

「なに言ってんの、それこそ体内の一部にして酷使してやろうでないの」

「あはは、やな感じ〰︎」

「プラムはお弁当作ってくれてるみたい。さっき炊飯器が鳴ってたからご飯メインなのかなあ?」

「お弁当?って、ランチボックス?」

ウルテは相当妙な日本文化が好きなようだ。

「もしかしてキャラ弁とか憧れてる?作ってくれてるかなあ?」

熊は硬そうに見えて案外柔軟な対応をするから、プラムから妙な情報を得ていそうだ。プラムがどこまでどのようにウルテを見ているのかが見えるかもな、と思う。

「ドラえもんは多分無理だよ」

そうしてほしいとは思わないけど、と前置きした上でウルテは不思議そうに問う。

「だって青いから」

「…何色でもどんと来いって聞いたけど?」

「青い食紅もあるし、探せば青い食材はあるんだろうけれど…アメリカ人ってそういうとこ疎いんだよな。食べ物には食べ物たる色ってあるでしょ。それを乗り越えて人工的につけられた色の食べ物って、不自然極まりない。ウルテにはそういう感覚、ない?」

「うーん…」

「フライドチキンにかぶりついたら、中身が緑だった!どう?」

「スムージーでできてる?」

「パンが紫!」

「ブルーベリーが練り込んである?」

「その紫なら食欲が湧くね。じゃあ、ゴロワーズブルーだったら?」

「それって、食べられるの?」

メイアンはにんまり笑ってやる。

「チキンもビリジアンだったら食べないでしょ。弁当はキャンバスじゃない。そっちに寄せようとした結果だ。蓋を開けたとき、たった感嘆詞ひとつを引き出す為だけの努力」

「なんて?」

「日本語では、わあ❤︎。英語ならwowだ。食べちゃうの勿体無いなって食べると美味しくて、キャラクターがお腹に入ったんだー午後も楽しくいられるぞーって一日の後半戦に臨むのさ。だから食べ物として変なものは使わない。合成着色料使って身体壊すのはそういう基本理念からは外れちゃう」

「でも、あんなに鮮やかな…」

「それはね、元々そういう色した食べ物があるんだよ。ピンク、黒、黄色。ご飯が白いから濃淡も出し易い。お弁当作る人って天才だよな!」

「普通のお母さんが作ってるんでしょ?皆んなシェフ?」

「まっさかあ!知恵を絞って道具探して作るんだよ。ウルテも作ってみる?道具探しならつき合うよ」

「河童橋行くの?」

そういう知識はあるのか。

「行ってもいいけど、そんなプロユースなもの要らないから。そこら辺の百均で揃う」

段々とウルテの目がぎらついてきた。これは仕事を早く終わらせる口実になりそうだ。

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