第1話 10年目の縁 1
惑星[カダーディアⅢ]の軌道上に浮かぶ十字型の宇宙ステーション。
人間男性の冒険者であるレヴァリスを乗せた宇宙船<ペイルライダー>はその近くで超光速航法を終え、超空間から宇宙空間へ飛び出すようにして現れた。
操縦席の窓越しに宇宙ステーションを確認したレヴァリスは、これから降下する惑星にも目を向けた。
5万年も昔に滅び去った銀河帝国の工業惑星[カダーディアⅢ]には、赤い酸の海と焼け爛れた黒い大地が広がり、巨大な強酸の嵐の“眼”がレヴァリスを睨むかのように渦を巻いていた。
その光景から今回の任務が危険なものになると予感しつつ、レヴァリスは通信機を操作して宇宙ステーションの管制へ連絡を入れる。
「こちらは上級冒険者レヴァリス。支部長からの救助任務の要請により来た。確認のための識別コードを送る」
『識別コードを受信——確認完了。誘導信号に従って右翼棟の第2発着場へ向かってください。支部長が既にそちらでお待ちです』
管制から送られてきた誘導信号を航法端末に取り込むと、<ペイルライダー>は自動操縦で第2発着場へ進み始める。
近づいてみるとこの宇宙ステーションは年季の入った数世代も前のものらしく、所々に補修や拡張の形跡が見受けられた。
表面の色や質感の違いがまるでパッチワークのような趣を呈していた。
宇宙ステーションの右翼棟には内部と宇宙空間を隔てる圧力シールドが淡い水色の光を揺らめかせており、<ペイルライダー>はその前で減速してから圧力シールドを潜り抜ける。
第2発着場に進入すると<ペイルライダー>は着陸脚を展開しつつ空いている区画のひとつにゆっくりと着陸した。
レヴァリスは機体が完全に着陸したことを確認してメインエンジンを停止させる。
そして機首の2階にある操縦室を出て、その真下にある前方ハッチへ移動した。
前方ハッチには宇宙船のクルーであり自律機械である5体のオートロイドが集まっており、それぞれが独特の機械音を鳴らしてランプを明滅させながら待機していた。
「必要ナ物ハ用意シタ! モッテケ!」
「ああ、助かる」
船内の保守点検を担当する人型のオートロイドであるビープは、甲高い声を上げながら壁に取り付けられた装備棚をしきりに指さした。
レヴァリスは礼を言いつつ用意させていた装備を手に取り、着用している装甲服の収納箇所に収めていった。
「今回ハソンナニ身軽デ大丈夫ナノカ?」
「速さが必要そうだからな。なるべく身軽にしておいた方が良い」
用意した装備がいつもより少ないことにビープは疑問を呈したが、レヴァリスは今回の任務に合わせたものだと説明した。
本来、救助任務には相応の装備が必要になる。それでも今回は何より迅速さが求められるため最低限に絞っていた。
「帰ッテ来タラマタ外ニ出ルカ? タマニハ外ニ出タイゾ」
「考えておこう。だが、まずはこの任務を終わらせてからだ。俺がいない間に船内の整備と、不足している物資の確認をしておけ」
「分カッタ! サァ、ミンナ仕事ノ時間ダ!」
ビープの号令を受けると、他のオートロイド達は相変わらず賑やかな機械音を立てながら、それぞれの持ち場へ向かっていった。
それを見送ったレヴァリスはハッチを開き、第2発着場へ降り立った。
周辺で待機していた作業員達が一斉に動き出し、<ペイルライダー>の検疫作業を始める。
そしてレヴァリスの目の前には支部長と思しき大柄な体躯に4本の腕を持つ“ベルネリアン”の男性が、補佐官であろう人間女性のギルド職員を伴って近づいてきた。
「私は冒険者ギルドのカダーディアⅢ支部長であるヴァリネクだ。君が今回の救助任務の要請に応じてくれた上級冒険者のレヴァリスか?」
「そうだ」
「わざわざ他の星系から呼びつけてすまないな。来てくれて感謝する」
ヴァリネクが自己紹介と任務に応じたことへの礼を述べると、隣に立っていた職員も静かに一礼した。
ベルネリアンは他種族にとって致命的となるほど強い紫外線が降り注ぐ惑星[ベルネリーウェ]を母星としている。
2メトルを優に超える体躯と4本の太い腕、強烈な紫外線に適応した黒く厚い肌、鋭く威圧感のある赤い目を特徴とするヒューマノイド型の種族だ。
ヴァリネクは人間としても大柄なレヴァリスでさえ見上げるほどの長身だった。
服から覗く肌は幾多の戦闘を物語るかのような傷跡に覆われていた。
さらに第二左腕と右足が機械化されており、その義肢には戦果を示すと思われる夥しい数のマークが刻まれていた。
その傷跡と義肢からはかつて歴戦の冒険者だったことが見て取れた。
「降下艇の用意は既に整えている。歩きながら現在までの状況について説明するが構わないか?」
「それで構わない」
レヴァリスがそう答えるとヴァリネクは満足げに頷いた。降下艇が待機している場所まで歩きながらブリーフィングを行うことになった。
「きっかけは[カダーディアⅢ]で新たな地下遺跡の入口が発見されたことだ。この遺跡の入口は都市の残骸に埋もれており長らく見過ごされていたが、最近になって瓦礫の一部が酸の嵐で溶けて崩壊したことで見つかった」
そう言うとヴァリネクの隣にいたギルド職員は、手のひらに乗せた立体映像投射装置でその場所の立体映像をレヴァリスに見せた。
映像に映ったかつて都市だった場所は強酸の嵐によってほとんど溶けてしまい、頑丈な柱だけが墓標のように立ち並んでいる。
崩落した瓦礫の一部が赤く光って表示されており、この下に入口があることを示していた。
「未知の遺跡の調査には危険が伴うことから私は調査隊を結成することにした。先行偵察で遺跡の構造情報を収集し、それから志願者の中から40人を選抜して送り出した」
「調査隊の構成は?」
「中級が32人、下級が8人だ。中級は銀河帝国の地下遺跡での探索経験を積んだ者、下級は中級の同行者で、その中でも実力に問題がないと判断した者だけだ」
その説明に考えを巡らせたが、ヴァリネクの判断に落ち度があったとは思えなかった。
先行偵察を行い、調査隊のメンバーも自ら選抜している。その仕事ぶりから支部長として極めて真面目な人物だという印象を受けた。
また、ヴァリネク自身も歴戦の冒険者だったと見られる。ならば、調査隊の人選にも問題があったとは考えにくかった。
「調査隊は事前偵察で把握していた大広間まで進み、そこで未知の敵による攻撃を受けて壊滅した。そこまではまだ通信圏内だったのだが、通信を妨害されてしまってな……」
「ここに戻ってこれた人数は?」
「4人だけだ」
その言葉を聞いてもレヴァリスは表情にも声にも動揺を表さなかった。
だが、40人もの冒険者のうち4人しか帰還できないというのは相当な脅威が存在していたことになる。
レヴァリスより下の階級である中級冒険者は上級に比べれば能力は劣るかもしれないが、それでも今回の調査任務を遂行できるだけの十分な経験と実力を備えていたであろう。
「襲撃時の状況は?」
「大広間から先はいくつかのパーティに分かれて行動するつもりだったが、そこでオートロイドの大群に襲撃された。また未知のオートロイドがいたという生存者の証言もある」
「その未知のオートロイドに関する他の情報は?」
「人型で動きが素早く、突然現れて冒険者を始末してはすぐに姿を消したそうだ。すまないがそれを見た生存者は重傷のため集中治療室へ送られ、それ以上は聞き出せなかった」
「いや、それだけ分かれば良い。ひとまず対策はできる」
そうは言ったものの不確定な情報が多いことも確かだった。今回の救助任務がいつも以上に危険になることはすでに察していた。
少なくともレヴァリスが知る限り、ここ数年でこれほど大規模な調査隊が壊滅した例は聞いたことがなかった。
やがて3人は中央棟の下層部分にある降下艇の発着場へと入った。
突発的な強酸の嵐が吹き荒れる[カダーディアⅢ]では、宇宙船を地表に駐機することはできない。
強酸は宇宙船に使われる頑丈な金属さえ溶かすため、支部も地上ではなく宇宙ステーション内に置かれていた。
地表との往来には降下艇が用いられている。発着場には各地の軍や警察で採用され、冒険者ギルドでも運用されている“サンファリウス級降下艇”が立ち並んでいた。
「救助任務ということは、まだ地下遺跡に生存者がいるということだな?」
「生存者によればあるパーティがその未知のオートロイドを引き付け、遺跡のさらに奥へと向かったらしい。既に調査隊が襲撃を受けてから5時間は経過しているが、彼らがまだ生きている可能性はあると私は思っている」
冒険者の救助任務は時間との勝負である。今回のように未知の遺跡で孤立してさらに未知の敵に追跡されているとなれば、正直なところ生存は絶望的に思えた。
ヴァリネクにもそれは分かっているのだろう。だからこそ上級冒険者であるレヴァリスを呼んだのだ。
要請に応じた以上、やるべきことは明白だった。
「今回の任務はベテランの君でも危険だ。他の上級冒険者の到着を待ってからでも構わないとは思っているが……」
「いや、時間がとにかく惜しい。単独で向かう」
そう言い放つなり、躊躇することなく側面ハッチから降下艇へ乗り込んだ。
そのためらいのない決断に、ヴァリネクはわずかに目を見張った。
「幸運を祈る」
ヴァリネクの言葉にレヴァリスは小さく頷いた。直後に側面ハッチが閉じられ、降下艇はゆっくりと上昇を始める。
発着場を離れると機体は加速し、[カダーディアⅢ]にある地下遺跡の入口へ向かった。
子供の頃にスターウォーズやHALOに触れ、いつか宇宙物の小説が書きたいなと思っていました。
というわけで、私にとって初作品となる青藍のストライダーをよろしくお願いします。
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