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玉の輿に乗った派遣施工管理と、眩しすぎる彼女  作者: 伊織


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第六十一話:見てきたもの

「まず、いっちゃん弁当何個作るつもりよ」


そう言われて、特に考えていなかったことを思い出す。


「家にあるタッパ、使い切るくらい?」


そう言ったら、ため息をつかれた。


「それが分かってない理由だよ」


七海は分かりやすく不機嫌になる。


「私が作ってた頃は、昼と夜の分の二食。二人で四食分だよ。一週間で十四食。一ヶ月で五十食前後。つまりタッパは五十個前後あるってこと。それを仕事が休みの土日返上して、まる二日かけて作ってたんだよ」


その言葉に、思わず目をそらしたくなる。一週間分くらいの二人分の飯なんて、一時間もあればどうにかなると思ってた。


「その間も、いっちゃんゲームか寝るかで、私が家事全部こなしてたよ」


そうだ。今思えば、七海の弁当は毎日中身が違った。量もしっかりあったし、野菜も多かった。


「つまり何が言いたいかというと、君は私の何も見てないんだよ。掃除も洗濯も料理もね。どこで手を抜いて、どこで手を抜かないかも分からないのに、とりあえず全部を全力でこなそうとしてる」


――なのに七海の弁当で、何が美味しかったなんて思い出が思い出せない。それだけ俺は、七海を見てなかったんだって、痛いほど感じる瞬間だった。


「ムカつくけど。教えてあげるから覚えなさいよ」


そう言う七海は、ひどく眉間にシワが寄り、声も震えている。怒ってるのがよく分かるのに怒鳴りつけることもなく、同時に人間としての器の違いが見て取れたんだ。


「教えてください」


深々と頭を下げて言う。するとペチンと頭を叩かれた。


「今更遅いんだよ。ばーか」


機嫌は悪いまま。でも、場が和んだのがよく分かる空気。顔を上げて横目に見えた綾香ちゃんがホッとしている姿が目に入った。


「ルンバほしいな」


「七海、ごめんだけどさすがに使いすぎ」


七海の機嫌はコロコロ変わる。もう俺との会話は忘れたのか、ルンバが欲しかったのを思い出したらしい。


「初期投資大事くね?」


そんな事を言う七海の頭には、きっと我が家に生息する黒い猛獣の姿はない。


「ぽんずに瞬殺されて終わるだろ」


俺の言葉に「それはあかんな」と納得した風に、七海はまた来た道を戻る。


「なんか買いたいんだよな」


先頭を歩く七海に、カートを押しながらついていく。


「七海さんって、買い物好きなんですか?」


こそりと俺に聞く綾香ちゃんに、俺は苦い顔をした。


「まだ家電なだけマシだよ。ドンキとか行ったら無駄遣いの鬼になるから……」


そんな話をして俺たちが笑っているのは、七海は知らないだろう。

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