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玉の輿に乗った派遣施工管理と、眩しすぎる彼女  作者: 伊織


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第六十話:振り回した日々

「お腹へった」


 コストコに着いたのはいいものの、フードコートではなく食品売り場を目指した。七海にとっては俺へのアドバイスより飯が最優先だろうに、こっちを優先してくれたのが少しだけ嬉しい。


「ぽんずさんの……お洋服」


 綾香ちゃんも興味津々に、ぽんずの服を見ていた。相当ぽんずが可愛くて仕方ないらしい。


「まずはいっちゃん。これだ」


 そう言って、食品売り場を素通りして向かったのは、洗剤などが高く積まれているエリアだった。


「俺、弁当のおかず探しに来たんだぞ?」


 思わず浮かんだ疑問が漏れる。


「甘いな、いっちゃん。そんなことではまた精神的にも肉体的にも余裕のない生活に逆戻りだぜ」


 七海の言葉に背筋が冷える。つい数日前までの、七海と俺の二人の生活を指しているのなら――七海も余裕のなさや、別れが頭をよぎったのではないかと。


「こちら、明日からお世話になります。食洗機さんの素でございます」


 けれど七海は、俺に後悔する時間を与えてはくれない。罪悪感が増す中で、七海の言葉と情報量に追いつけない俺がいた。


「うち、食洗機なんてないけ……」


 俺は言いかけて、すぐに自分のスマホを見た。七海の無駄遣いを監視するために作った家族カードからの請求がないか、メールを確認する。案の定、昨日の支払いが五万円近くあった。疲れてすぐに寝てしまったせいで、俺は全く気づいていなかった。


「そんな怖い目で見ないでよー」


 俺が呆れた顔で見ていると、七海は笑いながら食洗機用洗剤をカートに入れる。


「綾香ちゃんにも昨日言ったけどさ。今は綾香ちゃんが洗い物してくれたり、いっちゃんが家にいるから洗い物できるだろうけど。心も体も疲れた我々は、もう数年前に自炊なんてものはやめたはずだ。作れば洗い物が出るし、食べても洗い物が出る。だからお互い、カップ麺とか菓子パンばっか食べてたんでしょ?」


 その言葉に、思い出した日々。つい数日前までは仕事の行き帰りだけでもしんどくて、とてもじゃないけど帰って何かしたいなんて思わなかった。大好きだったイラスト制作やPCゲームも……だからやめたんだった。昔楽しかったものが、どんどん面倒になって、辛くなったから。


「必要なのは長く続ける工夫。一樹。やるって言うなら、きっちり続けろ。もう人を振り回して、無理だったって諦めるのは無しだ」


 “人を振り回して”。その言葉だけ一段と低く聞こえた。鋭く俺を見る七海の瞳に浮かんでいるのは、自分が被った不利益に対する怒りだけには見えなかった。もちろん、それもあっただろうが……すぐに逃げてしまう癖ばかりが上達して、口からは言い訳しか出ない俺に対する怒りだ。


「分かってる」


 息を呑み、絞り出した言葉は短かった。


「分かってないから言ってるんだよ」

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