第三十七話:チャンスと現実
その言葉に「え、っ」と声が漏れた。
それだけ?
就活とか、卒業資格とか、そういうことじゃないの?
「高校行ったら自然と、みんな大学やら専門やらに行く意識になる。昔の人ほど大学へ行くハードルは高くないんだよ。逆に言えば、昔よりずっと学歴を持った人で溢れてるから、どんどん大学卒の人材が当たり前になっていく」
さっきまでの子どもっぽさが消えている。茶を飲む七海は、妙に落ち着いて見えた。
「人材不足で学歴不問の求人もある一方で、営業や技術職みたいに、職種で条件が違うケースも多いよ。営業は大卒以上、技術は高卒以上、または学歴不問。――その場合、今後のキャリアはどうなると思う?」
その問いに答えられない。まったく検討もつかなかった。綾香ちゃんも分からないのか、首を傾げていた。
「入り口が違うってことは、出口が同じとは限らない企業も多い。企業じゃないけど、例としては国家公務員の総合職か一般職かの違いが分かりやすい」
国家公務員?
公務員にもそんな格差があるのかと、俺は驚いた。地方も国家も違いは大して分からないけど、俺の中ではみんなエリートだし。
綾香ちゃんも「えっ」と目をまんまるにしている。
「総合職は例外はあるけど大卒がほとんど。一般職は高卒以上が受験資格。でもキャリアとしては、課長級以上になると総合職の割合がびっくりするくらい一気に増える。高級幹部候補にもなれば、ほぼ全てが総合職の人間だ。――それが一般企業でも起きてるってこと」
知らなかった。大して調べたこともないからだろうけど、でも俺は、みんな平等にチャンスがあって、いくらでも下克上できると思ってた。
そんなことを知っていたら、昔高校を中退した自分に教えてやりたかった。
あの頃は進学するやつをバカだと思ってたし、中退したあと大工として同世代なんて比じゃないくらい稼いでたから、学歴なくたって稼ぐのは簡単だって思ってた。
だから大卒なんて、学歴があるだけで仕事のできない高給取りだって決めつけてたし、今もその節がある。仕事できない俺でも、大学を出たらある程度金がもらえるんじゃないかって――そんな甘い考えも、どこかにあった。
「綾香ちゃんがどんな企業に行きたいかは分からない。でも将来のキャリアを考えた時に、給料とかポストの頭打ちを理不尽に思うなら、大学に行ったほうがいいかなぁって私は思うね」
ズルズルと再びラーメンをすする七海を、俺たち二人は黙って見ていた。
なんて言えばいいのか分からなかった。
大学に行くか行かないか。まして、大学にあまりいいイメージがないであろう綾香ちゃんにとって、この話は……しんどかっただろう。
俺も……しんどかった。




