第三十五話:現実逃避の末の現実
「うわぁ。ファンデのパケかわいいな」
七海を引きずってきた俺は、少し離れた場所から綾香ちゃんを見る。デパコス前にいた時は完全に萎縮してたのに、ここでは好きに見て回れるらしい。
「まあ、自称シゴデキおばさんには、かわいすぎるぜ……」
“自称”と付けるあたり、笑わせようとしてるんだろう。実際シゴデキなのに、シゴデキに見えないこのキャラが笑いの味噌だ。
誰が信じるんだ。化粧品売り場で厨二病みたいな唸り声をあげてるこの女が、二十九歳にして主任、もうすぐ係長なんて囁かれるシゴデキ女だなんて。
「いっちゃん、なんか失礼なこと考えてない?」
「いや?」
勘の良い女は嫌いだ――と某アニメの台詞みたいに心の中で吐き捨てると、七海は綾香ちゃんの方へ歩いていった。
「これとこれも良いんじゃない?」
小さいカゴを持って化粧品を見てる綾香ちゃんに、許可も取らずにポイポイと商品を放り込んでいく。相変わらずだな、とため息が出そうになる。
「んじゃ、買ってきまーす」
七海がレジへ向かう。めちゃめちゃ入れてたけど、あんなに使うのかよ……。
綾香ちゃんも困った顔で、七海の後ろ姿を見つめていた。俺は気まずさを誤魔化すみたいに、軽く笑う。
それからというもの、服屋に寄っては可愛らしいパジャマと私服をポイポイとカゴに放り込み、何件か回る。ヘトヘトになった頃、ようやく七海サンの暴走が止まった。
「マック行かない?」
「マック行くなら、しゃぶ葉いこうぜ……。俺ら二人でも五千円超えるじゃん……」
一体いくら使ったんだよ、と言いたくなる気持ちは、爆買いが終わる頃には消えていた。俺も綾香ちゃんも、なんだか妙に楽しくなってきていたからだ。だがマックの提案に現実に戻された。
「綾香ちゃん、行きたいところない?」
七海がそう聞くと、綾香ちゃんがもじもじしながら口を開いた。
「回転寿司……行ってみたいです」
初めての綾香ちゃんからの提案に、俺たち二人は顔を見合わせてにっこり笑う。承諾したあと、俺は心の中でツッコんだ。
回転寿司行くと、二人なのに六千円飛ぶんだよね……。




