2-10 憤慨しているのは
ラムール様が? 私を呼んでいる?
リトの返事も待たず、ルティはリトの腕を引っ張り歩き出す。
「ル、ルティ?」
「ささ、ずーっとお待ちなんだから♪」
ルティはニコニコしながらリトを連れて行く。
そうだった。 ルティはラムール様の大ファンだった。
ま、いっか、と思いながらリトは半分引きずられていく。
ルティは3階にあるラムールの事務室までやってくると嬉しそうにノックした。
「ラムール様♪ リトを発見しました♪」
すぐに扉が開かれる。
「ご苦労様でした。 ありがとう。 ルティ」
ラムールが微笑みを浮かべて出てくる。
「いいえどうしたしまして!」
ルティは満面の笑みを浮かべて返事をする。
「ええ…っと、ルティ。 もう一つお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
ルティの満面の笑みに圧倒されながらラムールは口を開いた。
「何でも!」
ルティは間髪入れずに返事をする。
リトは思わず笑いたくなった。 ルティはシスター志望の真面目な娘なのだがラムールのファンなだけあって、この時ばかりはハイになって、いつものルティではないみたいだから。
笑いそうなリトに気づいたのかルティがこっそり肘でつついた。
「あ、ラムール様。 私に用事って、何でしょう?」
リトは笑いださないためにも慌てて口を開いた。
ラムールはちょっと意味深に首を傾げると、
「それよりまず、先に。 ルティ。 白の館の厨房の係員に、本日の夕食は白の館の食堂でするので席を二席、食事を二名分、用意して貰えるように伝えて貰えますか?」
と、先にルティに告げた。
「ラムール様がお食事なさるのですか?」
ルティが目を輝かせて尋ねる。 ラムールは頷く。
「わかりました! 食事とお席を2名分ですね!」
「ああ、それと、席は並びでありさえすればどこでも構いません……って」
ラムールが最後まで言い終わらないうちにルティはきびすを返して食堂へ駆けていった。
「監督係が廊下を走ってはいけないと思うのですが……ね、リト」
笑いながらラムールがそうリトにふる。
思わずリトも笑顔になる。
その時、ラムールの背後に白いものがちらりと見えた。
巳白だった。
そこでリトは思い出す。
「ところでラムール様、用事って……」
「ああ。 あなたの部屋の扉を使って陽炎の館の弓に会いに行って伝えて欲しいのです。 巳白は今日の夕食は白の館ですると。 それと――」
「帰りは歩きだから遅くなる、って伝えて貰えるか?」
ラムールの背後から巳白が言った。
「あいつらの事だからメシを用意して、俺が帰ってくるまで食べずに待ってる、なんて言い出しかねないからな」
ラムールの隣に巳白がやって来た。
正解だった。
まさに陽炎の館では巳白が帰ってくるまで夕食はお預けだと全員一致で話がついていた。
例外は幼くて我慢できない義軍だけ。 だが、義軍も「ぼくもまつ〜」とダダをこねていた。
なぜか佐太郎まで夕食を食べていく事になっていたので、彼も待つことになっていた。
「帰りは、歩き、なんですか?」
リトは思わず尋ねた。
巳白の羽にはもう拘束具はついていないようだった。
「ん? ああ。 ちょっと歩いてみたいって伝えてくれるか? 歩きもたまにはいい」
「巳白はいつも飛んでばかりですからね」
「足が筋肉痛になりそうっすけどね」
「アハハ」
ラムールと巳白は顔を見あわせて笑う。
見た感じ、二人ともまるで何事も無かったかのように話している。 そう、まるで巳白が一晩放置されていたことなんて無かったかのように。 少なくとも巳白の態度を見るからに全く気にしていないのは明らかだった。 憤慨しているのはリト達だけなのか。
分からない。
リトは正直にそう思った。